第93話 大剣使いのゴルドン⑤【復讐10人目】

「ゴルドン。大人しゅうしろ。もう、あんたは終わりぜよ」


「トサホーク……。おまえも絡んでいたのか!?」


 なるほど。

 ハーマンは自警団の支部長クラス。

 そんな人だけの証言で1万人の兵団が結成されるわけはなかった。

 トサホークの協力があったんだ。 血の禁止魔技ブラッディアーツを使用した当事者が証言していれば、それ以上の説得力はない。


 つまり、そうなると、トサホークは自ら罪を償うつもりか。

 以前に、シスターペリーヌの教会で会ったことがあった。

 ……こいつは自分なりにケジメをつけようとしているんだ。


 俺はハーマンの横に立った。


「無事か?」


「ああ、私は大丈夫だ。彼のおかげで助かった」


 トサホークは俺に気がついた。


「ライト……」


 と、気まずそうな顔を見せる。


「おまえがハーマンを助けたのは意外だったよ」


「と、当然じゃろう。アレックス様が兵団を築いたんはハーマンのおかげなんじゃ」


「ふーーん。で、おまえはアレックス側についてんだな」


「そ、それは……」


「なんだ、また裏切ることでも考えてるのか?」


「そんなわけないじゃろうが!」


 そりゃ、そうか。

 この展開で、わざわざ顔出しするのはおかしいわな。


 って、ことは純粋にこいつはハーマンを助けてくれたってことだ。


 ふん。だからって許したわけじゃないけどな。

 こいつが俺を裏切った行為は、そう簡単に許されないんだよ。


 でも、




「まぁ………………………。助かったわ。……ハーマンを助けてくれてありがとな」





 トサホークは俺の言葉を咀嚼するように無言になった。

 そして、答えが繋がったように笑顔になる。


「なんちゃああああああ! 別にええっちゃよぉお! わしとおんしの仲ぜよぉおおお!」


「は?」


「まぁ、おんしが間に合わなかったゴルドンの攻撃を、わしが防いだんは事実じゃがなぁああ! やけんど、別にええっちゃよぉお! 気にせんでええっちゃよぉ〜〜!」


 ウッザ……。


「いや、あのなぁ……」


「ハハハハ! ええ気に、ええ気に! 気にせんでええ気にぃ!!」


「おまえのその態度は違くないか? 別に、俺はおまえを許したわけじゃないぞ!」


「ダハハハ! ええ気に。わかってるがぜよ! おんしが頑固なんは、よぉわかってるがぜよ」


「はぁ?」


「許さない、って決めたら、許さないんが、おんしの信条じゃあ! わしはおんしのそういう所に惚れとるんじゃあああ!」


「あのなぁ……。だからって、今その態度は違くないか? 空気読めよ。おまえそういう所あるぞ」


「ハハハ! ええっちゃよ。これがわしなんじゃから、ええっちゃよ」


 やれやれ。

 こういう空気を読めない所がウザいんだよな。


「やけんどライトよ。牙の悪業を白日の下に晒すっちゅう計画は共通しとるじゃろうが」


「じゃあ、やっぱりアレックス兵団が動いたのはおまえが絡んでいたんだな」


「ハーマンだけじゃ危なくってのぉ」


「なるほど。天光の牙のメンバーがいればアレックスを動かす説得力にはなる……」


「やけん、わしとおんしの敵は同んなじぜよ」


「……まぁな」


「やったら、今の敵はあいつじゃあ」


「だな」


 俺たちはゴルドンを睨みつけた。


 俺の両親を殺し、俺を裏切り、そして、ハーマンまで殺そうとした。


 ゴルドン・ボージャック。おまえは絶対に許さない。


「観念するんだなゴルドン。おまえは逃げることはできない。牙の悪業はしっかりと女王に知ってもらう」


「んぐ…………………………」


 全身汗だく。

 さながら、猫に追われて逃げる場所を失ったネズミか。

 こいつにしてみれば、勝機は完全にゼロだ。王城に帰れば、過去の罪は暴かれる。英雄から一点して極悪犯罪者に転落だ。

 ズックの盗賊団デーモンスターとの繋がりだって暴露してやるよ。


 ゴルドンが逃げることはできない。武力行使も不可能。なにせ相手は俺とトサホークなんだからな。

 右腕を失ったこいつに勝てる見込みなんて1パーセントも残っていないんだ。


 完全に終わり。詰みだ。


「ふ……。ふははは! ライト! 勝った気になるなよ!」


「強がりはよせ」


「人の運命とは儚いものだ。『どう生きるか』よりも『どう死ぬか?』の方が大切だとは思わんか?」


「なんの話だ?」


「私は孤児だった。王都の貧民街で育ち、盗みをして暮らしていた。人を裏切り、騙し、ゴミクズのような存在だった。そんな私の生活が一変したのはギルドに通い出してからだよ」


