第78話 ライトの潜入

〜〜三人称視点〜〜


 ある晩のこと。

 ボビーがいつものように酒場に行くと、エルフの美女5人に囲まれた。

 いつもは眠そうな目をした小太りの男だが、その時ばかりは大きく見開く。


「え!? おいおい。どういうことだど? おでは天国に来ちまったかだど?」


 エルフたちの金髪の髪が靡くとフワァっと花の香りが広がった。


「くはっ! 良い匂いだど〜〜。デヘヘェ」


「ボビーさんって。とっても素敵♡」


「ムホ〜〜! 25年生きて来て最高の瞬間だどぉおおおお!」


「お酒……。いただいてもいいかしら?」


「飲んで飲んでぇえええ!! 奢っちゃうどぉおおおお!! 全員に奢っちゃうんだどぉおおおおお!!」


「あら素敵♡」

「ボビーさんってカッコイイわぁ」

「兵士の中の兵士って感じね」


「むはぁあ! おでは最強の男だどぉおおおおおおお!! 今日は給料、全部使っちゃうどぉおおおお!!」


「お喋りがとっても上手!」


「そ、そうかな?」


「ええ。とても♡」


「ふは!」


「今日はたくさんお話ししてくれますか?」


「するするぅううううう! するどぉおおおおおお! おでの武勇伝を語りまくってやるどぉおおおおお!!」


「きゃーー! 最高!」

「素敵!」

「楽しくやりましょう!」


「ふほぉおおおおおおおおおおおおおおお! 人生最高の日だどぉおおおおお!!」


 1人のエルフがメモを取っていることなど、この舞い上がった男にわかるはずもなく……。

 こうして彼は飲み潰れ、エルフたちに城内の極秘情報をペラペラと喋ってしまうのだった。


 情報の中には、ライトにとって最も興味深い情報が聞き出される。

 それはチェスラ姫の婚約者が「ヒダリオ」という伯爵の息子だということだ。


(ヒダリオといえば天光の牙のメンバーだ。よくも悪くも陰の薄い存在だったな。もしも同一人物ならば大変なことになる。牙のメンバーが姫と結婚すれば、王子は時期国王になってしまう)


 翌日。

 二日酔いのボビーは頭痛を抱えながらも昨晩のことを思い返していた。

 飲みつぶれてしまったのでエルフを抱くことはできなかったが、彼にとっては人生最高の時間だったのである。


(ああ、昨日は最高だったなぁああ……。デヘヘェ。美人なエルフが5人もさぁ。天国だったどぉ。……あ、あれ? なんか眠いような気が……。こういう時は目覚め草をかじるんだけど、二日酔いかな? 頭痛もするし、気のせいかな? なんか、おかしいような……ZZZ)


 彼は 睡眠魔法スリープの魔法で眠ってしまった。

 もちろん、これがライトの仕業なのはいうまでもないだろう。

 ライトは彼を地下倉庫に閉じ込めた。そこには保管用に絨毯が大量に置いてある。


「ほら、ふかふかだぞ。眠るには丁度いいだろう」


「むにゃむにゃ……。エルフちゃぁああんZZZ……」


「んじゃ、ちょっとばかしその姿を貸してもらうな。 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョン


 ライトはボビーそっくりになった。

 彼が地上階に出ると頬に羽虫のようなものが当たる。それが地面に転がると食用の豆だというのがわかった。


(豆……? なんでこんな所に?)


 彼の前には3人の兵士が立っていた。


(この顔……。知り合いっぽいな)


 ボビーの同僚である。


「お、無能なボビーじゃん」

「おいおい。見張りはどうしたよ? どこで油売ってんだ?」

「今日もキモいなぁ。テヘヘ」


 どうやら、彼をいつも虐めているようだ。

 その罵詈雑言は板に付いている。


「おりゃ。ウザいんだよ、てめぇはよ」


 顔にそばかすがついているバムカは間食用の豆をボビーに投げつけた。


(ああ、この豆はこいつが投げたのか)


パシッ!


 ライトが豆を掴むと、3人は鳩が豆鉄炮を食らったように驚く。


「な!? 掴みやがった!」

「ボビーのくせに生意気だぞ!」

「か、返せボビー! 俺が捨てた豆だぞ! おまえの豆じゃないんだよ! この泥棒が!!」


「ふむ。じゃあ返すど」


 ライトが親指で豆を弾くと、それは凄まじい勢いで飛んでいき、バムカの鼻の中にズボッ! と入ってしまった。


「はがぁッ!!」


 彼はそのまま倒れこむ。

 後頭部を強打すると同時。鼻血が空に舞った。そして、白目を剥いて気を失ってしまう。


「「 バムカーー! 」」


「あれ? おでは豆を返しただけだど?」


「ボ、ボビーのくせに生意気だぞ!!」

「ち、治療費をよこせ! さまなくばゴルドン様に言いつけるぞ!」


「それは困るど。おでは昨日、飲み屋で散財したからお金なんて持ってないど」


「だったら体で払ってもらおうかなぁ」

「そうだ、そうだ! 10倍にして返してやる」


 2人の同僚はポキポキと拳を鳴らす。

 そして、突っかかって来た。


「いつもみたいにボコボコに殴り倒してやる!」

「ギャハハ! 今日は泣いたって許さないからな! 終わりだよ! ギャハハ!」


(なるほど。こいつらがボビーを虐めているのは日常か。だったら目立つのはまずいな)


「怖いどーー! 勘弁してくれどぉお〜〜」


 ライトは逃げた。

 もちろん、振りなのはいうまでもない。

 しかも、弱々しくボビーの走りに似せている。

 ドテドテと腹を揺らして、なんとも運動神経の鈍そうなこと。

 そんな走り方なので、兵士たちは大喜び。


「ギャハハ! 逃げても無駄っての!」

「待て待てぇえ! ギャハハ!」


 しかし、一向に捕まる気配がない。

 業を煮やした兵士たちは策を練る。


「こうなったら挟みうちだ! 2手に分かれよう。おまえはあっちから行け!」

「了解! へへへ! ボビー終わったなぁああああ!!」


(ふむ、じゃあ適当に動いてっと)


ひょい。


 ライトが体を逸らすと、


「え、ちょ!」


「わぁ! 待っ──」


ゴチン! 


 2人の兵士は頭をぶつけた。


「「 ぎゃあッ!! 」」


 2人は「「うーーん」」と目を回しながら気絶してしまう。


「あれ? おでは逃げてただけだど?」


 デストラが心に話しかける。


『殺しても良かろう』


『いや、流石にそれはまずい』


 ライトはそそくさとその場を立ち去るのだった。


『運の良い奴らじゃのぉ』


 さぁ、城内調査の始まりである。

 目的はチェスラの婚約者ヒダリオを調べることだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る