第90話 大剣使いのゴルドン②【復讐10人目】

「なぁ、ゴルドン。おまえの右腕を斬り落とす前にさ。チャンスをやろうか?」


「んーーんーー!」


 あ、そうか。

 こいつは 麻痺魔法パラライズがかかっているから痺れているんだっけ。

 よし、部分解除で顔だけ動くようにしてやろうか。


「ぷはぁああああ! しゃ、しゃべれるぞ!」


「おまえにチャンスをやるよ」


「チャ、チャンスだと!?」


「俺とおまえ。一騎打ちで決着をつけるのはどうだ?」


「なにぃいいいい!?」


 俺はみんなに問いかけた。


「なぁ、みんな! 俺がこいつに恨みがあるのはわかってくれたよな? だったらさ。一騎打ちも見届けてくれないかな?」


 王都の兵士たちは騒つく。


「俺の右手には魔神が宿っている。俺を倒せば、ゴルドンは英雄だろ? そのチャンスをやろうっていうんだよ」


「は、ははは! バカが! 一介の荷物持ちだったおまえが、一対一で私に勝てるもんか。私は騎士団長だぞ!」


「やってみなくちゃわからないだろ?」


「…………………………………………待てよ? その自信……。さては、魔神の力を借りるつもりだな? そうだろう? そうだよなぁ? おまえはD級冒険者の土底辺、雑魚剣士だもんなぁああ! 私に勝つにはその方法しかないもんなぁあああああ! 卑怯者のおまえなら一対一とかいいながら、魔神の力を使うんだよなぁあああああああ!」


 やれやれ。

 状況を有利にしているつもりか。


「魔神の力なんて使わないよ。3年前にさ。俺と差しで戦ったことがあったろ? 俺が妹を救うために魔神討伐に参戦したいからってさ。おまえがテストをしてくれたんだ」


 あの時は俺が勝ったがな。


「……………ん? ああ、そんなこともあったかな? 勝敗は忘れてしまったよ? なにせこっちは本気じゃなかったんだ。遊び気分の戯れだったからな。ははは! 考えてもみろ。3年前の当時、私はA級冒険者だぞ? D級の貴様と本気で勝負なんてするわけがないだろう? だって、本気を出したら殺してしまうんだからなぁああああ!」


「そっか……。じゃあ、今回は本気でやってくれるんだな?」


「バ、バカを言うな! こんな体が麻痺した状態で本気なんて出せるわけがないだろうが! 魔神の魔法を使っている時点でおまえの方が有利なんだよ!」


 ふむ。


 俺はパチンと指を鳴らした。


「ほれ。これで 麻痺魔法パラライズは解除したぞ」


「………………」


「安心しろよ。魔法なんて使わないからさ」


「…………………………し、しかし、おまえはジャスティから奪った聖剣と魔神の槍を持っているではないか。伝説の武器を使われては、私の大剣が名工とはいえ敵わない……」


「だったら、それも使わないよ」


「なに?」


 えーーーーと。

 俺は適当な兵士に目をつける。


「なぁ、そこの兄ちゃん。ちょっと、あんたの剣を貸してくれないかな?」


「え!? え!? お、俺ですか!?」


「うん。そこの腰にぶら下げてる剣をさ。貸してくれると助かるんだ」


「は、はい……。ど、どうぞ……」


「ありがと。後で返すから」


 俺はその剣の刃を見た。

 よく見ると刃こぼれしている。

 名工とは程遠い鈍らだろう。


「ゴルドン。俺は、この剣で戦うよ」


 突然。

 ゴルドンは真っ赤な液体を空に向かってぶち撒けた。


「ガハハハ! それぇえええええええええ!!」


 なんだぁ?

 血……か?


 ゴルドンは印を結びながら、

 

「暁月の扉より、甦りし闇の神王よ。かの者の力を封じよ。 魔神力封印陣アークガジェッタ!」


 この詠唱……まさか!?


