第2話
良子は、帰宅すると早速、小太郎を犬小屋に鎖で繋いでから、自転車を引っ張り出し
「おっと。財布、財布」
と部屋に戻って、財布をポシェットに入れて、母親の呼び止めるのも無視して、近所のデパートの中の書店へ。良子は、一雄の職業が、小説家と言った事に、疑いは持ってはいないが、大きな書店でないと、本の在庫がないかもしれないと思ったのは、良子にしては素晴らしい発想である。
半信半疑で良子は、定員に
「あのー、英一雄の小説って、ありますか?」
と、恐る恐る訪ねると
「ちょっと待ってください」
と、パソコンで探してくれて
「有りました」
定員さんに教えてもらうと、英一雄という作家の文庫本が、一冊だけあった。題名は、
「小説は事実より奇なり」
だ。
(嘘じゃなかったんだ。あのひとが話してたのは、ほんとうだったんだ)
良子が、手に取ってまず表紙の裏に書いてあるコメントを読んでみると、著者のことが。
(英さんって、45歳なんだ)
と、検討違いの思いが。そして、この本のあらすじは、
40歳代の中年男と、女子高生の話しだ。
(何か、私と英さんの話しみたい)
本の値段は、640円。その本をレジへ持っていくと、店員が
「カバーは、お付けしましょうか」
「お願いします」
良子は、文庫本を胸に抱き締めて、持って帰った。
「ただいま」
と言って、尻尾を振っている小太郎を無視して真っ直ぐ自分の部屋に入って、ベッドの上に座り、本のページをめくると、良子は不思議な世界へ。
そして、読み進むにつれ、良子は、勉強どころではなくなった。最も、勉強なんかするはずはないけど。その小説の世界は、まさしく一雄と良子の出会いそのものなのだ。
(これって、未来の私の話しかな?)
と、良子が思うくらいだ。
小説の中の二人の名前は、次郎と啓子だ。売れない小説家と女子高生が、一雄と良子のように公園で、しかも啓子の連れてきた犬に、次郎が噛まれるくだりまで、全く同じなのだ。良子は
(これって、私もこの小説の世界のようになるのかしら)
と、思ってしまう。良子は、続きを読むのが怖くなってきたが
(けど、読まないと先へは進めない)
良子が、恐る恐る次のページをめくると、次郎と啓子が会うシーンに。良子は
(そうだ、一雄さんに会って見よう。そうすれば分かるわ。だってこの本を書いたのは、一雄さんだもの)
決断すれば、一直線な子である。
木本良子16歳、高校一年生。眉が濃く、目は細くちょっとタレ目。身体は小さくて細めで、家から自転車で30分の普通科高校に通っていて、剣道部に所属している。
彼女は、看護師になるのが夢である。偶然、良子が乗っていた電車の中で、突然倒れた老人を、看護師が駆け付けて介抱している姿に感動したのである。
(私たちは、ただ見ているだけなのに)
看護師は、テキパキと冷静に、他の駆け付けた乗客に指示をしていたのだ。
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