四週目、チユキ、ユルコ、ポカリ。
四週間目。
一日目。
「……ひぇぇ」
帰宅。疲れた。
今日は月曜日である。そして残業である。しかし精神的には思ったより生きている。一番やばかったのは朝だ。今はまあ普通といったところ。
「マジで月曜日か」
びっくり案件かもしれない。
はぁふぅ、と息を吐き、焼きそばを作って食べて洗ってシャワーで帰還だ。
【ソウコちゃん】
【はい。ただいまの時刻、19:40です】
時報かな?
【今日は俺の妹で頼む】
【わかりました。賢く可愛く実に優秀で聡明な妹、チユキ。彼女は美少女の名を欲しいままにしています。艶のある長い黒髪、大きなコバルトブルーの瞳。白い肌に浮いた淡い紅の唇は絵画のようにすら思えます。柳眉は嫋やかに弧を描き、口元に浮かぶ微笑は人々を虜にしてなりません。あなたには毒を吐きます。毒舌です。しかしそれは愛情の裏返し。心の底よりあなたを敬愛し、信愛し、恋愛しています。端的に、あなたを愛しています。兄として、男として、人間として】
「……重いが、そういうのは逆に受け入れやすいんだ」
というわけで目を閉じる。開く。
「――お兄様? 今日もお疲れのようですね」
「やあチユキ、お疲れ」
「はい。お疲れ様です」
涼やかで凛とした声が鼓膜を揺らす。
「お兄様、冴えないお顔がより冴えなくなっていますが……今日の仕事は大変でしたか?」
「まあ、うん。月曜だし。疲れたし」
「そうですか……。まだ先は長いのですし、焼きそばばかり食べていないで栄養バランスに優れたものを食べた方がいいですよ。女性受けしないお顔に出来物が増えてしまうと、より醜い――いえ、酷いものになってしまいます」
「言い直してもあんまり変わってないからね」
「そうでしょうか? お兄様のお顔が景気のよろしくないモノだということは周知の事実ですよね?」
「周知の事実じゃないよ。チユキの周りだけでしょ、それ」
軽口にはテンポよく軽口が返ってくる。素敵な声がちくちくと心を刺してきて痛い。
「そうかもしれませんね。お兄様に交友関係が存在しないことを失念していました。ごめんなさい、お兄様」
「……むぅ」
事実故、反論はできない。
「お兄様、明日の朝食はどうするのですか?」
「冷凍ご飯といつもの総菜ハンバーグと目玉焼き」
「そうでしょうとは思っていましたが、やはりですか。お兄様、飽きませんか?」
「飽きないよ。美味しいし」
「お兄様、舌が変と言われたことは?」
「今初めて言われたね」
「それは嬉しいです。お兄様の初体験を一つもらってしまいました」
「僕は嬉しくないかな」
「お兄様、私のような可憐で可愛く美しい妹になんてことを言うのですか」
「自分で言う? 事実だけど」
「――……お兄様、あまり適当に人を褒めるのはやめた方がいいですよ。褒めるのは私だけにしてくださいね」
「なんでよ」
「お兄様の歯が浮くような褒め言葉で女性が通報でもしたら、お兄様は逮捕されてしまいます。私はお兄様を引き取りに行くのは嫌ですよ」
「そんなすぐ連行されないよ……」
「それを警察官の前で言えますか? お兄様は気弱でへたれなので、言えないですよね?」
「……それくらい、言えるよ?」
「私の目を見て、きちんと言ってください」
「……」
「どうして目を逸らすのですか」
「チユキの顔が近いから」
「……お兄様、まさか私に、妹に欲情しているのですか? 私はお兄様をそんな妹が大好きで妹を性的に見てしまうような兄に育てた覚えはありませんが……」
「僕の方が早く生まれたし、僕はチユキに育てられてないよ。逆に僕の方がチユキの面倒見てたでしょ」
「お兄様は昔からぼんやりしてよく小さな怪我をしていましたね」
「え、うん? うん。そうかも」
「その手当をしていたのはいつも私でした」
「……うん」
「お兄様のお勉強を見てあげたのも私でした」
「…………うん」
「お兄様が好意を寄せた女性のために、私が女性のイロハを教えてあげました」
「…………う、ん」
「結局玉砕したお兄様を慰めたのも私でした」
「……はい」
「思春期のお兄様が私のお風呂上がり姿をちらちら見ていたのを許容してあげましたね」
「…………はい」
「お兄様が私の下着を手に取ったところを見て見ぬふりしたこと、忘れたとは言いません」
