第13話
「もういいだろ、許してくれよ。」
「いや見てくださいよここ!何すかコレ!私には教えてくれ無かったじゃないっすか!!」
「別にできなくったっていいじゃんかよ。」
「明らかに映えるじゃないっすか!!」
小洒落たカフェにて全然洒落てない恰好の二人が騒いでいた、いや騒いでいるのは目の前の馬鹿だけなので俺を同罪にしないで欲しいが。
「この短剣を空中にポイポイってする奴教えてくださいよ!」
「教えることなんてねーよ、空中に投げりゃあいいじゃん。」
「舐めたこと言ってんじゃねえぞ…ですぞ。」
感情が先走って変な口調になってしまっているニーナは放って特製ブレンドコーヒーとやらを啜る。
うーん…よくわからないな。コーヒーの味の違いってやつが未だによく分からん。
「ほら!どんどん再生数上がってますよ!」
「へえ…。」
俺の戦闘シーンが切り抜かれた動画は数万再生ほどになっていた。これがどんなものなのか知らないがニーナの様子を見るに多い方なのだろうな。
「ってことはなんだ?俺が雑魚相手にイキってるのが大勢に見られてるってことか?なんとか削除できねえのその動画。」
新人冒険者の命を救うためとはいえ元々金級の冒険者である俺がスレイプニル如きを倒してる様子は見る者が見れば…考えるだけで恥ずかしくなってきた。
「イイじゃないですか!カッコイイですよ?」
「…そうかよ。」
もういい加減この話題は辞めよう、俺の精神衛生上よろしくない、…と思って店を出ようとしたのだが。
「「やっと見つけましたよ!!」」
話題の張本人と呼べばよいのか何なのか。昨日助けた新人パーティ4人が店を出ようとする俺達二人の壁になるがごとく立ちふさがってきた。
「あぁ…蘇生も成功したの、よかったな。」
「「おかげさまで寿命も2年しか減りませんでした!!」」
そう言って神官らしき装いをした少女と前衛職らしいがっしりとした体形の男が頭を下げてくる。なんとまあ清々しい一礼だろうか。親の教育がしっかりしてるんだろうな、こういう奴は。
それにあんだけ死体の状況も良ければ回復魔法の代償も少なかろう。寿命2年は死んだにしてはかなりマシな方だ。
「あー…俺たちこれからダンジョン行くからさちょっとそこどいてもらってもいいか?」
「いやいや!何言ってるんですか!命助けてもらってお礼の一つもできないようでは冒険者として、いや!人として失格です!!」
彼らのリーダーだろう青年がそれはもう必死で食い下がってくる。彼につられるように周りの3人もぶんぶん、ぶんぶん脳みそがぐちゃぐちゃになってんじゃねーのかってくらいに頭を振る。
「いいんじゃないですか?ししょー。別に無理してダンジョン行かなくったって、今日ぐらいご厚意に甘えたら。」
「俺はそういうの苦手なんだよ。」
それからなんと2時間、そう驚くことに2時間も彼らとのすったもんだのお礼するしない合戦を繰り広げた。
誰がどう考えたってスレイプニルよりも強敵だった。
◆◇◆
「お、
「なあ、マジで頼むよ。もう今日は顔見知りに会うたびに弄られて散々なんだ。SNSどころか世間に疎いであろうお前だけが俺の頼りだったってのに。」
贔屓にしている薬屋、その店主である魔女のような姿をしたマリンダにすら揶揄われる始末。
配信者ってのはこういうのが日常茶飯事になるんだろうか?だとしたら俺はとてもじゃないがやってけないね。
「いつものアレくれ。エナドリ。」
「はあ?まさかアンタそれだけ買う気?」
信じられないという言葉が顔に張り付いている彼女。エナドリ買おうとするたびにコレなんだよな。
「いいだろ?今日ストレスたまってんだよ。」
「ったく、そういやニーナちゃんはどうしたのさ。」
「あん…?アレ何処行ったんだアイツ。」
気が付けば今日一日、というよりは毎日毎日ダンジョン以外でも俺に引っ付いてくるコバンザメ娘が忽然と姿を消していた。
「連絡したらそのうち返事来るだろ。」
「適当だね、アンタはいつも。」
「それがうまく生きてくコツってね。」
「ハッ!よく言うよ。過去に囚われ続けてるくせに。冒険者だってアンタ本当は…。」
「さっさとくれねーか?エナドリ。」
話の長くなりそうな魔女の言葉を遮って店を出る。
カランカランとドアに取り付けられたベルが小気味良い音を立てながら退店を伝えると俺の目の前には馬鹿が立っていた。
「何やってんだ?お前。」
「何って見てわかるでしょ、ししょー。」
見てわかるという彼女だったがどこからか拾ってきたお手玉を5個、街中の往来でジャグリングしている変質者を見て何を理解しろというのだろうか。
なんなら俺と話している間にも辞める気配がない。
「理解したくねえこともあるんだ。自分の教えてる新人が救いようのないアホだってことをな。」
「なにいってんですか!っとと…、練習ですよ練習!」
「せめて時と場所を考えねえか?」
およそ半年以上の付き合いからなんとなく彼女の人となりは理解している。
陽気で人とのかかわりに積極的。そしてなにより配信者を目指すほど…派手好き。
人目を惹く、あるいは衆目の真ん中に立つような行為を好む承認欲求の塊である彼女との関係は時々俺まで巻き込まれるのが玉に瑕だ。
「ダンジョンの中でやれ、んで魔物に見てもらおう。拍手喝采はもらえんだろうが。」
「隙間時間を無駄にしたくないんです!」
「なんでこういう時だけやたらと勤勉なんだよ…。」
既に若干の
◆◇◆
「よっ…と。うーん難しいっすねえ。」
「大分マシにはなったんじゃねえの。」
ダンジョンに来てからというもの、ニーナはなんとしても新技を習得するべく4階の雑魚相手に猛特訓を繰り広げていた。
「結局慣れだよ、慣れ。何事もな。」
「さすがに一日は無理っすか。」
「俺も1週間ぐらいかかったか?それと比べりゃあセンスはあるね、間違いなく。」
ニーナにはああだこうだ言ったが俺も他人のやってるのを見て真似したクチだ。俺なんざ短剣の切っ先の方を握って手が血だらけになったからな。
そういうミスが無いだけ運動センスがあるんだろう。
「すぐに追いつかれちまうな。」
「何か言いました?」
「何でも。」
誰に聞かれるでもない呟きはボス魔物の住む階に挟まれたオアシスのようなそこで露となって消えた。
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