第92話 大剣使いのゴルドン④【復讐10人目】
自警団のハーマンは、ゴルドンの切断された右腕を止血していた。
「あなたは王都の裁判にかけられる。天光の牙も同様だ。もう英雄ではない」
「………………」
「それまでは殺すわけにはいかん。この止血はそういう意味だ」
短時間ならば
しかし、それをせずに止血だけで済ませるのはハーマンの裁量だろう。
周囲は仮設テントが設立され、アレックス兵団と王都の兵団とで話し合いがされていた。
なにせ、王都の騎士団長が悪党だと発覚したのだ。王都側の兵士たちは混乱するのは当然だろう。
ゴルドンの体は縄で縛られている。その縄の端はテントの柱に括り付けられていた。
もう完全に罪人扱いだ。こいつは女王の前に突き出してやる。ゴルドンをきっかけに牙たちの悪業を白日の下に晒すんだ。
そんなわけなので、デストラの復讐ターンはお預けとなった。
女王に献上した後でのお楽しみってやつだな。
王都までの護送はアレックス兵団が同行するようだ。
ハーマンは俺の前に立った。
「ライト。おまえの話は全て本当だった。疑って悪かったな」
「いや。礼をいうのはこっちさ。アレックスを説得してくれて助かった。ありがとう」
「辛かったな」
「………奴が裁かれるなら報われるさ。天光の牙は英雄じゃない」
「女王には私が直訴する」
「なにを?」
「おまえと妹のアリンロッテが平穏に暮らせるようにさ」
「……無理だろ。俺の右手には魔神が宿っているんだぞ?」
「王立魔法審議会も巻き込んで、保護観察でもなんでも、方法はいくらでもあるだろう。ライトは王都の敵ではない。むしろ、悪党から王都を救ってくれた英雄だ」
俺は英雄じゃないけどな……。それにしても不思議な男だ。
「どうして、そこまで面倒をみてくれるんだよ?」
「………私には息子と娘がいた。生きていたなら丁度、おまえたち兄妹と同じ年齢だろう」
「死んだのか?」
「モンスターに遭遇してな。事故だった。今は妻と2人暮らしさ」
「…………」
「おまえたち兄妹が助かれば、妻のウミも喜ぶ」
俺と亡くなった息子を重ねているのか。
「いや。おまえには関係のないことだったな。忘れてくれ。私は王都を救いたいだけさ」
「…………」
「暗い顔をするな。ライトがどんな悪いことをしたというんだよ?」
「復讐だ。牙のメンバーを死に追いやった」
「それは違うぞ……。王都の平和を脅かす悪党を成敗しただけだ。おまえの行動が王都を救ったんだよ」
「そんなことを言ってくれるのは、あんただけだよハーマン」
「おまえはハズレくじを引きすぎだ。ゴルドンに利用され、魔神の魂と融合した。おまえに非なんてこれっぽちも無いじゃないか」
「……………」
「心配するな。悪いようにはせん。私を信じてくれ」
この人は温かい人だな。それにどこか懐かしい。
まるで、亡くなった父さんと会話をしているようだ。
この人なら信用できるかもしれない。
「王都に帰ったら私の家に飯を食いにこないか? ウミの焼いたミートパイは美味いんだぞ」
「……それってアリンロッテが行ってもいいのか?」
「し、しかし……。彼女が王都に入るのはまだ早いだろう」
「俺の力なら、妹を内緒であんたの家に連れ込むくらいは簡単さ」
「……なるほど。ふふふ。そうか……。だったら、歓迎する。4人で飯を食えるなんて、こんな楽しいことはない。ウミも喜ぶ」
アリンロッテも喜びそうだ。
きっと、俺たちは馬が合う。直感だけど、そんな気がするんだ。
「ふふふ。帰ってからが楽しみだな。じゃあな、ライト。私は悪党を王城に護送する手配をしてくるよ」
「ああ」
さて、そうなると、俺は全体を見渡せる高台に移動しておくか。
シュバイン領に腕の立つ射手がいるようなんだがな。もう矢を射ってくる気配がない。ゴルドンが負けて撤退したんだ。
俺の右手はニューっと眼前に現れた。
『あのハーマンとかいう男。なんだか不思議な空気を感じさせよるな』
「へぇ……。おまえにもわかるのか」
『わかるというか……』
じぃーーーーーーー。
「なんだよ?」
『
「は?」
『
「ふっ。そうか……。似てるか。ふふ……」
『なんで笑うんじゃ?』
「別に……」
『うーーむ。調子が狂うのぉ。おかげでゴルドンに制裁を出し損ねたわい』
そういえば、今回はこいつの出番がなかったな。
デストラが活躍するのは女王に引き渡してからかもしれない。
ハーマンは王都の騎士団を誘導しようとしていた。
その時である。
「ぎゃああああッ!!」
テントから兵士の叫び声!
テントから出て来たのは流血する兵士とゴルドンだった。
奴の左手首のリストバンドから小さな刃が出ている。
おそらく、あれで縄を切って、見張りの兵士を攻撃したんだ。
「裏切り者め。貴様は地獄に送ってやる!」
誰に言ってるんだ!?
俺はここだぞ!?
ゴルドンは左手で兵士から剣を奪うと、素早く振りかぶった。
「
斬撃波動の行先は──。
いかん。
狙いはハーマンだったのか!
あそこまでは距離がありすぎる!
とても間に合わないぞ!
「ハーマンッ! 避けろ!!」
ダメだ!
斬撃が速すぎる!!
ハーマンでは避けれない!!
防御をしても体ごと粉砕されるぞ!!
ああ、ハーマン!!
嫌だ!!
ハーマンを殺さないでくれ!!
彼は父さんに似ている。
優しくて強い父さんに似ているんだぁああああああ!!
「ハーマァアアアアアアアアアアアン!!」
ゴルドン!
頼む! 俺から父さんを奪わないでくれぇええええええええ!!
祈ったって通じない。そんなことはわかっている。
でも酷いじゃないか。俺から愛する人を奪うなんてさ。
おまえは再び俺から奪うつもりか!?
ああ、遠い。
ハーマン! 死なないでくれぇええええええええええ!!
強力な斬撃波動が、無常にもハーマンに接触──。
するかと思いきや、
「
え…………………………!?
地面から大きな口が出現。ゴルドンの出した斬撃波動をパックンと食べてしまった。
「あ、あの技は……!?」
ハーマンの前に大柄の男が立っていた。そいつは茶色のフードを被っていて顔が見えない。
でも、フードを外した瞬間に、それが誰なのかハッキリと認識できた。
一度見たら忘れるわけがない。
インパクトのある、犬の顔だ。
「トサホーク!!」
どうして、こんな場所にいるんだ!?
「げに、まっこと往生際が悪いっちゃよ。ゴルドン騎士団長さんよぉ」
は、ははは……。
「はぁーーーーーー。良かったぁ………」
ハーマンが助かった……………。
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