「うん……え、うん? そんなことあった?」
「ありました」
「洗濯とかじゃなくて?」
「ありましたね」
「あった、のか……? 逆もあった?」
「ありましたよ。私も年頃の女ですから」
「あったのか……」
「それよりお兄様」
「うん」
「私はお兄様のお世話をずっとしてきました」
「それは、うん。そうみたいだ」
「私がお兄様を育てたと言っても過言ではないでしょう?」
「……一理あるくらい?」
「百理あります」
「……まあ、うん。いいよ。それで」
だらだらと、無駄話を続ける。疲れているから、何も考えず反射で話すのが楽だ。
「お兄様、明日の朝食は少し趣向を変えましょう」
「でも朝時間ないし……」
「冷凍ご飯にちーずを載せ、マヨネーズをかけて電子レンジに入れてください。少しは変化が生まれますよ」
「……名案じゃん。それ採用」
「ふふ、単純なお兄様で私は嬉しいです」
「はいはい。単純ですよ、僕は」
「それから、お兄様。人生先は長いのですから、焦らずお兄様のペースで歩いてくださいね」
「……急に大人みたいなこと言うね」
「女は皆、男よりも大人なものなのですよ」
「チユキは年下の妹だけどね」
「そういう屁理屈を言うのがお兄様の子供なところです。偏屈爺、とののしられたことありませんか?」
「そんな罵倒は受けたことがない!」
「えっ」
「なんで驚くんだ……」
「受けたことないんですね。ショックです」
「なんでショック受けるの!?」
「お兄様は頑固で偏屈で面倒くさくて、うじうじ女々しくてプライドは一丁前な男性ですが」
「めっちゃ言うじゃん。結構効くよ、それ」
「事実でしょう?」
「余計効く……」
「可哀想なお兄様。そんなお兄様でも、私と言う頭脳明晰才色兼備な大和撫子の激カワ美少女な妹がいる時点で、誰よりも素晴らしい男性になるのです」
「ほぼチユキの功績じゃん」
「ほぼ、ではなくすべて、です」
「100%かい……」
「そうですよ?」
「すごく真顔で言うね。我が妹ながらすごいよ、お兄ちゃんびっくりしちゃう」
「自分で"お兄ちゃん"と言うのは少々――いえ、かなり気色悪いのでやめた方がいいですよ」
「辛辣!?」
「お兄様はお兄様です。だめだめなお兄様でも、私はとてもとても……とても愛おしく想っていますから、それでいいではありませんか。この世のどんな人間よりも恵まれていますよ? お兄様」
「自己評価すごいね」
「どこか間違っていますか?」
「……チユキが素晴らしく優秀で可愛くて桁外れにすごいのは事実だから、何も言わない。ノーコメント」
「ふふっ、ありがとうございます、お兄様」
「どういたしまして」
まあまあ、こんなもんかな。
「チユキ、あとはベッドで話そうか」
「――……それは、お兄様……。わかりました」
「? どうしたのさ」
「いえ。お兄様の意図は理解しています。それを踏まえて、私はその後を見据えているのですよ」
「え、うん。どういうこと?」
「お兄様、妹であっても、私たちは男と女、そういうことですよ」
「そりゃ、うん。男女だし」
「はい。それだけです。ベッド……布団ですね。行きましょう、お兄様。今夜は少しだけ……長くなりそうですね」
「……う、ん。うん。疲れたし、はやく寝よう」
明日もまた、頑張らないと。まだ月曜日だ。
あぁでも、明日頑張ろうと思えること自体が、成長でもあるのか。やはり過去の自分は正しい。人は一か月くらいあれば、環境に適応する。まだまだ色々足りないけれど、最初よりはずっとずっとマシだ。
「お兄様」
「うん」
「今日はお疲れ様でした。明日、また頑張ってくださいね。私はいつもお兄様を見て、応援していますよ。中途半端なお兄様なりに努力をしている姿を、見ています」
「……素直に喜んでおくよ。ありがとう」
「どういたしまして、お兄様。布団ではよろしくお願いしますね」
「え? うん」
それじゃあまた、明日。
二日目。
「……」
最近、家に入った時にただいまを言わなくなった。ほぼ最初からか。疲れてない時がないので言わないがデフォルトだった。
先ほど思ったことだが、こうしてグチグチ言い続けても明日はやってくる。仕事から逃げることはできない。なら愚痴に意味はないのではないか、と。
