第66話 ライト VS ジョン・パックマン

〜〜ライト視点〜〜


 俺はジョン・パックマンと対峙していた。

 ギルド員たちはマルシェさんとファンナが避難させたようだな。

 これならゆっくりと話せるよ。


 ジョン・パックマンの体は倍以上に膨らんで、全身から血管が浮き出ている。

 筋肉の膨張、というより、血液の暴走かな?

 体内でなにかの変化を起こしているんだ。

 こいつは鑑定士で、特に攻撃力に特化したタイプじゃないんだがな。

 一連の杖攻撃はずいぶんと威力が高いよ。


「ヘイヘイヘーーイ! エルフボーーイ。カモーーーーン!!」


 喋り方はジョン・パックマンなんだがな。

 

「ゴートゥーヘルです。ファック ユーー!」


 杖の突き攻撃。

 俺は剣を抜いてその杖を弾いた。


「ホワット!? 弾きましたか!?」


 ずいぶんと洗練されているな。

 さっきの突き……。素早さで誤魔化しているが、上半身は確実に安定していた……。杖を差し出す肩の角度。腰の捻り。完璧だ。しかも、前足が地面に付いて、後ろ足の踵が浮いていた。

 それが意味するのは、綺麗な重心移動による洗練された突きだ。

 完成されすぎてる……。相当の熟練度だ。

 ジョン・パックマンはA級の鑑定士ってことだがな。いやいや、S級はあるだろう。

 普通、ここまでの熟練度があれば、それなりの筋肉がつくもんなんだがな。

 こいつにはそれがない……。明らかに操られている。

 ここまでの技量……もしかして、


「おまえ……ゴルドンか?」


「ホワット!? 一体、なんのことでしょう??」


「目的はなんだ?」


「ふふふ。ミーはジョン・パックマンでぇえええす!」


「茶番はやめろ。僕には通じない。ゴルドンが憑依しているのか? それとも奴の差し金か?」


「ふふふ。さぁ、ホワット ドゥユーメェエエエエン??」


 いちいち腹の立つ態度だな。


「ユーこそ何者ですか? 雑魚のエルフにしては妙に動きがグッドですね?」


「僕はミギト。G級冒険者だよ」


「ほぉ……。ミギト……ミギト……。聞いたことがある名前ですね……。オー、ノー! 眼帯のナイレウスの死因調査報告書で見かけたのでぇええええす!」


「僕はあの事件でナイレウスさんとは同じパーティーだったからな」


「ほぉ……。ユーがミギトですか……。あの報告書では一番引っかかる人物でしたよ」


「……死因調査報告書は王城の騎士団と王都の自警団しか目を通せないな」


 そうなると、自警団長のジャスティが憑依しているということもあり得るのか。

 さっきの剣筋ならジャスティでもおかしくないな。聖騎士ジャスティは牙の中でもトップレベルで戦闘力に長けている。しかし、初めて見たような口振り。惚けているのか?


「報告書から人物特定の範囲を広げましたか……。グレイト……。ずいぶんと洞察力がありますね」


「何者だよ?」


「それはミーのセリフですよ。ユーこそ何者ですか?」


「だから、言ったろ。僕はエルフのミギトだって」


「オーケー、オーケー。ミーは鑑定士ジョン・パックマンでぇす」


 ……そんなわけないだろ。


「ジョン・パックマンはギルド員と握手をしたがっていたな。直に接触することでなにかを探りたかったんだ。特別な力を持った冒険者に会いたい。つまり、ジョン・パックマンの目的は人探しだ」


「ホワイ? 一体、なんのことでしょうか?」


「握手した瞬間。奴の魔力が空に向かって送信されたのがわかった。僕の情報をどこかに送信したんだろう。その魔力が向かった先は王城だった。自警団の本拠地とは違う方角だったな。そうなると怪しいのは騎士団長のゴルドンかな? 彼とはナイレウスさんの死因調査で知り合ったんだ」


「ははは。ユーの妄想なんじゃないですかぁあ?」


「王城で僕の情報を手に入れた者は、このギルドに向かうことを決めた。ところが、早く移動できる手段がない。早くギルドに行かなければ、ジョン・パックマンが見つけたであろう握手をした人物を逃してしまう可能性がある」


「ホ、ホワイ?」


「王城の者は最適解を見つける。ジョン・パックマンに 憑依ひょういするのがもっとも早くに、対象の人物と会うことができた」


「は、はぁあああ? ユーアークレイジー! おトークになりませんね。ははは」


「その証拠に、ジョン・パックマンは 憑依ひょういされる前にずいぶんと苦しんでいたよ。わけがわからない、という感じだった。つまり、 憑依ひょういの件は聞かされてなかったんだろう」


