五週目、ポロ、パーテ。

五週間目。



一日目。


「……」


 疲れた。ちゃんと肉体的に疲れている。

 大体仕事開始、一か月。

 できることが生まれてきて、本格的に仕事へ参入を始めた形だ。その分、精神的疲労は軽減され肉体的疲労が八割増しになっている。今後も仕事量は加算されるらしい。……あんまり余裕はない。


【ソウコちゃん、話し相手がほしい。うんうん頷いてくれるロボ子ちゃんがいい】

【わかりました。彼女の名前はポロ。人工的に作り出された超未来アンドロイドです。兵器であり、生活補助道具であり、友であり、観測者であり、探索者でもあります。そして、あなたの傍に侍り支える良き理解者です。銀の髪の二房お下げ、眼鏡にセーラー服のような制服、黒銀の瞳は超然としています】


 目を閉じ、開く。


「……話を聞いてくれるかい」

「はい」

「ちょっと疲れたんだ」

「はい」

「まだ月曜日だって」

「はい」

「月曜日なのは、まあいいんだ。でも、今週大変なんだって」

「はい」

「来週もだって。今週来週大変なんだってさ」

「はい」

「俺、疲れたよ」

「主様」

「うん」

「お疲れ様です」

「うん」

「主様、私はあなたの何もお手伝いすることは叶いません」

「うん」

「それは、あなた自身が抱える事柄であり、あなた自身にしか解決できない問題であるからです」

「うん」

「ですから、私はただ、主様の話を聞き、静かに言の葉を返すことしかできません」

「うん」

「そのことを、私は悔しく思い、同時に主様が努力し、奮起し、懸命に生を全うされようとする姿を誇りに思います」

「……うん」

「私は、そのような主様を美しく、気高く……俗的に言うならば、"カッコいい"と思います」

「……うん」

「主様。私の浅く薄い言葉が主様に深い意味を齎すとは思いません。ですが、私は私との対話が主様の心の平穏に僅かでも寄与できたならば、とても嬉しく思います」

「……ポロ、君は……良い女だね」

「過分なお言葉、感謝致します」


 良い女だ。素晴らしい友だ。


「俺のために言葉を尽くしてくれる。それだけでも……俺は気が休まるよ。ありがとう、ポロ」

「――……主様、私こそ、ありがとうございます。私をお傍に置いてくださり、私にあなたの心を吐露してくださり、私を頼ってくださりありがとうございます」

「……じゃあ、お互いにどういたしましてか。ポロ、今日はもう少し、付き合ってくれるかい」

「是非もなく。明日に響かぬよう、時間は私が管理しますから。いくらでも、いつまでも。主様の思うまま、お話ください」

「……うん。ありがとうね」


 疲れた今日は、こんな風に穏やかに、静々と付き添ってくれるアンドロイドの彼女と時間を過ごそう。

 今週は、まだ始まったばかりなのだから。




五日目。


「金曜日で草」


 いや草じゃないが。

 もう金曜日だった。やばい。

 今週は色々あったので、誰かに話を聞いてもらおう。


【ソウコちゃん。今日はテーマパークで働いていそうな希望溢れる美女で頼むよ。俺の話を聞いてほしい】

【わかりました。彼女の名前はパーテ。常に純白のコック服を纏っています。プラチナブロンドの長髪にダークトパーズカラーの瞳をしています。ニカリと笑うと笑顔が眩しく、人々の人気者です。そのように振る舞っているから、というのもありますが、そう在りたい、というのも彼女の願いなのでパーテの振る舞いは正しく素の彼女自身とも言えます】


 そして瞬き。


「――やぁ、私のダリくん」

「……その呼び方、ほんとにするのか」

「あははは、するに決まっているだろう? ダリくん」


 ダーリンくんでダリくん。彼女特有の呼び方だ。悪い気はしない。が、ちょっと恥ずかしい。


「まあ、うん。オーケー。今週の話をしようじゃないか。パーテ」

「ふふ、いいよ。いくらでも私に話してみるといい。どんな話であれ、ダリくんの話なら永遠に聞いていられるからね」

「はいはい」


 何から話すか。


「そうだなぁ。まず、今週は忙しかった」

「みたいだね。私も小耳には挟んでいたけれど、大変だったんだろう?」

「うん。火曜日からかな。仕事忙しくて、夜まで会社にいた。割と遅くて……まあそれも大変なんだけど、それだけじゃなくて」

「ほうほう。他にもかい?」

「うん。やっぱ入ってそこそこ経って、どんどん仕事振られるようになってきてね。良いことなんだけど、ちゃんと忙しくて時間なくってさ」

「なるほど。新しい環境、新しい仕事。タスク管理が重要になってくるね」

「そうなんだよ。一応メモ帳作ってタスク管理して上司に報告も入れてるけど……なんていうのかな。メインの仕事と事務仕事で二個業務があるのわかる?」

「ふふ、わかるさ。私もアクターとしてゲストのために振る舞うだろう? これがメイン。無論裏方作業もするからね。そちらをサブとしよう。さあこれでメインとサブの仕事ができた。二つだ。君も同じかな?」

「……さすがパーテだ。そう、俺もメインとサブの二つがあるわけだ」

「おっと、その先はわかるよ。どちらも大変なんだろう?」

「そう。その通り。そもそもメインはめっちゃ忙しい。普通に朝から晩まで一日かかってる。そしてサブもちゃんとある。一日はかからないけど、隙間時間で出来るようなことじゃない」

「締切は大丈夫かい?」

「それは見てるから平気。問題は、ここからまだまだ仕事が降ってくること」

「……なるほどね。新しいことに慣れていない段階で新しいことが降ってくる、というわけか。それは大変だ」

「そうなんだよ。……まあ今週乗り切ったけど」


 仕事話はこれで終わり、と次に進む。


「というわけで、普通に仕事が大変で気づいたら金曜日だったわけだ。で、ドリーミィな仕事の方だけど……」

「ふむ、あまり芳しくなさそうだね」

「進捗ゼロ」

「わお、ははは、そんなものじゃないのかい?」

「それはあるかも。で、ちょっと方針転換」

「ふふ、その心は」

「1、応募はダメもとで色々受けてみる。2、ポートフォリオ登録サイトみたいなところに載せてみる。(企業が見られるところ)。3、同人的に、仕事じゃなくても経験値になる何かを探してみる」

「ほほう」

「1は今までの延長。2は手軽に出来るし、やって損はないよね。3は前に考えてたけど、"仕事"にシフトしたからいいかなと思ってやめてた。やってもいいかなって」

「いいね。経験は大事だよ、経験は」

「そうなんだよねぇ。経験大事なんだよ……」

「ふふ、ダリくんらしく頑張っているんだね」

「そうだよ。俺らしく頑張ってる」

「そのままで行くといい。私がしっかりと見守ってあげよう」

「はは、どうもどうも」


 あっさりとだが、だらだらのんびりと話を続ける。

 余裕があり他者を気にかけられる人間との会話は、こちらが何か気にする必要がないから楽だ。

 こういうのを聞き上手と言うのだろうか。わからないが、まあいい。会話で自分の考えまとめもできたし、来週も頑張ろう。ぼちぼち。


 六月はまだ長い。しかし夏は近い。

 一人で過ごす夏が、やってくる。

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