第75話 聖騎士ジャスティ⑤【復讐9人目】

「あぐぁあああああああああああああああああああああ……ッ!」


 ジャスティは股間に槍を刺されて悶絶していた。


「ぼ、僕の大事な所がぁああああああ……!!」


 確かにな。

 同じ男だから痛みはわかる。

 しかし、これは自分がやってきたことが返って来ただけにすぎない。

 こいつは、弱っているデストラの目玉をくり抜き、胸と股の部位を短剣で抉り取って楽しんでいたんだ。


『では、目玉の分の仕返しをさせてもらおうかの』


「!?」


わらわは優しいからの。胸の分はサービスしておいてやるのじゃ。その代わり、目を潰して一生見えなくしてやろうか』


「そ、そんな! し、視力だけは勘弁してくれ!」


『ほぉ。それは都合が良すぎんか?』


 ジャスティは俺に懇願した。


「ライトォオオオ。僕たちの仲じゃないかぁああああああ〜〜! た、頼む! 魔神を止めてくれぇえええええ!?」


「なぜ俺が??」


「僕と君は仲間だった! た、たしかに、あの時は酷いことをしてしまったかもしれない。しかし、もう罰は十分に受けたはずだ! 右腕は斬られ、股間は槍で貫かれた! その上、視力まで奪うなんて酷いとは思わないのか!? 君とは3年間も付き合った仲じゃないか! どうか、許して欲しい!!」


「いや、殺されないだけマシだろ?」


「そんなこと言わずにぃいいいい!! 僕と君との仲じゃないかぁああああ!! 頼む!! 君と僕の間にわずかでも友情が残っているのならば、魔神を止めてくれぇえええええ!!」


「いや、おまえとの友情なんて始めから無いよ」


「あああああああああああああああああああああああああ!!」


 その時だ。


『ライト!』


「うん」


 デストラの声と同時だったかもしれない。

 俺の体は真上に飛び上がっていた。

 すると、元いた場所をビュゥウウウウウウンと、なにかが通り抜ける。

 それは聖剣 薔薇女神の剣ローズデアだった。

 飛んでなかったら背中を貫かれていたな。


『やれやれ。不意打ちか。こ奴の思考は碌でもないの』


 デストラは 魔神聖石槍グングニルの穂先でジャスティの目を斬った。


「ぎゃああああああああああああああああああああああッ!」

 

