第71話 聖騎士ジャスティ①【復讐9人目】
自警団団長、聖騎士のジャスティはエリートである。
高学歴で、文武に長け、非常に才能に溢れていた。
親の教育理念は『他人は道具』である。
このとんでもない教育が彼を歪ませ、そして、反発するように正義への憧れを抱くようになった。
男爵の三男として生まれた彼は15歳でB級冒険者パーティー『翡翠の鷹』のメンバーに抜擢された。
そこで彼は、ゴルドンの指示で動き、冒険者のイロハを覚えたのだ。
彼の実力は目覚ましく、聖剣と契約を果たし、聖騎士の称号を得た。
翡翠の鷹が成長し天光の牙になった今、彼は組織の二番手として貢献している。
そんな彼に1人の兵士がしがみついた。
「だ、団長。もうダメです。きゅ、休憩をさせてください!」
ジャスティは目を細める。
「たかだか、腕立て伏せ1万回だろ?」
「そ、その前に素振りを2万回やっております。も、もう限界です。少し休憩を……」
「やれやれ。そんな弱音を吐く者が、王都を守れるのかなぁ?」
「し、しかし……。体が動きません」
「だから、力を振り絞るんじゃないか」
「え……?」
「友情だよ。頑張る力を振り絞るのは友情の力なのさ。僕たちは一致団結して友情の力で苦難を乗り切るんだ」
「し、しかし……。友情だけでは体は動きません。わ、私以外でも休憩を欲している者は大勢いるのです」
兵士が手差すと、腕立て伏せをやっていた兵士たちは『休憩欲しい』という懇願するような視線を送っていた。
「……………え、なに? 大勢で僕を悪者にしたいの?」
「は? な、なにを言っているのですか?」
「まるで、訓練を酷使させている悪い上官みたいな視線じゃないか」
「そ、そんなことはありません。我々は休憩を求めているだけです!」
「それが君たちの友情?」
「そ、それは……」
「おいおいおい。ははは……」
ジャスティは兵士の襟首を掴み上げた。
「ふざけるんじゃないぞ。この雑魚が」
「ひぃいい……!」
「雑魚で無能のおまえたちを、必死になって鍛えあげている僕の苦労も考えろよな」
「ううう……!」
「僕がおまえたちを鍛えているのはなぜだ? 言ってみろ!」
「お、王都を守るためです」
「そうだろう」
「そんな僕に感謝もせずに、責めるような視線を送るとはどういうことだ? ああん?」
「ち、違います!」
「違わないね。僕のアドバイスを聞くのかなぁ? 聞かないのかなぁ? どっちなのかなぁあ??」
「そ、それは……」
「僕が友情の証として、君たちにはアドバイスしてるんだよ。雑魚が少しでも使えるようにさぁあ!」
「あ、ありがとう……ございます」
「だよねぇ? 感謝がないと友情は続かないよねぇ? 僕たちの間には深い絆があるんだよ。じゃあ、教えてくれよ。僕たちの力の源は? 友──?」
「……情。……で、です」
「だよねぇえええええッ!! 友情を裏切るなんてあり得ないよねぇ! 最低な行為だよぉおお!! 僕のせっかくのアドバイスが台無しになるところだった!!」
ジャスティは兵士の腹に膝を入れた。
ボコォオオッ!
「ゲボッ!!」
「ったく。僕を舐めるんじゃないぞ。雑魚のくせに。僕のアドバイスは絶対なんだよ。それが友情なんだ。わかったか?」
「は、はい……」
ジャスティは手を叩く。
「さぁ、気を取り直して腕立て伏せだよ。追加でもう5000回追加してみようか。君たちは雑魚なんだからさ。もっと強くならないと使えないよね。わかったかな? ……あれ?」
突然の違和感。
周囲を見渡すと、訓練をしていた兵士たちは眠っていた。起きているのはジャスティだけである。
「聖剣
すると、なにもない空間から薔薇の花びらとともに真っ赤な聖剣が出現した。
どこからともなく男の声がする。
「ほぉ。一瞬で異変を感じたか。臨戦態勢になるのが早い。流石は自警団長だな」
「だ、誰だ!?」
「訓練兵たちは目覚め草を携帯していないようだな。これでは睡眠魔法にかかってしまう」
ジャスティはなにかを察したように目を細める。
「目覚め草は、門番をしている警備兵が持っているはずだけどね」
「ああ、確かに持っていたな。今は、ぐっすりと眠っているけどね」
「ライト……か?」
「…………」
「答えろ! おまえはライト・バンジャンスだろう!!」
「さぁて……。それは後のお楽しみと行こうかな」
急に白いモヤが辺りを覆う。
「聖剣
聖剣を振り回すと薔薇の花びらが舞う。と同時にモヤが消滅した。
「ハハハ! 僕に魔法は効かない! 君は隠れているつもりかな? どうせ隠蔽の魔法で魔力を消しているんだろ。でも残念。それも僕には通じないのさ。
「便利な聖剣と契約しているんだな」
「僕が正義の心を持っているからさ! 悪は僕が倒す! さぁ、聖剣
と、剣を顔の前で立てた時である。
わずかな隙にジャスティの後ろに誰かが着地。彼の後頭部に強烈な一撃が入る。
「グハァッ!」
(いかん。意識が遠のく……)
薄れゆく視界の中で、眼前に立っていたのは黒ずくめの男。ライト・バンジャンスだった。
「安心しろよ。殺しはしない。おまえの友情に興味が出たんだ。ちょっと、ゲームでもしようか」
ジャスティは完全に意識を失った。
彼が気がつくと木の蔦が体に巻き付いて動けなくなっていた。
「な!? ど、どういうことだ!?」
(ぼ、僕は生きている? これは木属性の魔法か……。右腕は斬られていない。一体、この状況はなんだ?)
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