第73話 聖騎士ジャスティ③【復讐9人目】

 ゲームのルールは簡単だ。


 1つ、俺を倒す。

 2つ、逃げる。


「ゲームの名前は、『自警団の友情確認ゲーム』だ。おまえたちは団長と堅い絆で結ばれているんだろ? だったら、その証拠を俺に見せてくれよ」


「「「 ……………… 」」」


 あ、そうそう。

 これだけは言っておかないとな。


「逃げた奴は殺さないよ。そのまま自由にすればいいさ。でもな。この話は黙っておいた方がいいぞ。ゴルドンに殺されるからな」


「「「 ………… !? 」」」


 天光の牙が違法魔法を使ったこと。そして、討伐したはずの魔神が生きていること。

 こんなことが世間に知れ渡ったら大変だよな。牙の名誉は打ち砕かれて、英雄からたちまち罪人へと転落だ。ゴルドンが全力で阻止するのは目に見えている。


 兵士たちは汗は垂らして動かなくなった。


 ……これも伝えておこうか。


「ちなみに、俺がこんなことをやっているのは、ただ単に復讐だ。3年前。俺は天光の牙の連中に右腕を斬り落とされた。 血の禁止魔技ブラッディアーツは新鮮な生き血必要だったんだ。牙の連中は俺の生き血を使って魔神討伐に挑んだ。もちろん、俺は見殺しにする予定さ。口外されたら厄介だからな。右腕斬られてさ。ダンジョンに放置だぞ? こんなこと許せる? 俺は牙たちの右腕を斬り落とすことに決めたんだ」


 この言葉に反応したのは聖騎士のジャスティだった。


「だ、騙されるんじゃないぞ!! こいつが言ってるのは全部嘘っぱちだ! 牙は王都の英雄なんだよ! 僕はモテるからね。完全に嫉妬さ。嫉妬で嘘を流布しようとしているんだ!!」


「こんな手の込んだ噂の広め方あるか? ここに来たのは、おまえの右腕を斬り落としに来ただけだっての」


「ふざけるな! そんなことが許されるもんか!!」


 いや、おまえに許してもらおうとは思わんけどさ。


 さて、


「どうする? 俺と戦うか逃げるか? 選んでくれよ」


「た、戦え! 今こそ正義を実行する時だ!! 友情の力を示す時なんだよぉおおおおお!!」


「うんうん。それな。友情の力。俺も見てみたいよ」


 ジャスティが築いてきた友情ってやつをさ。


 命をかけて団長を救う姿が見たい。


 俺に見せてくれよ?


「さぁ、自警団の友情確認ゲームは始まってるぞ。どうするんだ? 戦うか逃げるか?」


 と、俺は剣を抜いた。


「俺の復讐に歯向かう奴は殺す。秒で殺してやる。……まぁ、こういうところは極悪人なのかもしれんな」


「ははは! 見ろ! 正体を表したぞ!! こいつは自ら極悪人と言っているよ!! さぁ、やれ! こいつを殺すんだよ!!」


 中年の兵士が俺の前に立つ。


「私は第3支部長のハーマンだ。あなたが言っていた話は本当か?」


「嘘ついてどうするよ? 俺の右手には魔神が宿っているのにさ」


「目的は王都の制圧か?」


「興味ないな。俺は復讐をしたいだけだ。俺を騙し、裏切った牙の連中を許せない」


「……右手の魔神。……暴走はしないのか?」


「俺の中に流れる魔封紅血族の血が、魔神の力を封じ込んでいる。こいつが暴走することはないさ」


 彼は俺の目を見つめていた。

 まるで心を覗こうとしているようだな。

 ベテラン兵らしいやり方だ。

 ことの真意を相手の目の色で判断しようとしているんだ。


「ハーマン! やれ! やってしまえ!! 命を賭けて戦うんだよぉおおお!! 君を支部長に選任したのは僕なんだぞ! 僕は恩人なんだ! いまこそ、その恩に報いる時だ!!」


「……しかし、ジャスティ団長。我々は訓練で疲弊しています。あなたが我々を酷使したせいで、もう剣を振るう気力すらありませんよ」


「な、なにぃいいいいいい!? ふざけるな!! 友情の力だ! 友情の力を振り絞るんだよぉおおおおおおおお!!」


「その友情ですがね……。我々は囮なんでしょう?」


「なに!?」


 おやおや?

 どういうことだ?


「あなたは、我々がライトに勝てないことを知っている。だから、囮にしてライトを攻撃するつもりだった」


「な、な、なにをバカなことを言ってんのさ。ふざけるんじゃないよ!」


「聖剣 薔薇女神の剣ローズデアは遠隔操作が可能だ。我々が戦っている隙にライトを攻撃するつもりだったのでしょう。あなたとは3年もの付き合いがある。だいたい、どんな戦法を使うのかはわかってますよ」


 ふっ……。

 このハーマンとかいう男。中々やるな。


 さてさて、


「おーーい。どうするんだぁ? ゲームは始まっているんだぞ? 早く選択してくれよ」


「友情だよ! 友情の力を見せるんだよぉおおおおお!! 戦えぇえええええええええええ!!」


 ジャスティの怒号は虚しく、兵士たちは次々に逃げて行く。

 

 ハーマンは俺を一瞥した。


「あなたの話……。すぐには信じられない。申し訳ないが、私の方で調べさせていただく」


 ふむ。

 やはり、この第3支部長のハーマンは仕事ができそうだな。

 よし、ちょっと教えてやろうか。


「情報の裏取りがしたいんなら、そうだな……。公爵の子息であるアレックスを訪ねるのがいいよ。彼は牙のメンバーだった白魔法使いシビレーヌの婚約者さ」


「公爵の子息。アレックスだな。わかった」


「くれぐれもゴルドンにはバレないようにな。バレた時は間違いなく消されるぞ」


「ありがとう」


 ふっ。

 まさか、礼を言われるとは思わなかった。


 兵士たちはゾロゾロと訓練場を出ていく。





「お、おい! 待てってば! 団長の僕が捕まっているんだぞぉおお!! 見殺しにするつもりかぁあああああ! 友情の力で僕を助けるんだよぉおおお!! それが正義だろうがぁああああああああ!!」





 兵士たちは、誰1人として俺に立ち向かう者はなく。

 気がつけば訓練場は、俺とジャスティだけになっていた。


「あああああ……。そんなぁ……」


「はい。ゲームオーバー。おまえの友情なんて存在しなかったな」


「うぐぐっ!!」


 まぁ、なんとなくはわかってたけどさ。

 こいつの友情なんて自分の都合のいいように解釈しているだけだ。

 仲間を道具としか思っていない。最低なクズ野郎だよ。


 突然、背後に気流の乱れ。


ビュゥウウウウウウウウンッ!!


 それは真っ赤な剣だった。

 それは空を舞って薔薇の花びらを撒き散らす。

 すさまじい速度で俺の体を突き刺そうとした。

 俺はそれをサッと躱す。


 ふむ

 聖剣の遠隔操作か。ハーマンの言ってたとおりだな。


「おまえ……。団員を囮にして、俺に攻撃するつもりだったの? 相変わらずクズだなぁ」


 聖剣はジャスティの体に巻き付いている木の蔦を斬った。


「黙れ! 僕は正義なんだ!! 一対一でも負けないのさ! さっきは油断したけどね。もう本気だから、終わりだよ。悪を倒して僕が勝つ!!」


 やれやれ。

 こいつほど邪悪な聖騎士も珍しいと思うけどな。

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