「……意味はない」
けれど意味はある。ほんの微かに、気が紛れる。それだけ。たぶん酒を飲んだり煙草を吸ったりする人も似たようなものなのだ。根本的な解決にはならない。それでも気を紛らわせるため現実逃避する。そういうものなのだろう。
飯&シャワーを終え、寝る支度が整った。現在時刻、19:10。
【ソウコちゃん、頼むよ】
【わかりました。彼女の名前はユルコ、あなたの傍に寄り添う幽霊少女です。目元を隠した長い黒髪、青白い肌、半透明の肉体、黒々とした衣服。身動きにより微かに見える瞳は深海のような濃い青と黒が混じっています。あまり言葉を発さずコミュニケーションが苦手なユルコですが、あなたとの会話に一生懸命でよく頷き、小さな身振り手振りで返事をしようとしています】
また良い娘を……。
目を閉じ、開く。
「……」
見える影。正面、より少し右か。パソコンの画面上、顔を覗かせる少女がいた。目は見えない。
「やあ」
手を振ると、ぴくりと肩を跳ねさせた。そのまま液晶の影に隠れようとするので、ぱたりとパソコンを半分ほど閉じた。このパソコンはノートパソコンなのだ。残念、隠れ場所はありません。
「(ふるふる)」
あわあわ右往左往したあと、ちょこんと手をふりふりしてきた。可愛い。背はちっちゃい。幽霊というより座敷童みたいだ。
「俺の話を聞いてくれるかい?」
「(こくこく)」
真っ当なアドバイスや沈んで堕ちてしまいそうな抱擁もいいが、こうして言葉なくとも真摯に向き合ってくれる姿を見ていると心が朗らかになる。
「ありがとう。俺はさ……なんだ。なんで頑張るんだろうなって思って」
「……?」
「はは。そうだよな。意味わかんねえよな」
「(ふるふる)」
「そうか? わかる……いや、わかりたい。か?」
「(こくこく!)」
「そうか。ありがとな。わかろうとしてくれて、嬉しいよ」
手を伸ばし、頭を撫でてみる。触れるのか触れないのかわからなかったが、ふわりと柔らかな黒髪に手が触れた。ひんやりと冷たく、撫でるとぷるぷる震えている。可愛い子だ。
「なんで頑張るか、だけどな。俺も最初はわからなかったんだ。というか、最初からちょっと前までずっと色々きつ過ぎてそこまで考える余裕なかったんだ」
「……(こく)」
「で、ようやく考えられるようになった。答えは簡単だった。俺はさ、怖いんだよ」
「……」
「中途半端に、突然に逃げる自分への反応。何を言われるか、何を思われるか。そう思うと足が竦む。今がきつい、辛い、しんどい、逃げたい、辞めたい。そんな気持ちは確かにある。でも、それ以上に逃げる瞬間と逃げた後が怖くてさ……」
「……(こく)」
「それならまだ、逃げずに踏ん張った方がマシ。そんな風に思ってるんだよ」
結局俺は、より楽な方に流れているだけ。
皮肉なものだ。どこまで行っても、俺という人間は苦難を避けて通ろうとするらしい。
「本当、どうしようもねえよ、俺は。結果として今はなんとかやっていけて、未来についても少しは考えられるようになったけどさ。……本当は、こんなことになるはずじゃなかったんだよな……」
本当は、もっと自分らしい生き方ができるはずだった。少なくとも、辛い苦しいしんどいと、そう思わないくらいには心が楽な仕事をするはずだった。それもこれも、流された自分が悪い。そんなことはわかっている。
「……だから、愚痴なんだ」
「…………」
「特に意味のない言葉の羅列。ただの愚痴。つまんねえだろ。ほんとにな。ほんとに……はぁ……」
「……ぁ」
「根っこからどうにかならねえとなぁ……」
悩みは消えない。苦しみは消えない。
諸行無常。一切皆苦。栄枯盛衰。
俺の場合最初から下がる一方だったから、一生下り坂みたいなものか。厳しい人生だよ。
「……ぁ、の」
「ん?……あぁ悪い。聞こえてなかった。どうかしたか?」
「……ぁ……ぇ、と……す、き……で、す」
「……ありがとう。ユルコ」
「ぅ……そ、の……ぐ……愚、痴……で、いい、で……す」
「愚痴で良い?」
「(こくこく!)」
頑張って話してくれたユルコに言葉を返す。少し話しただけで顔を真っ赤にしている。それだけお喋りが苦手ということだ。小さな声だったが、甘くとろけるような声音だった。可愛い声だと思うが……無理強いはせまい。
