第64話 鑑定士 ジョン・パックマン

〜〜ライト視点〜〜


 俺はエルフの少年ミギトに変装して、王都のギルドに来ていた。


 ギルドは今大変なんだ。

 C級冒険者のマルシェさんが飛び級でA級になり、ギルド長にまでなってしまった。

 そんな彼女を推薦したのが、今、目の前にいる男。A級鑑定士のジョン・パックマンだ。


 赤髪の女剣士マルシェさんの紹介では、こいつはギルドの会計担当みたいんだな。

 つまり、ギルドの金を監視できるのはこいつなんだ。

 王城からの派遣者だからな。かなり怪しい男だよ。


「ユーがミギトさんですかぁ? G級の冒険者? オーー! 驚き桃の木サンショの木! 雑魚クラスでゴブリンボスを倒すとはすごいです!! ユーアーグレイト!!」


 なんだこいつ……。


「ミーはユーと仲良くしたいです。フレンド? パートナー? ノンノン! ファミリーでぇす! ミーとユーは家族なのでぇす!!」


 癖強ぉ……。


「仲良くしましょうね。ミギトさぁああん。では握手しましょう!」


「…………」


「オーー! どうしましたぁ? エルフは握手ができない種族ですかぁ? お手手ニギニギ。ダメですかぁ? ファミリーの絆。仲間同士のユージョー。熱い展開。フジヤマ。ゲイシャ。握手ダメですかぁあ??」


 ……………さぁて、どうしたもんかな。


「さぁ、握手です。握手! ラブアンドピース! 握手で仲良くなりましょう!」


 突然、俺の右手である魔神デストラが心に語りかけてくる。


『こ奴……。相当に怪しいぞ』

『だな。俺を探る瞳の色がすでに怪しいよ。おそらく鑑定スキルを発動しているんだろう』

『バカな奴じゃな。ライトは隠蔽スキルで能力を隠しておる。魔力量を悟られることはないのじゃ』

『だから、余計に怪しいんだろ。俺のことを探りたくてウズウズしてる顔だよ』

『直に触ったところで、わらわの隠蔽魔法が崩せるとは思えんがな。なにがあるかはわからん。ここは用心して握手はスルーが安定じゃな』


 うむ。


『じゃあ、握手するか』

『は!? わらわの話、聞いとった!?』

『こいつの目的はわからないからな』

『じゃ、じゃから、慎重にじゃなぁ……』

『例えばだけど、爆弾がどこに仕掛けられているかわかなかったらさ。いちいち探すより爆発させた方が簡単だろ?』

『な、なんじゃその理論は!? めちゃくちゃじゃあ!』

『時間短縮だよ』

『じゃったら左手でやってくれい!』

『何言ってんだよ。右手で触った方が、おまえもよくわかるだろうが』

『ふひぃいい。他の男にわらわの体が抱かれてもいいのかええええ!?』

『いや、俺の右手で握手するんだよ。変な表現はやめろ』

『んもう! ライトは魔神使いが荒いんじゃからぁ。なんという男じゃ。うう! その強引さ。嫌いではない!!』


 たかだか握手で大袈裟な。


 さて、どんなことになるのか?


「さぁ、ミギトさぁああん。握手しましょう! ミーとユーのハートをコミュニケートさせようではありませんか!」


 はいはい。

 んじゃ、握手っと。


ムギュ……。


 ん?

 なんだ違和感。


「オーー! ワンダホーー! イッツア、ミステリーー!!」


 なんだなんだぁ?

 魔力がジョン・パックマンの体を突き抜けて空に飛んだぞ。


『ライト。感じたか?』

『ああ』

『なんじゃ、この魔力の移動は?』


 空に飛んで行った魔力……。

 あの方角は王城だ。

 つまり、


『送信だな』

『な、なんじゃと!?』

『俺の情報を王城にいるゴルドンたちに送っているんだろ』

『それならば安心じゃろう。ライトの魔力は隠蔽の魔法によって隠されておるんじゃから』

『……それが目的かもな』

『どういうことじゃ?』

『隠蔽の魔法で能力を隠している人間を探しているということさ』

『しかし、そんな冒険者は他にもおるじゃろうて』

『隠蔽の魔法でも強弱はあるからな。俺が使うのは強の方だ。そういうのを読み取ったのかもな』

『むむむぅうう!』


 読めたぞ。

 マルシェさんをギルド長にしたのは俺を誘き寄せるためだったんだ。

 騎士団長ゴルドンはミギトに目をつけていた──。

 いや、ギルド員全員かもしれないな……。ナイレウスを殺した犯人を探すために、ギルド内の全員を鑑定士にチェックさせたんだ。ギルド長がマルシェさんになれば、噂を聞きつけた冒険者がギルドに集まる。人事異動を機会にしてジョン・パックマンに調べさせたという筋書きなら、全ての辻褄が合う。


 それに、あいつの顔から笑みが消えているよ。

 その視線は殺気さえ感じる。


「おーー。グレイト……。ミギトさぁん……。会いたかったでぇす」


 やれやれ。

 こっちの顔が本性か。




〜〜三人称視点〜〜


ーーロントメルダの王城ーー


 占い師のオババが七色に光る水晶を見て目を見開いた。

 その玉は、ジョン・パックマンが送信した魔力を受信する物だったのだ。


「おおおおおお! 変わり者じゃ。現れよったか! ゴルドン様に伝えねばならぬ!」


 丁度その頃。

 ゴルドンの前に日陰のヒダリオが降り立った。

 彼は一つ目の巨人サイクロウブを倒して飛んで帰ってきたのである。


「お、お早いお帰りです」


「ああ。いい運動になったよ」


「もう討伐は済んだのですか?」


「まぁね。巨人の首を斬って、傷ついた討伐隊を回復させてやったよ。巨人を倒したのは君の功績にしている。国王からの報酬関係は全て君が受け取ってくれ」


「……ありがとうございます。では、ヒダリオ様の件は秘密でしょうか?」


「うん。討伐隊にも口止めはしているよ」


「なるほど。口止めなどしても噂は広がるもの……。帰ってからが見物ですな。ヒダリオ様の人望は城内で高まることは必須です」


「ふふふ。口外禁止を頼めば、他に漏らしてしまう。それが人間だよね」


「ふふふ。ここだけの話、が城内で広まるでしょうな」


「討伐隊が帰ってきてからのお楽しみさ」


「腕試しと、人望の強化。まさに一挙両得。流石でございます」


 と、そこへ占い師のオババがやってきた。


「ゴルドン様! ジョン・パックマンからの魔力送信を受信しましたのじゃ!!」


「当たりか?」


「わかりません。七色に輝いて、見たこともない変わり者です」

 

「ほぉ。魔力量がわからないのか?」


「強力な隠蔽魔法を使っておるのでしょう。正体不明の変わり者ですじゃ」


「ふっ。でかした。オババは休んでいろ。水晶の部屋へは誰も入らぬようにするんだ」


 ゴルドンとヒダリオは水晶の部屋へ行った。


「本当だ……。見たこともない輝きだ。ヒダリオ様。どう見ますか?」


「怪しいね」


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