第85話 ヒダリオは阻止される
俺は城外からブレスレットに仕込まれた
彼女はヒダリオに遭遇した。
「おお、チェスラ。どこに行っていたんだい?」
うん。感度は良好だ。
脳内にはヒダリオの姿がばっちり映っているよ。
「少し、庭園でゆっくりしていました」
「ああ、それなら良かった。訓練場に猿が侵入してね。それを侵入者と勘違いする事件があったんだ」
ああ、それは俺が仕掛けたやつだ。
猿に
「ヒダリオ……。あなたに報酬をお支払いします」
「な、なんのことだい?」
「母の代わりに国政を担ってくれている報酬です」
「……は、ははは。そんなものは必要ないよ。僕と君とは婚約中だからね。甘えてくれていいんだよ。それに、結婚をして女王から王位を引き継げば、僕が国王になれる。報酬を受け取る理由なんてないよ」
「いえ……。払います。仕事の対価は必要です。あなたには、これ以上甘えるわけにはいきません」
「は、ははは……。どうしたんだい急に? まるで人が変わったみたいだ……」
「あなたとは仕事仲間です。対価を払うのは当然でしょう」
「し、仕事仲間!? ま、待て! どういうことだ!?」
「お母様が心配なのです」
「ぼ、僕だって、オセロン女王の身は案じている!」
「だったら、結婚の話は、お母様が元気になってからにしましょう。それまでは仕事仲間です」
「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
ふっ。
これは上手い展開だぞ。
「えらく驚くのですね? お母様が元気になられては困るのですか?」
「い、いや……。そういうんじゃないけどさ。ただ……。その……。君とは早く結婚したかったから」
「………………結婚はお母様が元気になってからです」
「う、うん……。わ、わかったよ」
「もしか、お母様が亡くなる、などということがあれば……。婚約は破棄させていただきます」
「な、なんだってぇ!?」
「姉のカルターノは隣国に嫁いでいます。そんな今、母が亡くなれば、その王位は次女である私に継承される」
「な、ならば尚更! 僕が手伝わなければ、国政は大変だよ!!」
「あなたとの婚約は亡き父の遺言であり、お母様の切望です。しかし、私の両親がいなくなれば、私の人生は自分で決めさせていただきます」
「め、めちゃくちゃだ……。ぼ、僕はオセロン女王の介護を熱心にしている。そんな僕が悪いことをしたのかい? 何がそんなに気に入らないのさ?」
「……………………気に入る、気に入らないの話ではありません。私の人生は私が決めるということ。ただ、それだけです。もう一度言います。結婚はお母様が元気になってからです。いいですね?」
「ぬぐぅう……。わ、わかったよ」
どうやら、チェスラも俺と同様に感じていたようだな。
母親の不調の違和感に……。
ヒダリオからすれば、王室の人間は邪魔者だ。
毒殺のターゲットになっていたのは容易に想像がつく。
しかし、国王に続き、女王までもが毒殺されたのでは城内で妙な噂が立つ。
それに、国王を毒殺したジョン・パックマンはすでに斬首されている。いうなれば、女王を毒殺する存在はいないのだ。
となれば、邪魔者である女王を殺害することはできない。しかし、ゆっくりならばどうだろうか? 毒殺とバレないように、まるで、病魔におかされたのごとくゆっくりと……。
考えられるのは少量の毒を食事に入れてジワジワと体を弱らせること。
これはあくまでも想像だ。ヒダリオには証拠がない。女王は本当に仕事の疲れだけで病んでいるのかもしれない。
ヒダリオが女王を殺そうとしているのは想像。あくまでも予想なんだ。
女王が弱っているという確固たる証拠が欲しい……。
しかし、その想定を裏付けるがごとく、3日も経てば女王の容体はずいぶんと良くなってしまった。
「チェスラ、ありがとうですってば。なんだか体が元気になってきたですってば」
「お母様。良かった」
「ふふふ。なんだか、もう少しすれば復帰できそうですってば」
ヒダリオは、この様子を不服そうな顔で見つめていた。
もちろん、遠くから、誰にも見えないように。残念ながら、俺の
チェスラと俺の予想は当たっていたようだ。
やはり、女王を不調はこいつが絡んでいる。
チェスラの背後からヒダリオを観察すると面白いな。
時折、鑑定スキルでチェスラを見たり、色々と考察をしているようだ。
ずいぶんとチェスラから距離を置くようになった。
奴は、彼女がしているブレスレットには気が付いていないようだ。
ふふふ。
残念ながら、鑑定スキルも隠蔽魔法によって遮断させてもらっている。
チェスラの周囲1メートルは薄い魔法壁で常に覆われているのさ。
ヒダリオを
それは危険だからできないんだ。鋭い奴なら簡単に気が付くだろう。あくまでも城内の情報はチェスラのブレスレットからだ。
ヒダリオは「ちっ」と舌打ちをして自分の部屋に帰って行った。
☆
〜〜ヒダリオ視点〜〜
クソ!
