俺の右手は魔神の右手〜腕を斬られてダンジョンに置き去りにされたので、俺もそいつらの腕を斬り落とすことに決めました〜

第68話 ミギトは不本意ながら活躍してしまう

　マルシェさんは石化した魔法壁を睨んだ。

　これは俺がやったことなんだけどさ。

　彼女いわく、魔法の二重付与といって上級テクニックらしい。

「一体、誰がこんな魔法を……」

「ほ、本当ですよね」

「……………まさか、おまえじゃないよな？」

「僕ぅ？　ハハハ。そんな訳ないじゃないですか。ハ、ハハハ……。ジョン・パックマンの仕業かもしれませんよ」

「それはおかしいだろう。私たちを攻撃して、自分で防御するわけがない」

「それを言ったら、僕たちを襲ってきた意味もわかりませんよ」

「確かにな……。あ、そうだ。ジョン・パックマンはどうなったんだ！？　私にはミギトが体当たりをしているように見えたが？」

　良かった。

　肘の攻撃は見えてなかったみたいだな。

　彼女の話しに合わそうか。

「闇雲な攻撃でしたが、体当たりが功を奏しました。ギルドの裏手に落ちましたよ。彼は気絶しています」

「よし。捕まえに行こう」

「はい」

　よし。魔法壁から注意がそれたぞ。

　石化を解除して痕跡は消しておこう。

　石化した魔法壁は瞬時に砂になって消滅した。

　よし、これでいい。

　そうだ。

　先回りして、ジョン・パックマンの腹部の傷を回復させといてやろうか。

「 加速（アクセル）」

　俺はマルシェさんとは反対方向から外に出てジョン・パックマンの腹部を回復した。

　回復させるのは腹部の傷だけだ。

　強烈な打撃の痕跡は、正体を探られた時に厄介だからな。

　と、そこへマルシェさんがやって来る。

「あれ？　ミギトどうして！？」

　と、後ろをキョロキョロ。

　はいはい。俺のことはいいから。いつの間にか追い越したことにしといてよ。

「見てください。ジョン・パックマンは気を失っていますよ」

　マルシェさんは気絶しているジョン・パックマンを縄で縛った。

　ギルドの冒険者たちがジョン・パックマンの周囲に集まって来る。

「しかし、ジョン・パックマンはとんでもない強さだったよな」

「なんでもイライザもローレントも一撃でやられたってさ」

「ゴガッツもシェルも一撃で倒されたらしい」

「化け物だな……。ギルドの破壊が目的かな？」

「そんなジョン・パックマンをミギトが一人で凌いだんだぜ」

「勇気があるやつだな」

「ミギトすげぇな」

「だな！　ミギトすげぇえよ」

「ミギトさん、すごいです！」

　いやいや。

　俺のことはどうでもいいんだ。

「マルシェさんのおかげですよ」

「え！？　い、いや……。私はなにもしていない！　ここにいるミギトが全てを解決してくれたんだ！」

　俺はマルシェさんに耳打ち。

「僕に話しを合わせてください。あなたはここのギルド長だ。問題解決はあなたの功績にすればいいんですよ」

「し、しかしだなぁ。私は嘘はつけないぞ」

　真面目だなぁ。

　まぁ、そういうところは嫌いじゃないけどさ。

「このままだと部下の失態で、あなたが責任を追及されるかもしれませんよ。なので、事件の解決はギルド長である、あなたがした。そういうことにしておきましょうよ」

「ううむ。し、しかし、これはミギトの功績だろう？　なんだか横取りしているようで気が引けるよ」

「いいから。僕に任せてください」

　これは俺のためなんだよな。

「みなさん、聞いてください。ジョン・パックマンが暴れた理由は未だにわかりません。真相は彼の目が覚めてから追及することとしましょう」

「「「　おお、確かにそうだな　」」」

「今回の事件を解決したのは、ここにいるギルド長、マルシェさんです！」

　と、俺が手ざすと、彼女は真っ赤な顔で「いや……。あの……私は……」と恐縮しまくっていた。

　本当に嘘がつけない人だなぁ。

　まぁ、新人ギルド長で、周囲のやっかみがあるみたいだしな。

　今回の事件で活躍したことにしておけば、彼女の株は上がるだろう。

「僕がジョン・パックマンに苦戦をしている時です！　颯爽と救援に駆けつけたのがマルシェさんだったのです！」

「「「　おお……それはすごいな……　」」」

「そして、弓矢と魔法攻撃でジョン・パックマンを一斉攻撃！　その威力たるや魔神の如く。そうして彼はギルドの外に吹っ飛んで気を失ったという訳なんです」　

「「「　おおおおおお……！　」」」

「ですよね？」

　と、彼女を見ると、全身から汗を飛散させまくっていた。

「え？　あ……。いや……。その……」

　俺はウインクをする。

「う、うむ……。ミギトのいうとおりだ」

「「「　うぉおおおおお！　流石はギルド長だぁあ！！　」」」

　うんうん。

　彼女は誠実だしな。ギルド長としては適任だろう。

　まぁ、とりあえずは解決だな。

　王城の奴らは確定できなかったがよしとしておこうか。

　それと、ミギトを怪しまれるのは当然の成り行きだ。

　当分はエルフの少女ミギエで出歩くことになるな。

『おい。 妾（わらわ）とのデートはどうなったのじゃ？　事件が解決したらデートをしてくれる約束じゃったよな？』

「ああ。ミギエになるけどいいよな？」

『よくない！　 妾（わらわ）は男女のデートがしたいんじゃああ！！』

「できるわけないだろ。ミギトは目をつけられているんだからさ。今後、気軽に出歩くのはミギエの出番だな。ギルド関係の時だけミギトだよ」

『そんなぁ〜〜。うう。許すまじ天光の牙！　この恨み晴らさでおくべきかぁああああ！』

　☆

〜〜三人称視点〜〜

　時はほんの少しだけ戻って、

ーーロントメルダ王城ーー

　水晶に左手を被せていたヒダリオは、ミギトのエルボー攻撃をモロに受けて吹っ飛んでいた。

「グフゥウウウウウッ！！」

　１０メートル以上も吹っ飛ぶ。

　その勢いは止まることを知らない。

　そのまま部屋の壁を突き破った。

　それを見た大剣使いのゴルドンは汗を飛散させる。

「ヒダリオ様ぁあああああ！！」

　それもそのはず。彼からはギルドの状況が見えないのである。

　急にヒダリオが吹っ飛んだものだから混乱するのは当然だろう。

「だ、大丈夫ですか？」

「あぐ……あぐぐ……。ブクブク」

　ヒダリオは白目を剥いていた。

　口の中からは泡をブクブクと吹いて気絶している。

「し、信じられん。　ヒダリオ様がやられるなんて！？　い、医療班！！　怪我人が出たぁあああ！！　早く来てくれぇええええええええ！！」

　城内にゴルドンの声が響く。