「は、ははは……。も、妄想って怖いですねぇ」


「それに、遠隔で状況を目視確認できる手段もなかった。ジョン・パックマンが 憑依ひょういされた後、彼自身が握手をした人物を探していたからね。 憑依ひょういされた彼が僕を認識したのは杖攻撃による回避行動を見たからだ。そうなると、結局、握手による人探しは魔力量の変化を追っていただけってことになる」


「は、ははは……」


「僕は強力な隠蔽魔法を使っていたからね。大方、それを確認したくてここに来たんだろ? 怪しい奴は何者だ?って」


「…………………」


「つまり、おまえに 憑依ひょういしている誰かさんは、死因調査報告書を見れる存在であり、王城の誰か、ということになるな」


「………………洞察力の自慢か?」


「事実の提示」


「ぐぬ………………」


 おやおや。

 笑顔が消えましたな。

 状況を整理しようか。


「結局のところ……。僕はおまえが誰かわからない。おまえも僕がわからない。そういうことだよな?」


「ふん。殺せばわかりますよ」


「うん。そういうだろうと思った。でも、ちょっと短絡的思考すぎない? 相手の技量がわからないのにさ」


「ははは! ミーの方が遥かにストロングでぇえええええす!!」


 再び杖の突き攻撃。


 俺は軽く避けて距離を取った。


 腕には相当に自信があるようだな。

 まぁ、さっきまでの攻撃で十分に理解はできる。

 でもさ、


「その遠隔って……。万能じゃないだろ?」


「!? ホ、ホワイ!?」


「さっきから単調な打撃攻撃しかしてこないからね。魔力送信のデメリットなのかな? 意識を乗っ取ってもさ。固有スキルとか魔法は使えないんだ」


「………………」


「喋り方はジョン・パックマンの影響を受けているから、彼が使う能力は使えるのかな。あくまでも、身体能力の強化と意思の乗っ取りだけと見たね」


「考察が好きだなエルフボーイ」


「だから事実の提示だってば」


「…………的外れだよ」


「へぇ……。じゃあ、スキルを見せてみなよ。攻撃魔法とかさ。僕の鑑定眼には、そんな特別な技は映っていないけどね」


「うぐ……。き、貴様……。鑑定眼を使えるのか!?」


「あれ? なんか雰囲気変わった? 僕のことユーって言わなくなったよ?」


「ふん! ペラペラと嘘ばかりトークしよって! サノバビッチ! エルフボーイ!!」


 ジョン・パックマンの杖攻撃が始まる。

 俺はその全ての攻撃を避けた。


 もう少し会話したいんだよな。

 そうすれば、もっと情報を引き出せる。


 それにしても荒々しいな。

 ギルドが破壊されまくってる。


ドガッ! バキッ! ババババンッ!!


 あららぁ。ペンキ塗りたての壁も、来賓室もメッチャメチャだよ。

 こりゃ早く決着つけないとギルドがバラバラになっちゃうな。


 でも、やっぱり思ったとおりだ。

 こいつは単調な打撃攻撃しかしてこない。

 攻撃に特化したスキルとか魔法が使えないんだ。

 まぁ、それゆえに操縦者の人物特定が難しいんだけどね。


 もう少し情報が欲しいな。

 とりあえず、戦力は奪っておきますか。

 あいつが杖を持っている右腕。

 いただきます。


「よっと」


ザクン……!!


 はい、切断っと。


「アウツッ!」


 俺って腕を斬る技術は世界一かもしれんな。


 さて、これでこいつの戦力は減退した。


 と、思うや否や。

 ジョン・パックマンの右腕は瞬く間にくっついて再生した。


「ククク。残念でした」


「なに!? 回復スキルか!?」


 おかしいな?

 俺の鑑定眼には、映っていないぞ?

 ジョン・パックマンは回復スキルも回復魔法も所持していないはずだ。

 どうやって回復したんだ?


「ふははは! 残念でしたね。エルフボーーーーーイ!!」


 やれやれ。

 謎はまだ残っているのか。


 突然、デストラが心の中で話しかける。


『ライト。あれはスキルや魔法ではない。あ奴は、自信の治癒再生能力で右腕をくっつけたのじゃ』


「へぇ。なんでそんなことができるんだろう?」


憑依ひょういの恩恵じゃろう。体が膨れ上がっておるのはそのためじゃ。体の基本スペックがずいぶんと上がっておる。元々の回復力も爆上がりじゃな」


 なるほど。

 まぁ、要するに回復力があって、身体能力が向上しているだけってことね。


 戦えば戦うほど情報がもらえるな。


 ギルドには悪いがもう少しだけ苦戦させてもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る