 すると、赤い血液は魔法陣を描き、それは俺の胸に張り付いた。


「お!?」


「ダハハハハハ! ライトォオオオオオオオ! 終わったなぁああああああああ!!」


 俺の右手はプルプルと震える。


『ラ、ライト……。わ、わらわの力が……。封じられた……』


 ………………なるほど。

 この胸に張り付いているのは 血の禁止魔技ブラッディアーツか。

 デストラの力を奪うほどの血液……。

 つまり、


魔封紅血の血液ってことか」


「そういうことだぁあああああ! ガハハハハ!」


「ここ最近でおまえに採取された記憶がない。つまり、その血は3年前の物だな」


「アハハハ! その通り! この血は3年前。おまえの右腕を斬り落とした時に採取しておいた物さ」


「…… 血の禁止魔技ブラッディアーツで使用する生き血は、採取してから直前でないと効果はないはずだ」


「ククク……。実験用に解呪士のジィバが保管しておったのさ。できる限り鮮度を保てるように特別な呪術を施してなぁ」


「なるほど」


「しかし、効果的に使うことはできなかった。実験は失敗だったのさ。やはり、生き血には本体の生命エネルギーがいるらしい」


「……………」


「私は考えた。ならば、本体に向かって直接使えばどうなるだろうか、と……。ククク。見事成功したようだ。カハハハ! おまえの体になら 魔神力封印陣アークガジェッタは使えるのさ!!」


「そうか……。なるほど。よく考えたな」


 ゴルドンは王都の兵士たちに呼びかける。


「さぁ今だ! 魔神の力は封印した! みんなでこいつを殺すんだ!! 魔神を殺せば、みんなは英雄になれるぞ!!」


 しかし、


しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。


 兵士たちは、ざわざわするだけで、一向に動く気配がない。


「ゴルドン。随分と人望があるな」


「ふ、ふざけるな! ここに魔神デストラがいるのだぞ! 王都の危機なのだ!!」


 兵士たちは各々が疑問を投げかける。


「し、しかし、ゴルドン騎士団長……。ライトの話が本当ならあなたは犯罪者だ」

「そ、そうです! 今だって、 血の禁止魔技ブラッディアーツを使っています」

「ライトの話は本当なのですか?」

「あなたはライトの命を使って魔神を討伐しようとした!」

「どういうことか説明をしてください! とても動けませんよ!」

「そうだそうだ! 説明しろ!」

「ふざけるな! 説明しろ!」


 ははは!

 こりゃいいや。


「ゴルドン。盛り上がってきたな」


「ふざけるなぁああああああああああああああああああ! バカどもがぁあああああああ!!」


 いや、バカはおまえだろう。

 ご丁寧に 血の禁止魔技ブラッディアーツまで使ってさ。俺の話の信憑性を上げてんだからな。


 混乱する兵士たちの前に中年の男が立った。


「私は自警団、第3支部長のハーマン・ヤルゼバラスだ。ここにいるライトから、真実を聞いた者。3年前の魔神討伐の話が本当ならば、ゴルドン騎士団長は王都の法律で裁かれなければならない。とはいえ、ライトの無念は相当なものだろう。なにせ仲間に裏切られて利用されたんだからな。だから、どうだろうか。彼がゴルドンとの決闘を申し出ているのなら、我々で見届けてやらないか?」


「し、しかし……。殺してしまっては罪を裁くことができませんよ」

「そうだそうだ! 王都裁判にかけるべきだ!」

「ライトの話が本当なら俺たちを騙してたってことになる!」

「そうだ! 謝罪しろ!!」


「まぁ、落ち着いてくれ。魔神の力を持っていながらも、私たちに危害を加えなかったのはライトなんだ。そして、3年前。ゴルドンに裏切られ殺されそうになったのもライトだ。そんな彼が1人の剣士としてゴルドンに決闘を名乗り出ているんだ。見届けてやらないか?」


 兵士たちは静まった。

 みんな、納得してくれているようだ。

 ハーマンの人徳というやつだろうか。落ち着いたしゃべり口調に、なんだか妙な説得力があるや。


「ライト。審判は私がやろう」


「ハーマン。ありがとう」


 彼は軽く手を上げるだけで、優しい笑みを向けてくれた。

 なんだかどこか懐かしい……。

 そうか、父さんに雰囲気が似ているんだ。

 

 おかげで舞台は整った。


「ふざけるなぁあああああ! この騎士団長ゴルドンが雑魚の荷物持ちに負けるわけがないだろうがぁああああああああああああ!!」


 さて、3年振りの一対一だ。

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