第77話 ベテラン兵士は真実が知りたい

 自警団、第3支部長のハーマンの眼前に立っていたのは犬顔の戦士だった。

 大きな体に土佐犬のような顔。


「ト、トサホーク獄長!? ど、どうしてこんな場所に!?」


「まぁ、散歩っちゃね」


 いや、それは明らかな嘘であろう。

 ハーマンは汗を垂らす。

 ライトの話が本当ならば、トサホークは天光の牙のメンバー。

 明らかに敵側の存在なのである。


 しかし、トラップで発動したゾンビリザードは倒してくれた。

 これは一体どういうことだろうか?

 

(私を捕獲してゴルドンの元に連れて行く気か?)


「そう身構えんでええきに。わしは味方じゃあ。たしか、おんしは……。自警団の支部長じゃったなぁ」


「私は第3支部長のハーマン・ヤルゼバラス。そ、それ以上近づかないでください。……あ、あなたは、天光の牙のメンバーだ」


「怪我しとるじゃろうが。近づかんと治せんっちゃね。 魔獣道具箱アイテムパックンチョ


 すると、魔獣の口が現れて、その中から犬人族の美少女が吐き出された。


「トサコ。あん人を治してやってくれっちゃ」

「うん」


 トサコは手籠から 上級ハイポーションを取り出した。


「これを……」


「あ、あなたは……。獄長の妹ですか!?」


「ええ」


「びょ、病気で寝たきりだと聞いていましたが?」


 彼女は少しだけ頬を赤く染める。


「ライトさんが……。治してくれちゃったね」


(ライトが……。魔神の力なら病気も治せるのか……)


 ハーマンはベテラン兵である。

 彼らに敵意や、怪しい策略がないことを瞬時に感じとった。

 しかし、どうにも解せない。天光の牙はライトの敵であり、ハーマンにとっても敵対する存在なのだ。


「私をつけて来たのですか?」


「いや。そげな趣味はないがぜよ。わしもアレックス・シュナイダーに用がおうての。検問を避けて進んどったら、おんしに出会うたがぜよ」


「公爵の息子に用事…………? あなたは真相を知っているはずだ。わざわざ、こんな所を通ってアレックスに聞くこともないだろう」


「聞くっちゅうか、協力を頼もうと思うての」


「……どういうことですか? 意味がわからない」


「公爵の息子が味方になってくれるなら、相当な力になるじゃろうが」


「……あ、あなたは、牙を裏切るのですか?」


 トサホークは天を仰ぐ。


「罪を清算する必要があるっちゃね」


「真相が王室に伝われば、あなたは牢獄行きだ。今の職は奪われ、自分が管理していた牢獄に入れられるんですよ?」


わしは今まで死んどった。 血の禁止魔技ブラッディアーツを使ったことを隠し、王都の民を騙し、自分は監獄の上級職。これではゴルドンの飼い犬じゃ。生きてる心地はせん。牢獄にいるほうがよっぽど快適がぜよ」


 ハーマンは彼の目を見た。

 その瞳に嘘の色はない。


「私は真実が知りたい」


「ほじゃったら、証人はアレックス1人より、わしがおった方がええじゃろう。アレックスは白魔法使いシビレーヌの婚約者。わしは天光の牙のメンバーじゃ。これ以上に真実を証明する存在はおらんきに」


「………………………では、私と一緒にアレックス様に会っていただけますか?」


「もちろんじゃ。先鋒もその方がええじゃろう」


 こうして3人は公爵の息子、アレックスに会うことになった。




(王室が真実を知れば全てが解決する。チェスラ姫の婚約者ヒダリオは天光の牙のメンバーだ。これがゴルドンの策略だとなれば王都は牙に支配されてしまう。私とアレックス様。トサホーク獄長が証人になれば国王は聞き入れてくれるはずだ)




 一方、ペリーヌの運営する教会では。

 チェスラ姫が足繁く通う姿が見られた。もちろん、大きなメガネと貧相なマントに身を包んで、村娘チェスエラに扮してだ。

 彼女は、手土産として、孤児たちが食べる果物やお菓子を大量に持って来る。

 ただの村娘にそれほどの甲斐性はないだろう。この違和感に気がついているのはエルフの少女ことミギエだけだった。


 いつの間にか、チェスラを囲んでのお茶会がいつもの日課になってしまった。

 ミギトは彼女の動向が気になっていたので、情報収集がてら付き合うことにする。



〜〜ライト視点〜〜


 俺はシスターペリーヌの孤児院でチェスラを囲んでみんなでお茶会をしていた。

 チャスラはここに来ると元気が出るみたいだ。相変わらず、悩み事は消えないみたいだけど……。


「せっかく、ミギエお姉様にアドバイスをいただいたのですが、彼氏とは、なかなか話せそうになくて……。困ってるってば」


「やっぱり怖い人なの? たしか伯爵の息子だったっけ?」


「城内……いえ、領土内の噂は非常に良いんですってば。とても頼りになるみたいで……彼はみんなから慕われています」


「ふーーん。なのに会話ができない感じ?」


「はい。なぜここまで拒絶するのか、自分でもわからないんです」


「………………」


 女の勘ってやつか……。姫君の婚約者って誰なんだろう?

 エルフシステムは城内では使えないしな。

 一度潜入調査をしてみるか。彼女の婚約者を見てみたい。


 チェスラは馬車に乗って帰って行った。


『ライトよ。 其方そちの能力ならば隠れて城に潜入するくらいは容易じゃがな。内部にはどんなトラップが仕掛けてあるかわからぬ。トラップの作動は大混乱を招くぞ』


 たしかに……。

 

「そうなると、やはり変装して中に入るのが一番だよな」


物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンは一度見た人物の映像を体にペーストする魔法じゃ。城内にいる人物となると鉢合わせが危険じゃな』


「まぁ、そこは睡眠魔法で眠らせれば解決するだろうけどさ。問題は警戒状態なんだよな」


『ふむ。ボルボボンを探っていた時とは状況が違うからの。ゴルドンはライトの変装魔法を知っておる。対策をしておれば偽物と見破られる可能性はあるの』


「そこなんだよな。たとえば、合言葉とかさ。兵士同士で交わしている特別の言葉が言えないとバレてしまう」


『うーーむ。城内の状況が知れれば良いのじゃが、エルフを潜入させるのは危険じゃしなぁ。頭打ちじゃな』


「………………いや、そうでもないぞ。城外なら情報収集が可能だよ」


『城外で城内の情報を聞き出すじゃと? どういうことじゃ??』


「非番を狙う」


『なんじゃそれ?』


「兵士たちの休日さ。王城は娯楽が少ない。必ず城外で体を休めるさ」


『ほぉ。なるほど』


 エルフシステム始動!


『城の兵士の中で飲み屋に通ってる兵士はどれくらいいるかな?』


『とても数えきれません。数万人はいると思います』


『じゃあ、口が軽そうな奴とか心当たりないか?』


 エルフシステムのエルフは120人。

 その中の数人は飲み屋で働いて情報収集をしてくれているんだ。


『ボビーですね』

『ボビーだと思います』

『ボビーかな』

『ボビーはおっちょこちょいですね』

『ボビーは、よく城内の愚痴を酒場で喋ってます』

『ボビーはエルフの女が好きなので、なんでも話してくれますね』


 そいつだ!


『城内で勤務している兵士の情報を知りたい。合言葉や動作。城兵だけが知っている極秘情報だ。入手できそうかな?』


『『『 お任せください! 』』』


 流石はエルフたち。

 頼りになるな!

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