第67話 激闘ジョン・パックマン

 俺はジョン・パックマンと戦っていた。


 こいつは誰かに 憑依ひょういされている。

 王城の誰か、までは突き止めたんだがな。


『ライトまずいぞ。今、 追跡飛行眼球トラッキングアイで怪しい奴がおらんか外を見ておったがな。あの赤髪のマルシェとかいう女が冒険者を募って建物内に侵入しよった』


「それは面倒だな」


 まぁ、そうなるのは当然か。

 彼女はギルド長だからな。厄介者が暴れているのを俺一人に任せておくわけにもいくまい。


「イエエエエ! エルフボーイ! 逃げてばかりかホワァアイ! ユーアーチキンボーイ? オォオオケェエエイ!?」


 相変わらず杖の連撃が続いている。

 俺が避ける度にギルドがめちゃくちゃに破壊されていた。


 ちょっとうるさいから、手足を切断してやるか。


「おりゃ」


ヒョイ!


 あ、避けやがった。

 意外と素早いな。


「ヘイヘイ、ボーイ! 当たらなければ切断はキャンノット! できまセンネン! 亀は万年! ファック ユー!」


 やれやれ。

 こりゃ魔法無しじゃ勝負は泥沼だな。

 と、そこにやって来たのが彼女だ。


「ミギト! 応援するぞ!!」


 あちゃあ、マルシェさんが援軍を連れて来たぞ。それは弓矢を使うアーチャーと、攻撃魔法が得意な赤魔法使いだった。


「狙いはジョン・パックマンだ! 撃てぇえ!!」


上級ハイファイヤーボール!」

「スマッシュアローッ!!」


 矢と火球の同時攻撃か。

 しかし、ジョン・パックマンは杖を回転させてそれを防いだ。


「フーー! ミーにはそんなアタック効きませぇんですよぉ!!」


 と、中二階の廊下についている手すりを掴み取り、それをバキッと折ってマルシェさんの援軍に投げつけた。


ブオオオオオオンッ!!


 凄まじい速さである。

 マルシェさんはこの攻撃は予想していなかったのか、防御魔法を使える魔法使いを連れてこなかったようだ。盾を持った重騎士さえもいない。たかだか廊下の手すりなんだがな。速さが尋常じゃないんだ。あんなのをモロに食らったら体に穴が空いて即死だよ。


 マルシェさんたちは焦るだけ。

 とても防げる余裕なし。

 ああ、このままじゃ即死。


バギンッ!!


「ホワット!? 魔法壁ですか!?」


 仕方ないので俺が張ったんだ。 


 魔法壁は手すりの攻撃を防いでいた。


 手を掲げているとバレるので、ジョン・パックマンの背に隠れて発生させた。

 ジョン・パックマン越しなら、マルシェさんたちには死角になっているからな。


 マルシェさんは意味がわからない。


「だ、誰が!?」


 うわぁ、探らないでぇ。

 ミギトはG級の底辺剣士なんですよ。

 一応、魔法は使えないことになってます。


「フン! エルフボーイ! おまえの仕業か!?」


「さぁね」


「だったらこういうアタックはどうですかぁ?」


 ジョン・パックマンは周囲に落ちてる破片を拾って空中に放る。それを杖の打撃によって撃ち飛ばした。


カンカンカンカンカンッ!!


 それは魔法壁に蜂の巣のような穴を開ける。


 いかん。破壊される。


「やめろ! おまえの相手は僕だろうが!」


「ハハハ! 弱い者を囮にすれば、勝つのはイージーでしょう!!」


 魔法壁を強化!

 手の動きはジョン・パックマンで死角をついて見えないようにする。

 マルシェさんを守りながら、こいつを倒すんだ。


加速アクセル


 高速移動の魔法を付与。

 今までは情報収集で使っていなかったがな。この状況なら背に腹は変えられぬ。

 戦闘が長引けばマルシェさんが危ないよ。

 このままジョン・パックマンに攻撃だ。


「ハハハ! 魔法の高速移動ですか!? そうはいきませんよ!」


 と、杖攻撃。


 遅いよ。


「ホワット!? は、早い!?」


 姿勢を低くして躱す。


「そ、そんな……。防御が間に合わな──」


 そのままぁ、懐のに入って肘攻撃っと。


ズボォアアアアア……!!


 うん。腹の真ん中にモロに入ったな。




「グハ……! バ、バカ……な……」



 俺の肘は、そのまま壁を破壊してジョン・パックマンを押し込んだ。


 ちょっと、思い切りやりすぎたか。


 すると、その勢いは激しくて、そのままギルドの外に出てしまう。


 ここは中二階だからさ。ちょっと高さがあるんだよな。


ドシン……!!


 ジョン・パックマンは落下して後頭部を一階の地面に直撃した。


「アガッ!」


 泡を吹いて白目を剥く。

 と同時、こいつの体は元のサイズに戻り、ピクピクと痙攣するだけとなった。


 ふぅ……。


「よし。 憑依ひょういが解けたな」


 この状態なら復活はないだろう。

 操縦者にもダメージは通っているはずだ。

 こいつが白目を剥いているってことは、おそらく王城にいる誰かさんも同じようになっているってことだな。


 さて、マルシェさんを見に行こうか。

 怪我があったら大変だからな。


 俺が建物の中に入ると、マルシェさんたちが石の壁を不思議そうに見つめていた。

 彼女の眼前が石化しているのである。


 あちゃあ……。

 魔法壁の強化のつもりが、うっかり石化の魔法を使ってしまったな。

 マルシェさんの周囲を石化してジョン・パックマンの攻撃を防ごうとしたんだ。


「あ、ミギト! 無事か!?」


「はい。僕は大丈夫です。マルシェさんたちは?」


「私たちも無事だ。この石化した魔法壁が守ってくれたんだよ」


 良かった。

 怪我人はゼロだ。


「見てくれ。すごい防御魔法だ。魔法壁を石化させている」


「ほ、本当ですね」


「二重付与だ。魔法に魔法を付与して変化させている……。S級……。いやSS級の魔法だよ。す、凄すぎる……。初めて見た」


「は、ははは……」


 いかん。このままだとミギトが怪しまれる。

 外側はいくらでも別の人間になれるんだがな。

 せっかくミギトで築いた人脈……。ギルドでの関係は、エルフの少女ミギエにはないものだ。大切に使いたい。

 魔法壁の発動はマルシェさんたちには見られていないはずだ。なんとかして正体を隠そう。


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