第89話 大剣使いのゴルドン①【復讐10人目】

 俺は2つの兵団の真ん中に大きな壁を作って、そこに立っていた。


 これじゃあ、壁が邪魔で相応の顔が見えないよな。


  大地巨大神壁ガイアウォールを解除して 飛行フリーゲンで空を飛ぼうか。


 大きな壁は砂になって崩れ、俺は宙に浮いた。

 うん。これなら双方の兵士が確認し合える。

 彼らは証人になるんだ。これから始まる楽しいショーのな。


 王都の兵士は3万人。アレックス兵団は1万人だ。

 みんなが聞こえるように拡声の魔法を使って声を大きくしてやろうか。


「あーーあーー」


 うん。

 めちゃくちゃ大きな声になっているな。

 よし、



「みんな。聞いてくれ。俺の名前はライト・バンジャンス。3年前に天光の牙で荷物持ちをやっていた者だ。最近流行っているだろう? 天光の牙のメンバーがさ。右腕を斬られて殺害されているのを。巷では『腕斬り』なんて呼ばれているからもしれないな」



 場は騒ついた。


「俺がその『腕斬り』だよ」


 ゴルドンは青ざめる。

 俺の言葉を遮るように右手を挙げた。


「ふざけるな!! 裏切り者め! アレックスともども葬ってくれるわ!!」


 こいつの言葉に反応してシュバイン領から大量の弓矢が降って来た。

 さっき王都の兵を射抜いた射手だな。

 俺とアレックス兵団を刺し殺すつもりらしい。


「やれやれ……」


 俺は両手をクルッとひるがえす。その動きに連動して、黒い薔薇の花びらが宙に舞った。

 すると、宙に舞っていた矢は真っ二つに切断されて落っこちた。

 他にも、ボテボテと重そうな音を立てて細い何かが落ちてくる。


 兵士はそれを見て叫んだ。


「い、石!? 矢が石になってる!?」


 真っ二つに切断された矢と、石になった矢。

 それが雨のようにボトボトと降り注いだ。


「な、なんだ!? どういうことだ!?」


 兵士たちは空を見上げる。

 すると、槍と剣が宙に舞っているのが見えた。


「や、槍と剣が空を飛んでいるぞ……」


 ふふふ。

 俺の武器。

 聖剣 薔薇女神の剣ローズデアと愛槍  魔神聖石槍グングニルだ。


 全ての矢を使えなくしてやった。

 いくら飛ばしても無駄さ。


「まぁ、落ち着いて聞いてくれよ。天光の牙は王都を魔神の脅威から救った英雄だ。そんな英雄たちの腕を、斬り落とす理由。知りたくはないか?」 


「だ、騙されるなぁああ!! こいつは魔神に操られているんだぁああああああ!!」


 やれやれ。

 おまえちょっとうるさいよ。

 

  魔神聖石槍グングニルはゴルドンの影を刺した。


麻痺魔法パラライズ


「んぐ!」


 全身が麻痺する魔法だ。槍の鋒先から影を通して付与させてもらった。

 これで外野は静かになったな。

 兵士たちは俺の言葉に興味津々。

 演説を続けようか。





「俺は天光の牙に裏切られた。だから、復讐をしている」





 場は騒つく。


「ここにいるアレックス兵団もそのことは理解してくれているんだ」


 すると、アレックスが声を張り上げた。


「王都の兵士たちよ、聞いてくれ! あそこにいるのは、間違いなくライト・バンジャンスだ。彼が言っていることは全て真実! 王都に危険が迫っている。私は彼の証言を女王陛下に伝えるために1万の兵団を結成したのだ」


 更にどよめく。

 しかし、公爵の息子が言っているのだ。信じざるを得ない。


 とはいえ、急にそんなことを言われても意味不明だわな。

 王都の危機。と言われてもピンと来ない。


「俺が復讐をする理由を話してやろう。3年前、天光の牙は魔神デストラを討伐する計画を立てた。しかし、魔神デストラはSS級のモンスターだ。A級レベルのパーティーじゃあ、とても勝ち目はない。だから、策を練った」


 ああ、ついに、このことを話せる時が来た。

 ここには俺の発言を証明してくれるアレックスがいる。聞いてくれるのは4万人の兵士たちだ。

 そしてなにより、ゴルドン。おまえの存在が全てを証明してくれるのさ。


「牙が立てた作戦。それは、魔神の力を封印する一族の力を利用することだった。いにしえの少数民族。魔封紅血。俺はその一族の末裔なのさ」


「んーー! んんんんんんーーーー!」


 ふふふ。

 ゴルドンの奴。麻痺して口が動けないのに必死だな。

 安心しろよ。一から十まで丁寧に説明してやるからさ。


「魔神デストラは強い。だから、その力を封じる策が必要だった。牙のメンバーには解呪士ジィバがいてな。そいつは禁術にも精通していたんだ。禁術を使えば楽に魔神の討伐ができる。しかし、厳選された素材がないと実現は不可能。最も効率的に魔神を倒す方法。それは魔封紅血族の血液を使って、禁術を使うことだった」


