第10話

「うーんやっぱり撮っとけばよかったっすね、私の美しすぎる勝利を。」


「美しいかは知らないがそれなりに見られはするだろうな。」


 飯所「宴」にて今日も俺たちは朝食に箸をつつく。


 今日の朝食もいつもの白米とトゲアサリの汁物セット。


「新人のスレイプニル討伐なんざ珍しいわけでもないが…、ソロってのは数が少ねえだろうよ。需要はあんじゃねーの。」


「それにこのカワイイ顔があれば視聴者は鰻登りっすよ!」


「性格の面で損してるよな、おめーは。」


 自分で言ったら台無しだろうに。いや、そこも含めての魅力なのか?


 配信者という側面で見ればキャラクターとして優秀なのかもな。


「それよりししょーは見ました?ミーシャの配信。」


「ん?ああ8階行ったんだっけ?あの娘。昨日は俺もすぐ寝ちまったからな。つーかスレイプニル倒した後でミーシャの配信追っかけてたのかよお前。」


「はあ?あったりまえでしょ。友達の配信なんてししょーが死んだりしない限りふつー見ますよ。」


「そんなもんかね。」


 ズズズっと赤みその効いた汁物を啜りながら信じられないものを見るような目で見つめるニーナに適当な返事をよこす。


「ミーシャの配信はどんどん人気になってるんすよ?私もそろそろ頑張らないとどんどん差が開いちゃうっすよ。まあ命優先でやるっすけどね。」


「そーそー他人と比べてもキリねんだから、お前のペースでやってくれ。生き急いで死にましたなんて聞きたくねえよ。」


「でもやっぱソロ配信の方が人気あるんすよね、なんかパーティ攻略組と比べて…わかんないんすけど。」


「さあな、配信の需要は俺に聞くな。もっといい指導者ってもんがいるんじゃねーの。」


 ちなみにソロ配信で一番の人気を博しているのは15階攻略済みの金級冒険者だったりする。


 ソロで金級なんて数える程度しかいない事を思えばの人気も頷けよう。俺も面識はあるが…友人にはしたくないタイプとだけ言っておこう。


 しかし配信者ねえ…今ではダンジョン攻略と合わせた一攫千金の夢を目指した志望者が後を絶たないと聞く。


 とはいえ3階がああなった以上1階2階でうろついている駆け出しを見る機会が増えたのは必然か。ただ3階に行く前に遭遇して視聴者稼ぎにウザがらみされると鬱陶しい事を思えば個人的には消えて欲しいと思わなくもない。


「んで?今日はどうするんだ?3階うろつくのかそれとも4階に行くのか。」


「4階行くに決まってるじゃないっすか、さすがにもう3階は飽きたっすよ。」


 命大事にを学んで以降は3階に囚われているフシのある彼女だったがスレイプニル討伐で流石に見切りをつけたらしい。


「ま、アレ倒しておいて4階で苦戦することなんて何もなさそうだがね。」


「こーゆーこと言うとししょーにどやされそうっすけど私も同感っすね。ていうかアレ以上が4階にいるならちょっと絶望するっすよ、私。」


 基本的にボス格の魔物は強さが頭5つ分ぐらい抜けている。タフさも厄介さも何もかもがだ。


 逆を言えばボス格魔物を討伐できるならそこから先、数階は余裕をもって攻略できるという実力の証明にもなる。


 大抵5の倍数で居座っていることの多い奴らだがなんせ事情が今は違う。5階の新ボス魔物がいかなる相手か…俺もちょっと気になっている。


「ていうかししょーはいつになったら最高到達階を教えてくれるんすか。」


「んー?内緒。」


「いっつもソレ。ギルドが出してる冒険者ランキング的に金級以上なのはわかるっすけど…それ以外ぜーんぜん教えてくれないし。」


「教えたらお前に抜かされたときに絶対煩いのが見えてるからな。その予防だ。」


「そう聞くとすっごいダサいっすねししょー。」


 教えると其処を目指して突っ走っていきそうで怖いんだよ。お前は。


「でも久しぶりにししょーが戦ってるとこ見たいっすよ。」


「ん?別に時々俺も戦ってるだろ、小銭稼ぎに。」


「いやそうじゃなくて…なんて言えば良いんすかね。ちゃんと戦ってるところっす。」


 ちゃんとってなんだ、ちゃんとって。でも確かに昨日のニーナのような命を懸けた死闘なんてもういつぶりだろうか。


 第一隠居する予定だったうえに指導者になったとしてもうろつくのは大抵1~5階。


 ボス格のスレイプニルも別に苦戦するほどの相手でもないしな。


「でも俺が戦うタイミングってのが無いだろ。」


「じゃあ私が新人卒業したら一緒にダンジョン攻略しましょうよ。」


「それはやだ。なんかお前と一緒に攻略してると配信関係がめんどくさそうだし俺はもうが無いんだよ、が。」


「イイんですよ、熱なんてなくて。ししょーがいることで私の熱がアガるんですから。」


「なら余計にお断りだな。」


 やいやいと飯屋の喧騒の一端を担いながら朝食会は恙なく終わった…と思いたかったが店を出たあたりで俺の見たくない顔世界一位を連続受賞している男、ジンとばったり出会ってしまう。


「おや、今日も仲良さそうじゃない。グレイにニーナちゃん。」


「あ、ジンさんどうもー!」


「うーわ…。」


「どうした?グレイ。お前の朝の挨拶ってそんな聞くに堪えないうめき声だったか?」


「お前だけの特別製だ、嬉しく思えよ。」


 なんで朝からこんなシケたツラ見なくちゃいけないんだよ。今日の星座占いは12位だったか?


「今日もこれからダンジョンかい?」


「そうだよ。つーか珍しいな、お前がこんな時間に外にいるなんてよ。ギルドで詰められてるか夜勤明けでグッスリなんじゃねーのかよ。」


「ちょっと野暮用でね。そういやニーナちゃんとも結構長いだろ。そろそろの相手も見繕ってやらねーとな。」


 スゲー誤解されそうな言い回しな上に…なんだ次って。俺はもう指導者もやりたくねえんだよ。


「次?次ってどういう意味っすかししょー!もう新しい女を見つけたっていうんすか!?私はもう用済みってことっすか!?」


「あー…もう止めろ辞めろ!!ニーナも分かって悪乗りしてるんじゃねえよ!周囲の視線が痛いだろうが!!!」


 ノリがいいってのも考えもんだ、すぐに調子に乗りやがる。ただニーナともそろそろ関係は終わる。勿論交友は続くだろうが…寂しくなるな。


 楽しそうに笑う彼女を見据えて生まれた感傷は街の賑わいの中に埋もれて消えた。


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