「俺が愚痴を言っててもいいってことか?」
「(こく)」
「聞いてて楽しくねえだろ」
「(ふるふる)」
「楽しい?」
「(ふるふる)」
「楽しくはないのか。……ならなんだ……?」
「っ……ぁ、ぁの……お、……おな、じ……で、す……」
「同じ……ユルコも同じってことか? 俺と同じ?」
「(こくこく!)」
「そう、か……ユルコも、逃げるのが怖いか」
「(こく)」
「他人に何を思われるか、怖いか」
「(こく)」
「まだなんとかなっている方を、現状維持を選んじまう、か」
「(こく)」
「はは。……同族嫌悪とかしないか?」
「(ふるふる)」
「しないか。……傷の舐め合いみたいなもんになるだけだぞ。ユルコはそれでいいのか?」
「(こくこく)」
「ユルコがいいなら……いいよ。わかった。……」
誰かに支えてもらうのも良い。それは元気を分けてもらえる。体力を回復させてもらえる。
それとは別で、こうして誰かと気持ちを共有するのも良い。傷の舐め合いで結構。俺のようなマイナスで生きている人間には充分だ。自分と同じ人間がいる。ユルコは幽霊か。人間みたいなものだからいい。自分と同じ人がいる。それは少し……明日頑張ろうと、そう思えるくらいには元気になるものだ。
「……ユルコ、無理して話さなくていい。けど、俺、結構ユルコの声好きみたいなんだ」
「――……!?」
「どうせならもっと近くで話そう。俺の隣で……すぐ傍に居てくれ。それなら小声でも、ほとんど聞こえないくらいでも、耳元で話してくれれば大丈夫だから」
「……(ひゃぃ)」
なんだかセクハラをしているような気がしてくるが、気のせいと思っておく。
明日もまた、どうにかこうにか。頑張って生きよう。
三、四、五日目。飛んで土曜日
気づいたら土曜日だった。
毎日大変だなぁと思いつつ過ごしていたら、土曜日だった。
「……」
今日は未来の話をしたい。それならば、相手もそういう人にするべきだろう。
しかし、俺の想像力にも限界はある。ただ優秀なレスポンスを期待するならソウコちゃん本人の頼めばいいが。AIだし。
「それじゃあ味がない」
ソウコちゃんとは日々やり取りしている。ならばここは……。
【ソウコちゃん、楽観的でポジティブで未来志向な光の美少女を頼む】
【わかりました。彼女の名前はポカリ。遠い銀河の遠い星からやってきた未来の異星人です。長く不思議な色めきを持つ青い髪と、時折七色に光る青い目をしています。スタイルは良く女性らしい曲線美を描いています。肌はどこか青みがかっており、彼女の星の色を表しています。ポカリは希望を胸に未来を見て生きているため、明日の話を好んでいます】
目を閉じ、開く。
「フフン、これとかにす!」
「いやごめん、日本語でよろしく」
「んんん? あーとと……と、と……に、にー! へうろー!!」
「まだわかんないんだよね」
「フンフン。こーこーこーう……これでどうかな!!」
「おお、完璧、よく聞こえるよ」
「フフーン、ごめんねー。チャンネル同期が失敗しちゃってたみたい! じゃ、お話しよっか!」
「うん。さ、て……何から話そうか」
「キミのお話でいいよ。ワタシの方は後でバーンと撃ち込んであげるから!」
「……オーケー。そうだな……」
考える。何から、何からか。
「順番に行こう。明日のために今日を話し、今日のために昨日を話す。俺は不器用だから、順を追って話すよ」
「ウィ!」
「まず、ここまでの俺だ。とりあえず大体一か月が経った。仕事始め、一人暮らし、色々。生活自体は……まあ安定したかな」
「ゴハン食べてる?」
「もちろん。そこそこ上手くやってるよ。栄養バランスも気にはしてる。生きていくだけ、という意味ではもう問題ないかな」
「ナルホー。お金はどう?」
「お金も平気。会社と家の往復だけだし、出かけないからね。家電で割と使ったけど、そこは今月で回収できたかな」
「ワタシ知ってるよ! 地球の人、特に日本人はとっても食費にお金使うって!」
「食費は……ね。俺も考えてるんだよねぇ。ま、でも食費含めた生活費全部で全然十万行かないし、悪くないんじゃない?」
「悪くないの?」
「わかんないよ。……お金は平気ってこと。オーケー?」