「け、血液だって?」

「ま、まさか……」

「そ、そんな……。あの技は禁止魔技だぞ」

「あり得ない。牙は王都の英雄なんだぞ」


 いや、それがあり得るんだよな。


「禁術の名は 血の禁止魔技ブラッディアーツ。人の生き血を使って魔族の力を封じる技だ。普通の人間の血だと威力はそんなにないんだがな。魔封紅血の生き血を素材にすれば数百倍の威力が出るんだ」


 ザワザワは更に大きくなった。

 まぁ、混乱するわな。英雄が犯罪者なんだからさ。


「そこにいる騎士団長ゴルドンは部下を使って、俺に麻痺魔法をかけた。今、俺がこいつに付与している状態と一緒さ。なぁゴルドン? 白魔法使いシビレーヌを使って、俺に 麻痺魔法パラライズをかけたよなぁ?」


「んーー! んんんんん!!」


 ブンブンと首を小刻みに振る。

 否定してるつもりか? ふざけんなって。


「彼は『そうだそうだ』と同意しくれてるよ。話しを続けよう。 血の禁止魔技ブラッディアーツが禁止されている理由は大量の生き血を使うことにある。生き血を取られた人間は出血多量で死ぬ。それを避けるために、王都の魔法審議会が禁止魔技に指定しているんだ。そんな技をさ。内緒で使おうって、そういう作戦だったのさ。もちろん、俺は聞かされていない。殺すつもりだったからな。パーティーの荷物持ちが死んだって、魔神に殺されたことにすれば誰にもバレない。なぁ、ゴルドン?」


「んんんんんんん!!」


 うんうん。

 同意してくれて嬉しいよ。


「あの時。魔神の部屋を前にして、俺は 麻痺魔法パラライズで麻痺していた。そんな俺の右腕を斬ったんだ。バッサリとな。切断面からはドロドロと血が流れ出たさ。牙の連中は、その血を使って魔神デストラの力を封印し、その首を斬ったというわけだ。いわゆる、討伐成功ってやつだな。もちろん、俺には回復魔法なんてかけてくれないさ。粗悪なポーションすらくれなかったな。牙の連中は、俺が死んでいくのをニヤニヤしながら見ていたよ」


 これには兵士たちの中から「ひでぇ」「悪魔だ……」などなど、同情の声が漏れ聞こえる。


 さて、最後だ。


「それで、俺が生き残っている理由……。まぁ、今こうやってS級魔法の 飛行フリーゲンを使っていることにも通じるんだけどさ。3年前のあの日。俺が腕を斬られて死にかけていた時。天光の牙が去った後、俺の元に1人の少女がやって来たんだ。その女の子は超自己再生能力を持っていてな。斬り落とされた首さえも再生したようだった。ところが、それが魔力の限界だったみたいでな。死にかけていた。俺とその子。2人は虫の息。だから、強力した。魂在融合。互いの足らない部分を魂を合体させて補強させる。といっても、元の体に戻るのには3年の月日をようしたがな」


 場のざわめきは止まらなかった。

 薄々、勘づいている奴が大勢いるようだ。

 答えを言ってしまおうか。


 おい。出番だぞ。


『ふふふ。よかろう! 愚民どもよ! わらわの美しい姿を見よ!』


 俺の右手は美少女になった。

 その美しい四肢を俺の体に絡める。





『ククク。わらわがライトと魂在融合を果たした者……。魔神デストラじゃ』




 兵士たちは大混乱。

 ギャアギャアと喚き始めた。


「おいおい! 落ち着け、落ち着けぇえええ〜〜。俺が人を殺してる話しなんて聞いたことないだろ? 俺は復讐しているだけなんだからさ。そもそもゴルドンを恨んでいるなら、とっくの昔に殺しているよ。今、こいつは麻痺で動けないんだぞ? なぁ、ゴルドン? 動けないよなぁ?」


「んーーんーー!」


「な? こんな奴を殺すことなんて、魔神と魂在融合を果たした俺なら簡単なんだよ。でもさ。それじゃあ、俺の気が治まらないわけ。わかる? 俺が荷物持ちをしていたのは3年間だ。つまり、その間、天光の牙は仲間だったんだよ。そんな仲間に裏切られたんだからさ。あっさり殺すだけじゃあ晴れないってわけだよ。ゴルドンたちはな。初めから俺の生き血を利用するつもりだったんだ。だから、仲良く親切にしてくれていた。大切な仲間だとさ、思っていたよ……。信じてたんだけどな……。マジで」


 3年前のあの日。右腕を斬り落とされて、ダンジョンに置き去りにされたあの日。


 俺は心に誓ったんだ。


 こいつらに復讐してやるって。


 絶対に許さないって……。


「なぁ、ゴルドン……。今、どんな気持ちだ?」


  麻痺魔法パラライズは気持ちいいよな?

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