『安心せぇ。血は出ないようにしておいてやった』


 見ると、彼の目の部位は石化している。


「げっ! そ、そんな!?」


『石化の呪いはわらわにしか解けぬ。貴様は今後、暗闇の世界で生きるのじゃよ』


「ああああ! 暗い! なにも見えない!!」


 ふむ。

 片腕で股間と視力を失ったか。

 こいつには相当辛い暮らしが待っているだろう。

 それも、全て自業自得だな。

 それに、こいつは部下に嫌われていた。

 俺とデストラだけじゃないんだ。大勢の人間を道具のように扱い、犠牲にしてきた。

 その罪を償う必要があるんだよ。


「ふ………。ふははは……。ラ、ライトォ……。これで勝ったと思うなよ」


「気でも触れたか?」


 ジャスティは左腕を広げた。




惨劇の聖剣舞踏会トラジディーソードバル!!」




 すると、周囲に薔薇の花びらが舞った。

 俺の頭上を聖剣 薔薇女神の剣ローズデアがビュンビュンと飛び回る。


「ハハハ! 逃げても無駄だぞ!!  薔薇女神の剣ローズデアの自動追尾攻撃だ!!」


「ほぉ。とっておきみたいだな」


「僕の視力を奪ったのは失敗だったね! 聖剣は解き放たれた!! 対象を殺すまで止まらないぞ!!」


「へぇ……。どうやって俺を認識してるんだ?」


 なにか印が付けられているわけでもないんだがな……。


 聖剣は俺に向かって飛んで来る。


「ギャハハハ! 終わったなぁああああああライトォオオオオオオ!! 聖剣は正義の剣なのさぁああ!! 邪悪な心を滅ぼすまでは攻撃をやめないのさ!!」


 ほぉ。邪悪な心……。


「魔神を宿している時点でおまえは終わったんだよぉおおおおお!! 聖剣はおまえを追いかける!! おまえを殺すまで一生追い続けるんだぁあああああああああ!!」


 邪悪な心を自動追尾するわけか。

 それって……。


 俺は聖剣の軌道を目で測った。

 ああ、やっぱり……。


「ギャハハハハハハハハッ! 死ね死ね死ね死ね死ね──」



グサッ……!!



「え……!? ……グフッ! な、なんで……。僕に……さ、刺さる??」



 聖剣は一直線にジャスティに向かって飛んでいた。

 そして、彼の胸を貫いたのだ。


「ど、どうして……? ゲボッ!!」


「どうやら聖剣はわかっていたらしい」


「な、なにを……?」


 俺はジャスティを指差した。




「邪悪な心の持ち主」




 聖剣は悪を許さない。

 結局、魔神より自分の主人の方が邪悪だったということか。





「そ、そんな……。ぼ、僕と 薔薇女神の剣ローズデアは深い友情で……………………………………」


 



 そんな風に思っていたのは自分だけだったということだな。

 

 ジャスティの心肺は停止した。

 口の中からは薔薇のような真っ赤な血がポタポタと流れ出る。


 瞬間。

 聖剣が輝き出す。

 と同意。女の声が脳内に響いた。


『私は聖剣 薔薇女神の剣ローズデア。長い間、間違った宿主と契約してしまった。私を解放してくれたのはあなたです。魔神の剣士。私を救ってくれてありがとう』


「そうか……。それは良かったな」


『私の契約は消滅しました』


 宿主が死んだからな。


「晴れて自由だな。好きにすればいいさ」


『………………………』


 聖剣の剣身はじぃーーっと俺の方を見つめていた。

 まるで声をかけて欲しそうだ。


「なんだよ?」


『いえ……。その……。聖剣は主人を探しますので…‥』


「ああ、そうか。野良犬ならぬ野良聖剣だもんな。主人は必要か」


ジィーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


「いや、だからなんだよ!?」


『私の存在は使う者がいてこそなのです』


 まぁ、剣だもんな。そりゃそうか。


『おいライト。こ奴めは、お主に契約してもらいたいみたいじゃぞ』


「は? なんで?? そんなわけないだろ。そもそも魔神と聖剣って水と油って感じだぞ」


『ライトが間に入ればなんとかなるのではないのかえ?』


「いや、おまえは嫌じゃないのかよ?」


『魔神が聖剣を使うなんて痺れよる。わらわの支配下なのじゃ。ヌフフ』


 ああ、そういう思考ね。


「まぁ、でも、俺には 魔神聖石槍グングニルがあるからな。こいつだけでも十分だよ」


 すると、聖剣と槍は互いに向かい合って体を揺らしていた。

 こいつら気が合うのか? まるで談笑しているおばちゃんみたいだな……。


「とにかく。武器は間に合ってるからな。じゃあな」


 すると、聖剣はフワフワと俺の跡をついて来た。

 まるで、迷子の子犬が人間に懐いているような感じ。


「なんだよ? ついてくんな」


 聖剣はしゅんとなった。


「は?」


「………」


「あのなぁ……」


「………」


 しゅん…………………。


「だああああ! わかったよ! 契約してやるから! 落ち込むな!」


 ったく……。


 俺は仕方なしに聖剣と契約をすることにした。

 魔神の力で反発するかと思いきや、意外にもすんなりとできてしまった。

 試しにブゥウンと振ってみると黒い薔薇の花びらが舞い散る。どうやら、少しばかし闇の力の影響が出ているらしい。


 さぁ、復讐は順調だぞ。

 天光の牙は残り3人。

 首を洗って──。いや、右腕を洗って待っていろ。



────


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