計画が台無しだ!!
オセロンを病死させる計画で食事に少しずつ毒を混ぜていたのに!!
気づかれる訳はない。
毒を入れる瞬間は、チェスラの部下をはじめ、彼女の位置だって把握しているんだからな。
毒が入っているという証拠は残っていないんだ。
しかも、少量だから、味見した程度では体調に変化はない。
絶対にバレない、完璧な計画だったのに!!
「クソ! どうなっているんだ!?」
僕はテーブルを叩いた。
オセロンの計画を潰されたあげく、彼女を鑑定することもできん!
魔法が使えない彼女が隠蔽魔法なんぞ使えるわけがないのに!!
「どうされたのですかヒダリオ様?」
大剣使いのゴルドンが眉を寄せる。
今は彼と2人きりだ。
「チェスラを鑑定スキルで観ることができない」
「それはおかしいですな。彼女は魔法が使えるわけではありません。王室の教養しかもっていない、ただの姫君です」
「それなのに、彼女の周囲には透明な魔法壁が張られている。おそらく魔法アイテムの効果だ」
「ほぉ……。どこで手に入れたんでしょうな?」
「彼女の動きを知りたい! 跡をつけろ! 友人関係を洗い出せ!」
こうして、チェスラの調査が始まった。
調査結果は紙に書いて僕の元に提出される。
僕はそれを見て体を震わせた。
調査結果の報告書に『衝突事故により追跡不可』と書かれてあったのだ。
詳細が知りたい。
「おい! 昨日の追跡班を呼べ!」
ゴルドンは部下たちを呼んだ。
もちろん、僕の息がかかった極秘チームだ。
「ヒダリオ様。どうされましたか?」
「なんだ。この衝突事故というのは?」
「はい。チェスラ姫が馬車で王都にお出かけになったので、その跡をつけたのですが、追跡班の馬と、果物を運んでいる業者の馬車と衝突事故を起こしてしまって追跡ができなくなってしまったのです」
タイミングが良すぎる……。
「果物を運んでいた業者の姿は見たのか?」
「美しいエルフたちでした」
たち……。
「複数人いたのか?」
「ええ。3人は乗っていたと思います。なんでも果物屋を経営しているとかで、大量のアプールを仕入れていました。それを道端にぶちまけてしまって……。悪いことをしました」
ライトが化けているのならば単独だ……。
複数ならばライトの変装じゃない……。
クソ! 偶然か!
それにしても上手くいかない!!
なんだ、この歯に果物の繊維が詰まったような気持ちの悪い感じは!!
クソクソ!
僕の計画は完璧なのに!!
ま、まぁいいだろう。
オセロンが回復すればチェスラと結婚はできるんだ。
それまでに不穏な要素は消してやる。
「引き続き、チェスラの尾行は続けろ。絶対に気づかれるなよ」
「はい」
「あと、事故があれば詳細を記載しろ。接触した人種、状況。克明に記入するんだ」
「承知しました」
もうすぐだ。
僕は王都の王になる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます