第79話 ライトの城内調査

〜〜ライト視点〜〜


 俺は小太りの兵士ボビーの姿に変装して城内に潜り込んだ。

 目的はチェスラの婚約者ヒダリオを調べること。


 ヒダリオといえば天光の牙のメンバーだが、本人を見るまでは断定ができない。

 それにチェスラの怯え方は異常だよ。彼女のことを思ったら、この婚約は破談させる方がいい。

 

 内部の極秘情報は、エルフシステムのエルフたちによって詳細に把握している。


『ライト様。さっきのいじめっ子たちの名前が判明しました。そばかす男がバムカ。のっぽがビョッポ。小さいのがスモールーです。ボビーをいつもいじめている同僚のようですね』


『ありがとう。助かるよ』


『念のため、彼らの勤務配置をお知らせしておきます』


『うん、助かる』


 このボビーは城内の巡回兵だ。

 日替わりで様々な場所を巡回する。

 城内には兵士たちだけのチェックポイントがあって、そこでは独自の合言葉が使われていた。

 このシステムは最近になって設けられたらしい。

 要するに俺の対策だろう。城内に俺、もしくは俺の仲間が侵入するのを防ぐためだ。


  追跡飛行眼球トラッキングアイを使えば簡単に城内を調べられるんだがな。空気感というのかな? 実際にその場に立った方が情報はより詳細に把握できる。


 俺の眼前には2人の兵士が立っていた。


 あそこを抜ければ城の裏側だな。

 エルフたちの情報では台所に通じる裏口があるらしい。

 城内の構造を把握するためにも少々回っておこうか。


「あれボビー。今日はここを通る予定だったか?」


 適当に理由をつけてやろうか。


「バムカにお使いを頼まれたど」


「ああ、そうだったのか。あいつらは、またおまえを使っているんだな。しょうのない奴だよ。じゃあ、一応な。不死鳥は?」


 来た。合言葉だ。

 不死鳥は? と聞かれたら──。


「赤く舞う」


「よし、通れ」


 うん。上手くいった。

 

 俺は城の裏側に回ってそこから台所へと侵入した。

 すると、そこにいた中年の侍女が話しかけて来る。


「おや、ボビー。さては、飲み屋で散財したね。食べる物が買えないんでしょう?」


 そういうと女は干し芋をくれた。

 

 このボビーという男、いじめられてはいるが、悪い人間ではなさそうだな。

 若い侍女からは無視されているが、年配の侍女なんかは目をかけてくれている。

 どことなく頼りなくて、母性本能をくすぐるというか。放って置けないタイプなんだろう。


 俺は台所を通って城内に侵入した。


 城内には兵士間だけでのチェックポイントがある。

 いかめしい兵士がギロリと冷たい視線を俺に向けていた。

 ここで正体がバレればすべておしまいだな。

 城内は混乱して、潜入は終了だ。一度でも潜入がバレれば警戒レベルは更に格上げされるだろう。

 隠密に進めたい俺としては、できるだけ騒ぎが起こらないようにしたい。


「竜は?」


「赤い炎を吐く」


「よし。通れ」


 うむ。

 これで城内の重要拠点に近づいた。

 しばらく歩くと会議室、王の間と続く。

 中に入るのは厄介だな。それなりに理由が必要だろう。

 よし、ここは 追跡飛行眼球トラッキングアイを使って中の状況を覗くとしますか。


 俺は右手より目玉を飛ばして、それぞれの部屋へと侵入させた。

 目玉は映像と音声を俺の頭に伝えてくれる。


 と、そこに。


 あ、チェスラだ!


 複数の兵士と侍女に守られながらチェスラが廊下を歩いて来た。

 いつもは教会のお茶会で会っているんだがな。こうして顔を合わせると新鮮な気持ちだよ。


 俺は廊下の横に立ち敬礼をする。


 彼女は俺に気が付くことなく、そのまま歩いて行った。


 ふふふ。チェスエラさん、俺はここにいるってば。


 今回の目的はチェスラの婚約者であるヒダリオを調べることだからな。

 よし、彼女にも 追跡飛行眼球トラッキングアイを追跡させようか。


「おい」


 突然、背後より男の声。


 俺はゾクリと冷や汗を垂らす。


 だってそうだろう。

 俺に気配を悟られずに背後を取るなんて只者じゃない。


 俺がゆっくりと振り返ると、そこには白銀の服装をした剣士が立っていた。

 

 白銀の髪、白銀の鋭い眼球。

 ああ、間違いない。


 ヒダリオだ。


 天光の牙のメンバー、魔法剣士のヒダリオ・アッシュ。

 こんな場所にいるということは、やはり、チェスラの婚約者はこいつだったんだ。


「君は……。ボビー・ダメンズ……。今日は城外勤務のはずだが?」


 こいつ……。兵士の名前を覚えているのか? 勤務配置まで……。


「なぜ、こんな所にいるんだい?」


 たしか、ボビーを苛めていたのっぽのビョッポとチビのスモールーが城内巡回だったな。

 ちょうど、2人は外で気を失っている。これを利用してやろう。


「ビョッポとスモールーの代わりに巡回をしているんだど。あいつら外で寝ちゃってるんだど」


「……ああ、君の同僚だね。あの背の高い兵士と背が低い兵士だ」


 やはり、兵士の情報に詳しいな。

 普通、上官であっても兵士の名前まではわからないんだ。

 なにせ、この王城に出入りする兵士は4万人以上もいるんだからな。

 それなのに兵士の名前と特徴がスッと出てくる。

 なんなんだこいつ?

 

 そんな俺の心情を察してか、デストラが心の中に語りかけてくる。


『鑑定スキルで見るのはどうじゃ? 奴の能力も少しはわかるじゃろう』


『いや、迂闊な行動は避けよう。スキルの発動は魔力を消費する。勘付かれたら厄介だ。そもそも隠蔽魔法で能力を隠している可能性もあるしな』


『妙に隙のない奴じゃな。それにしても印象が薄い。3年前、こ奴の存在はそれほど主張せんかったぞ』


『陰の薄い奴だったからな。俺もあまり話したことはないんだが……』


 ヒダリオ・アッシュ。

 なんでも卒なく熟す、器用で、それでいて目立たない魔法剣士だった。

 寡黙な冒険者……。という印象。


「なぜだろう、ボビー・ダメンズ。君に興味が湧いている」


「ははは。ヒダリオ様に興味を抱かれるなんて光栄だど」


「振り向く瞬間。さりげなく脇を閉めて顎と上半身をガードした。その上で後ろ踵を浮かしたね。防御を固めながら距離が取れる準備だ。攻撃を受けてもバックジャンプで威力を殺せる。……だよね? あの一瞬でここまでやれる兵士はそういないよ。体型の割に、ずいぶんと鍛えているようだ」


「ははは……」


 やれやれ。

 厄介だな。

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