第82話 アレックスが動く
「聞いておきたいんだが……」
そう言って、公爵の息子アレックスは目を細めた。
「ライトの右手には魔神が宿っている。魔神デストラのことを王都が知ったらどうするのだ?」
ライトの力は、白魔法使いシビレーヌの件(第18話から21話参照)で明確化されている。
彼は魔神の力を制御し、最強の剣士になっているのだ。よって、天光の牙が断罪されたとて、大きな課題は残っているのである。
ライトが王都に敵対すれば、それは大問題。魔神の敵である天光の牙を断罪することで王都がピンチになっては本末転倒なのだ。
それには犬人族の美少女トサコが答えた。
「ライトさんは
「ふぅむ……。たしかに、彼は私の命も助けてくれた……。彼が復讐しているのは天光の牙だけだ……。それに、ズックの盗賊団デーモンスターを壊滅させたのは彼の功績と聞く。これだけでも、王都にとっては十分の実績だろう」
「ほじゃったら、ライトさんの罪は不問とうことでいいっちゃね?」
「………………………気持ちはわかるが、復讐は別だ。特に、グシェムン伯爵とボルボボン卿を殺めているのは大きい。王室としては断罪せざるを得ない」
「じゃ、じゃっても、牙のメンバーは王都を乗っ取ろうとしとるっちゃね。極悪人っちゃよ!」
「ライトの罪は王室が判断することだ。牙が
「つまり……。牙の罪とライトさんの罪。2つの罪があるぅいうことですか?」
「ああ。特にライトの右手は魔神だからな……」
「じゃったらぁああああああ!!」
と、トサコは立ち上がる。
「ライトさんの罪は
「しかし、トサコ……。それは無理があるぞ。君は病気だっただけで、何の罪もないんだ」
トサコは泣いた。
「違います!
「いや、あのなぁ……。流石にそれは無理があるぞ」
「じゃって、そがなん……ない思います。ライトさんはええ人なんですから! あん人は優しい人です!! 仲間に裏切られて、友達に裏切られても、お兄ちゃんを殺さなかったんですから!! 悪いんは全部
彼女は号泣した。
自分が言っていることが無理筋なのは十分に理解できている。でも、どうしてもライトを助けたい一心で言わざるを得なかったのだ。
そして、ついには、土下座までしてしまう。
「アレックス様。お願いします! ライトさんを助けとーせ! こんとおりじゃき! ライトさんを助けてつかーさい!! お願いします!! どうか、ライトさんの罪は不問にしてつかーさい!!」
何度も何度も頭を下げる。
アレックスは背を向けてブルブルと震えた。
(なんこの子、ええ子やん! めっちゃええ子やん! もう愛やん。めっちゃ愛感じるやん! なんなんこれ!? 泣けるやん! もうめっちゃ泣けるやん!!)
アレックスは「汗が」といいながらハンカチで涙を拭いた。
そして、振り向いた時には平静を装う。
「わ、わかった……。ライトの件はなんとかしよう……」
「ほんまやか!? ありがとうございます!!」
「た、ただし……。極刑が免れるように動くだけだ」
「……そ、そんなぁ。不問にはならんっちゃね?」
「それは無理な話だ。従来なら妹のアリンロッテすらも斬首の刑なのだぞ。家族も同罪になるレベル。高官や貴族の殺害はそれほどまでに罪が重いのだ」
「うううう……」
「……な、泣くな。できる限りのことはする。私だって彼に救われた身なんだからな」
「……ありがとうございます」
こうして、3人は、公爵の息子アレックスの協力を得ることができた。
アレックスはロントメルダの国王に直談判するため、1万人の兵団を結成。アレックス兵団は王都との国境付近に停滞していた。
しかし、国境の検問審査は厳しく、無闇な戦闘を避けているアレックスとしては入国審査に時間がかかる。
当然ながら、1万人の兵士がすんなりと王都領に入れるわけはなく、基本は国境付近での待機であり、入国条件は少人数になっていた。注目されるのは、その人数制限だろう。アレックスを含めた、彼の部下が何人まで入国できるか? その是非を問うのに時間がかかるのである。
王都ロントメルダの城では──。
「なにぃい!? アレックスが兵団を国境に待機させているだと?」
騎士団長ゴルドンは、伝達兵から渡された手紙を見て眉を寄せた。
手紙の内容を簡潔にいえば『国王との密会希望』。その会談内容は伏せられていた。とはいえ、国境付近に1万人の兵士が控えているのである。ただごとではないだろう。
しかも、自警団が離散したタイミングでの行動だ。明らかに怪しい。
密会の内容が、天光の牙に触れるものであるのは容易に想像がついた。
「1万の兵団か……。ふん。裏切り者の自警団兵が動いたか?」
「国境では公爵のご子息であるアレックス様が待機されております。よほどのことがあるのかと」
通常ならば、この手紙は国王に渡される物だろう。
だが、
ビリビリ〜〜。
彼は散り散りに破いてしまう。
それを見た伝達兵は青ざめる。
「え!? それはアレックス様からの手紙ですよ!?」
「今は豊穣祭で忙しいからな。国王はそれどころではないのさ」
「し、しかし、1万人の兵が国境付近に待機しているのですよ!? 豊穣祭どころではありません!」
「ちょっと、おまえの短剣を貸してくれんか?」
「え? わ、私のですか??」
伝達兵は自衛用の短剣をゴルドンに渡した。
瞬間、ゴルドンは自分の鎧にその短剣を突き刺した。
「な、なにを!?」
「裏切り者め。私の命を欲したか?」
ゴルドンは背中に備えていた大剣を抜く。
その影が伝達兵を覆った。
「え……………………………!?」
意味がわからない。
当然だろう。
彼は王都のため、強いてはゴルドンのために情報を伝えに来ただけなのだ。
ザグン…………!!
大剣の斜め一閃。
「ギャアアアアアアアアアアアッ!!」
伝達兵は即死した。
ゴルドンは大剣についた血を拭きながら、
「おまえは私を殺そうとした。この短剣がなによりの証拠だ。だから私に殺された」
大剣を戻すとニヤリと笑う。
「今は忙しい……。それどころではないのさ。ククク」
国王を囲んで、王都で開催される豊穣祭の打ち合わせが行われていた。
それは食事形式で実施されており、祭事に使われる作物を料理にして楽しむものだった。
料理長が国王にワインを注ぐ。
「去年より樽で寝かしておりました」
国王は満足気にそれを飲んだ。
「うむ。これは美味い! さぞや来賓は喜ぶことだろうな──。う、ううううううううう!」
「ど、どうされました国王!?」
「ゲハッ!」
突然の吐血。
そのままバタリと倒れ込んでしまう。
ヒダリオは国王に駆け寄った。
「そんなバカな! 毒だ! ワインに毒が入っていたんだーーーーーー! 国王! 気をしっかりなさってください!!」
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