第87話 アレックス兵団

〜〜ヒダリオ視点〜〜


 オセロン女王が復活した。

 厄介者が増えてしまったが、チェスラとの約束は守られるはずだ。

 女王が元気になれば結婚する。そういう約束だった。

 気弱なオセロンが国政に口を出すとは思わんがな。王位さえ譲ってもらえばこっちのもの。

 邪魔だと感じれば殺せばいい。


 さてと、それまでは機嫌取りだな。

 良い息子を演じなければならん。


「おおお! オセロン女王。元気になられてなによりです」


「ええ、ありがとう。今日より玉座に座ります」


「今日は快気祝いをしないといけませんね」


「いえ。結構です。仕事が立て込んでいます。呑気に祝い事をしている場合ではないでしょう」


「…………………」


 妙だぞ……。

 僕に対する態度が冷たい……。

 あんなに信頼していたのに……。

 瞳の奥に懐疑的な視線を感じる。

 さては、チェスラが何かを吹聴したな。

 

 しかし、僕を捕まえないところを見ると確証は得ていないんだ。

 女王を病気に見せかけて毒殺しようとしたこと。その証拠は掴めていない。

 急いだ方が良さそうだな。


 僕は庭園に行った。

 そこはチャスラの好きな場所なのだ。


「ねぇ。チェスラ。あの約束は覚えているよね?」


「え、ええ……」


「女王が元気になったら結婚するって話」


「……………」


「あれ? もしかして、迷っているの?」


「そ、そういうわけでは……」


「僕たちは大人だ。自分の未来は自分で決めればいい。君が結婚を拒むならそれも一つの選択だろう。それならハッキリと断ってくれて良いんだよ?」


「…………………」


「婚約を破棄するならそうしてくれ。僕は潔く王都を出て行くよ」


「そ、それは………」


 ククク。

 そんなことはできまい。

 国王がいなくなって、実質支配は僕にあったんだ。

 王都の税収を上げ、国内の生産量を増やしたのは全て僕の功績さ。

 オセロンもチェスラもそれがわかっている。

 僕を切れば王都は確実に衰退する。それがわかっているから直ぐには切れない。

 

 婚約破棄は国政を安定させてからだ。

 僕がやっていた仕事の引き継ぎ。それと、騎士団長ゴルドンの後任の育成だ。


 国王の毒殺を僕が犯人だと思っているなら、天光の牙のリーダーであるゴルドンは僕とグルということになる。

 王女としては僕たちを切りたい。だが、王都のことを思えばそれができないんでいるんだ。

 そもそも、僕が反逆を企てている確証はない。何一つとして証拠は得ていないはずだ。

 あくまでも違和感。僕の能力があまりにも高いので恐怖を感じているのだろう。劣等感からひがみにすぎん。


 支配してやるよ……。必ずな。


 彼女たちの心が騙せないのなら、強制的に婚約させればいい。

 僕とチェスラが結婚さえすればオセロンは用済みだ。


 見方を変えてやろうか。

 僕がいかに頼りになるか、思い知るがいい。


 僕は王の間へ行った。


「オセロン女王。実は国境付近で不穏な動きがあります。シュバイン公爵のご子息、アレックス様が1万人の兵士を連れて国境付近で立てこもっているのです」


「……は、初耳です。どうして黙っていたのですか?」


「王都はそれどころではありませんでした。自警団ジャスティは殺害されています。その犯人はジョン・パックマンと関係があるかもしれないのです。王都の中に組織だって反乱する反逆者がいるかもしれない。その内部調査に時間がかかっていたのですよ」


 ククク。

 こんな話はデタラメだ。そもそもジョン・パックマンは僕の部下だったんだからな。

 だが、ジャスティを殺したライトを主犯格にしておけば、僕と女王の間には共通の敵が生まれることになる。

 とはいえ、自警団の団長が殺害されたことは真実。王都の治安が乱れているのはいうまでもない。自警団の再構成で慌ただしいのは女王も把握していることなんだ。

 さて、話を戻そうか。


「国境付近のアレックス兵団なのですが……。今のところ、先方に戦う意思はありません。しかし、今後どうなるのか……」


「使いの者を出すのです。シュバイン公爵のお考えが知りたい」


「もう出しています。その使いが、今さっき帰って来たのです」


「おお! では、公爵はなんと!?」


「公爵の返事はありません。帰って来たのは遺体でした。使いの兵は事故にあって死んでしまったのです」


「なんと……!?」


 ふん。

 こんなのは嘘っぱちさ。

 アレックスの兵団の目的は、国王との密会。その重要性を裏付ける兵団のアピール。1万の兵士だ。


「使いが、返り討ちにあったというのですか……。公爵は戦争を希望か?」


「いえ。原因不明の事故です。調査中になりますので、詳細はわかりません」


「……追加の使いを出したいけど、怖いわね」


「はい。事故に見せかけているやもしれません。もう、こちらも兵団を結成して向かった方が良ろしいかと」


「大事ですね……」


「先方を待たすのは心象が悪い。どうされますか?」


「わかりました。ゴルドンを向かわせましょう」


「では、万事に備えて兵団を結成いたしましょう。先方が1万の兵力ならば、こちらは3万です」


「うむ。任せます」


 ククク。

 ほらな。

 おまえには僕たちが必要なのさ。天光の牙の協力がな。


 アレックスが動いているのは、自警団の裏切り者が動いたと見るべきだろう。

 生意気な。アレックス兵団もろともぶち殺してやる。




〜〜ライト視点〜〜


 突然のエルフシステム。

 心の中にエルフの声が響く。


『ライト様。ホワイティアです』


 彼女は美肌が売りのエルフだ。ギルドの受付嬢として潜り込んでいる。


『ギルドから王城に招集がかかりました。騎士団長のゴルドンがシュバイン公爵領に向かって兵団を結成するそうです』


 ふーーん。チェスラのブレスレットを通じて王城の騒がしさは伝わっていたがな。そういうことだったのか。


『ギルドの冒険者が招集されているのか?』


『クエスト依頼が上がっているのです。報酬がいいので、冒険者たちは活気づいていますね』


 王城の兵士だけでは足りないのか。随分と大掛かりだな。

 

『シュバイン公爵領といえばアレックスの父親の領土だな。そんな場所にどうして王城が兵団を向かわせるんだ?』


『どうやら、数日前からアレックス兵団というのが結成されておりまして、国境付近を陣取っているそうなんです』


『へぇ……』

 

 アレックスといえば、白魔法使いシビレーヌの元婚約者だ。

 そんな奴が動いているということは……。


『そういえばライトよ。自警団員のハーマンとかいう中年の男が、天光の牙のことを調べると言っておったな』


 そういえば、ハーマンにはアレックスのことを伝えていたんだった。

 ってことは、


『ふふ……。動いたのか……』


 アレックス兵団は俺の味方かもしれない……。

 これは面白くなってきたぞ。


『エルフたちは情報を集めてくれ! シュバイン領と王都領の国境付近の情報が欲しい!』


『『『 承知しました! 』』』


「よし、デストラ。俺たちも行こう!」


『うむ。牙の悪業が明るみに出るやもしれぬな。これは楽しみじゃわい』

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