第23話
「あ~らよっと。」
軽快な身のこなしで魔物を切り刻むニーナの様子をスマホでおさめていく日常。
疑問に思うかもしれないがそもそも魔物を殺すような動画をネット上にあげてよいのか?という疑問にはグレーという返事が答えになる。
俺も調べてわかったことだが本来ダンジョンを配信する行為は禁止されていたそうな。
ただどうやろうとも非日常が詰まったこの風景を観たがる人間は多かったし、禁止されるほどにそれを望むのが性というもの。
そこでギルドやらが様々な規制とルールを設けて配信を可能にしたというわけだ。
そのため求めない人間に魔物を惨殺するような動画は基本流れてこないようになっている。
見たい者が見る、この徹底が今を支えているらしい。無論限界はあるだろうがね。
「6階入ってから魔物の品ぞろえ?」
「顔ぶれとかだろ普通…店じゃねえんだし。」
「そうそれっす!それがめっちゃ変わったっすけど…なんかあんまり面白い奴はいないっすね。」
いま彼女が軽く倒してしまったのはスパークアルマジロという名の魔物だ。
名前に負けず電撃系の魔法を
彼女のスマホを見てみるとコメントがそれなりの数流れているようだ。
配信初日から数日、少しだけこの日常にも慣れたかという頃合いで段々と視聴者…ニーナがいうにはリスナーも増えてきた。
彼女がよく気にしている同時接続数という今俺達を見ている人数も2桁に突入、50人前後が今俺たちのやり取りを覗いているわけだ。
コメントが多いのは俺が拾って反応を返しやすいのもあるか。ほとんど傍観しているだけだしな、俺は。今来てるコメントは…
・スパークアニマル瞬殺はかなりガチ、やね。
・
ダンジョン配信者にも種類がある、俺達みたいに普通に攻略するタイプからアイドル売り、所謂戦闘ではなくドラマ性を作る場としてのダンジョンという選択をする配信者。
魔物の生態に重きを置いているタイプなど人によって個性が出るが昨今では倫理観的にもアイドル系は似非冒険者と呼ばれ嫌煙される傾向にあるらしい。
まあダンジョンなんていう命を懸ける場でお遊び気分で配信する人間に一般的には嫌悪感を抱かれてもおかしくはない。
その点で言えば俺たちの出だしはかなり好調といえるだろうか?
「ししょー、これ。結構高そうじゃないっすか?」
そう言いながら俺に見せてくるのはスパークアルマジロの体内にある発電器官…といっても内蔵のような生ものではなく魔法的な要素をもった石のようなソレだ。
コイツでスパークアルマジロは魔力の籠った電撃を撃っているわけだ。
3階で新人はアメジストフライを収入源にしているとするなら銅級、ニーナたちの収入源はコレになりがちだ。アメジストフライのそれとは価値が段違いだが。
金色の煌めきを見せるその石に配信でのコメントも増える。
ふうん?意外とこういう代物も見たこと無いヤツが多いのか?確かによく考えれば市場に出回るのは加工後の物が殆どだしな。
牧場のしぼりたてのミルクのような新鮮味があるかもしれない…ミルクと違ってこんな石食っても美味しくはないだろうが。
「6階にこれるならコイツ狩ってるだけで当分金には困らなくなるぞ、お前がそれを望むとも思えんが。」
「あったりまえでしょ!夢は億万長者ですよ億万長者!金があり過ぎて困るぐらいじゃないとダメっすよ!」
億万長者、わかりやすいが冒険者ならば不可能でもない。銅級、つまりは6階から10階までならまだ冒険者の数も多いが銀、さらに金まで行けば両手で数えるだけの冒険者たちしか存在しない。
当然そこにある魔物の素材に宝物、何もかもが独占し放題だ。とっちゃダメなんてカワイイ制止は存在しない。
素材も取り終えて6階の探索を再開する、特別に広いわけではないが視界を遮る木々に蒸し暑い気候が先を行く者たちの気力と体力を奪う。
「あ~…さっさと7階行きたいっすね…あつい…つーか11階行きたーい!この階層あっつくてキライっすよ!」
外套をパタパタ言わせて風を扇ぐニーナ、汗で張り付いた服と相まって図らずも扇情的な映像が全世界に放映される…いや視聴者はまだ50人しかいないのだが。
それよりも気になったが…コイツそのうち配信上で過激発言をして炎上するんじゃないかと感じてきた。
あらゆる面で無防備な彼女はBANというチャンネルの停止処分を食らうのも時間の問題だろう。
「ほらいくぞ、こんな所で立ち止まってても魔物が寄ってくるだけだ。」
「あ~い~。」
警戒を怠っているわけではないが…さすがに暑いな。
何かアイスでも食いたくなるような気分になるがダンジョンにコンビニは存在しない。
いや意外と面白いかもしれないなダンジョンでのコンビニ運営…無理か。
規格外の気候は俺の思考にも奇行を強いてくるな。
「お、あれスパちゃんでしょ!鍛冶依頼の足しにしてやるっすよ!」
スパークアルマジロ改めスパちゃんは目先の金に目が眩んだバカ娘にその肉体を狙われる羽目になった。
良くも悪くも弱肉強食、冒険者側が強ければ魔物であろうが奪われる側だ。
◆◇◆
鍛冶屋「漢気」にて。
「おじさーん!久しぶりー!」
「元気がいいな嬢ちゃん、比べてお前ときたらどうだグレイ。」
「っせーなジジイ。夜の8時だぞ、眠いんだよ。」
「ったく、儂より30は若いっちゅうに…情けないのう。」
ジジイは定年間近のくせに気力が有り余り過ぎなんだよ。
「今日はさあ、おじさん!配信もうまくいってね!」
「おぉそうかい。よかったねえ。」
ニーナとジジイの関係はまさしく孫とジジイだ。たった1年で俺よりも仲良くなったようで最近は会うたびに俺がオマケみたいな扱いを受けている。
「儂ははいしん?ってのはよくわからんが無理はするなよ嬢ちゃん。特に8階からは危険度が増すっちゅうからなあ。」
「へえ~?なんか危ないんだ?」
「おう、儂も行ったわけじゃないからよ、わからんが…なんぞ死亡率が高いっちゅう話だ、嬢ちゃんも気を付けな。」
「俺には言ってくれねえんだなジジイ。」
「男の嫉妬は見苦しいぞグレイ。それにお前は死ぬことが無かろうが。」
最近は辛辣さに磨きがかかっているように感じる。鍛冶屋なだけあって言葉の切れ味も鋭い。
「それで今日は鍛冶依頼を…」
ようやく本題、といっても適当に消耗した短剣を新しく打ちなおして貰うだけだが。
6階に入って新しく入手した鉱石やら魔物の素材やらとジジイとニーナがあれこれ相談している間、暇つぶしに店頭に並ぶ武器を眺めていた。
軽戦士御用達の短剣に重量級の戦士が使う両手剣やハンマー。
槍や銃に加えて…銃剣。
今では武器としてもそれなりにメジャーになったその見慣れた武器に目が惹かれる。
彼女が使っていた時と比べて構造も改良が加えられ、取り回しだって格段に良くなっているようだが…それでもこの武器のもつ浪漫は変わらない。
若干の感傷に浸りながら孫とジジイのやり取りをただ見つめ続けていた。
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