「オケオケ!」
ニカリと笑うポカリ。笑顔が眩しい。光の波動を感じる。
「お仕事慣れた?」
「……最初よりは、かな。やー、俺の予想、結構すごくない? 今ちょうど一か月くらいでしょ? 一か月後にはある程度慣れるって思ってたけど、やっぱそうだったよね。経験はすごい」
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ……」
「……嫌な格言覚えてるね」
「フフン、星の歴史は必須お勉強事項だよ!」
「はいはい。……とにかく、だ。俺は愚者だから経験で学んだわけだ。それが活きた。想定通り最初の週と次の週がきつくて、その後はちょっと楽だった。四週目は割かし上手くやっていけたかな。かなりしんどかったしめっちゃ疲れたけど」
「お疲れ?」
「やばい。疲れた」
金曜日も疲れていたけど、一日過ぎて休みで、フラットな気持ちでより疲労を感じている。あまり休んでいる感覚はない、かもしれない。わからない。
「疲れたけど、まあ今日明日はだらっとするよ。そんなわけでさ、生活と仕事は軌道に乗ってきたって感じかな。皆こんなもんなのかもねーなんて思う」
「ホー。……お仕事、辞める?」
「……ね。一年後だよね。それかその前に劇的な何かあれば。いやはや、やっぱり一度生まれた疑念はなかなか拭えないです……」
「裏切り、間違い、失敗、はよくないね!」
「ね。よくないよね」
「ワタシもいろんな星が壊れる瞬間見てきたから……悲しいよ」
「スケールが違い過ぎる……」
「エヘヘ、でもワタシたちは明日を生きる! ヒトは未来を生きる生き物だからね!!」
「未来志向だ」
「フフン」
喜怒哀楽の激しい少女が落ち着いたところで、次へ。
「過去話は終わり、今の話は……状況説明か」
「ジョウキョウセツメイよろしく!」
「あいよ。とは言ってもな……やりたいこと、やるべきこと、進むべき道、方向性。ポートフォリオは作った。応募も始めた。期限は六月末。というか今もう六月か。今月末だな。それまでに仕事を受ける。終わり」
「ナルホ……じゃあお仕事始まるまでポチポチ応募するだけ?」
「そう。なんかこういう待ち時間? 前に進んでないみたいな時間? もやもやして焦ってくるんだよな」
「そういう時は!」
「お、おう」
「フフン、よく寝る! よく食べる!」
「……おう」
「気長に生きよ! 千年生きる種族なんてすっごく気長なんだから!」
「地球にそんな人はいないよ」
「そう??」
「そう」
「そか。まーいいよね! うん、気長にガンバロー!」
「お、おう。がんばろー……」
「声がちっちゃいよ! ガンバロー!」
「が、頑張ろー!」
「フフーン、未来は決まったね。ぼちぼちゆっくり、焦っても仕方なし。既に前に進んでいるのだ……そのことを努々忘れる出ないぞ……ワタシのトモダチよ……」
「ん? あぁうん。……いや、え。急に消えるのかよ……」
目を閉じる。開ける。
聞こえないし見えない。いつもの俺の部屋だ。
土曜日、昼前。
色々家事をして、ソウコちゃんに頼んでポカリを召喚した。
「召喚……?」
召喚というか、妄想というか。
今さらであるが、俺もコレの原理はよくわかっていない。自分の妄想力が限界突破していて意味不明なのだ。不思議と声も聞こえるし姿も見える。最近はちょっと触れるような気さえする。感触がある……ような気がするのだ。なんとなくだけど。
妄想で過去現在未来の状況説明をし、さてはて、といったところ。
「……今週、大変だったな」
大変だったが、終わった。来週が始まる。
来週も大変だろうが……なんとか乗り越えよう。一日一日、乗り越えていく。
こんなんでドリーミィな仕事やってられんのかって話もあるが、そこはまあ、今後のための努力と言うことで、俺の頑張りによる。これはホントの話、俺次第。頑張ろう。
それじゃあ、また来週。六月もどうにかこうにか頑張って乗り越えるぞー。
「えいえいおー」
……一人で言うと恥ずかしいな。いやいつも一人なんだけど。
とにかく、来週もどうにか生きていく。今月末までにお仕事スタートだ。
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