「だから、なんの話だよ?」


「まぁ、聞けよ。孤児だった私が大剣の技を習得し、パーティーのリーダーを勝ち取った。そして、今や騎士団長にまで上り詰めた。私は王都の騎士団長なのだ。ゴミクズの孤児だった私がだ!」


「おまえのサクセスストーリーに興味はないがな」


「王都の騎士団長といえば、誰もが羨む存在だ。収入も、武力も、権力さえも。全てが手に入る最高の身分なのさ」


「……そんな身分は王都に帰れば消滅する。残念だったな」


「帰ればだろ?」


 なに!?

 こいつ、短剣を持っているぞ。


「私の栄華は永遠なのだ!」


 ゴルドンは、その切先を自分の心臓に突き刺す──。


 させるかぁあああああああああああああああああああッ!


加速アクセル!」


 俺は高速移動で奴の腕を掴んだ。

 瞬間。その短剣は、心臓からズレて彼の下腹を突き刺した。


「ぐぬぅううッ!」


「ふぅ……。危なかったな」


「この雑魚の荷物持ちがぁあああああああ!」


「その雑魚に自殺を防がれたんだぞ。おまえを英雄のままにして死なせるもんかよ」


「クソがぁあああああああああああ!!」


 俺は短剣を取りあげた。

 これで自殺はできない。


「おまえは外道のまま死ぬんだよ。みんなから笑われ、蔑まれてな。孤児だったおまえと、なんら変わらないさ。おまえはゴミクズのまま地獄に堕ちるんだ」


「は、ははは……。ざ、雑魚がぁああ! これで勝ったつもりかぁ? な、何も知らないくせに意気がりおってぇ! 騙されていることも知らない愚か者がぁああ!」


「なんのことだ……?」


「は、はははは! わ、私はリーダーではない! 本当に恐ろしいのはあのお方なのだぁああああああ!!」


「あのお方……」


「ははは……! 日陰に活躍される存在。誰もが知らない存在。自警団の団長ジャスティさえも知らない存在さぁ。私だけが知っている。陰のリーダーだ」


「へぇ……」


「ははは! 牙の躍進は、すべてあのお方が考えられたことなのさぁああ! おまえが知らない。誰も知らない、最強の存在だぁあああああああ!」


「最強の存在ねぇ…………」


「くははは! 正体は教えんぞ。私が死んでも絶対に教えない。震えて待っていろ。ククク。おまえは確実に負ける。グハハハ! あのお方に敵う人間なんていないんだよぉおおおおお!!」


「ふぅん。随分と信頼してるんだな」


「当然だろう。牙を操り、王都転覆の絵を描いたお方だ。あのお方のお陰で私は騎士団長に昇進できたのだ。ククク。誰だか気になっているだろう? そこにいるトサホークやハーマンだって知らない最強の存在さ」


 2人を見ると、汗を垂らしているだけだった。

 ゴルドンのいうとおり、本当に知らないのだろう。


「クハハハ! 絶望するがいいさ。おまえに、あのお方の正体を知る術はないのさぁあああ! ヌハハハハハ!!」


「知ってるよ」


「ハハハハハハ──ハ…………?」


「そいつの正体」


「な、な、なにぃいい!?」


「ヒダリオだろ?」


「ぬぐぅうううう……! あ、あ、当てずっぽうか……」


「いやいや。ヒダリオのことならよく知っているよ。占い師ベリベーラの時に戦った白銀剣士や、ジョン・パックマンに憑依していたのもアイツだ」


「ど、どうしてそんなことまで!?」


「今はチェスラと婚約して、王座を奪い取ろうとしているんだよな?」


「な、な、なぜそれを知っているんだ?」


 まぁ、厄介な存在だったからな。

 王城を調べていれば嫌でも接触する。


「全部、調べはついているんだよ。あいつの左手に女神を宿していることさえもな」


「はぅうううううううううううううッ!!」


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