第62話 ギルドが大変
〜〜ライト視点〜〜
俺は眉を上げた。
その姿はエルフの少年ミギトだ。俺の右側には魔神デストラが純白のワンピースを着て妹のデスコを演じている。
「マルシェさんってC級冒険者だよね? そんな等級でギルド長になったの?」
ツインテールの僧侶ファンナは眉間にシワを寄せながら、
「今までのクエスト功績が王室に認められてね。飛び級でA級に昇格されたんだよ。でも、周囲が黙ってなくて……」
そりゃそうだろう。他にもA級の冒険者はいるからな。
やっかみがあって当然だ。しかし、気になるな。
「誰が彼女を推薦したのかな?」
「ジョン・パックマンという鑑定士です。王城から派遣されたA級の鑑定士でね。彼の強い希望でマルシェさんがギルド長になってしまったんです」
「へぇ……」
聞いたこともない奴だな。
エルフシステム始動。
『エルフたち、聞こえるか?』
『『『 はい! 聞こえております! 』』』
俺は、王都に潜入している120人のエルフたちと心の中で通信ができるんだ。
『ジョン・パックマンという鑑定士を知りたい。情報を教えてくれ』
『はい。フルネームはジョン・パックマン・チェッカー。36歳男。A級の鑑定士ですね。クルクルの天然パーマと青い瞳。襟元から見えるフサフサの胸毛が特徴的。髭が濃いのが悩みのようですね。毎朝剃っているようですが、顎には青髭がびっしり。隣国のなまりがあるのでしょうか。喋り方はずいぶんと癖があって特徴的です。ギルド長をしていた眼帯のナイレウスが死亡して、その数日後に王城より派遣された冒険者のようですね』
王城から派遣されたのか、臭うな。
『派遣された目的は?』
『ナイレウスの後継ですね』
おいおい。
それでマルシェさんに役目を押し付けるっておかしくないか?
ギルドが混乱するじゃないか。
『ジョン・パックマンは、王城ではなにをしてたんだろう?』
『隣国で冒険者をしていた彼を王城がスカウトしたようですね。私どもが監視を始めたのはそこからです。なので、隣国でのデータはありません』
王城がスカウトか……。
『王城の誰がスカウトしたかわかるか?』
『……………すいません。そこまでは調査不足です』
『いや大丈夫。情報は十分だ。助かるよ』
ゴルドン絡みかな?
妙な男だ。
「えーーと。ファンナはジョン・パックマンさんのことは知っているのかな?」
「あの人は新人ですからね。よくはわかりません。とにかく明るくて……かなり癖が強い人ですね。みんなに握手を求めるの。変わった人……。C級の私にも握手を求めてきたんだよ」
握手……。
怪しいな。
なにかを探っているのかもしれない。
ファンナの顔は曇っていた。
「えーーと、僕に相談って?」
「マルシェさんが悩んじゃって……。『こんな時、ミギトがいればな』ってよくいうんですよ」
「僕なんか、少ししか一緒に仕事してないよね?」
「んーー。なんだろう? なんかミギト君って頼りになるんですよね」
「ははは。そんなことないけどね」
「そもそも、王城にマルシェさんの功績が認められたのは、ミギト君がゴブリンボスを倒してくれたからだもん。だから、私たちはミギト君に絶大なる信頼を置いているんですよ」
「ぜ、絶大……。大したことはしてないけどね」
「良かったらギルドに来てくれませんか? マルシェさんに会ってあげて欲しいんです」
これはギルドが気になるな。
会わない理由はないだろう。
「うん。わかった。じゃあ、ちょっとトイレに行くから待ってて」
と、俺とデスコは立ち上がる。
「え? きょ、兄妹でトイレに行くの?」
「あ、うん。1人だと不安みたいだからさ。な、デスコ?」
「
合わせろよ。
俺はなんとかその場を誤魔化してトイレに隠れた。
さて。
「トイレをするなら妹が手伝ってやらねばなるまいな。ヌフフ」
「アホ。デートは終わりだ」
「うなーー!」
俺はデストラを右手に戻した。
『酷いのじゃ!』
「話し聞いてたろ? ギルドが大変なんだよ」
『
「いや。そうでもないだろ」
なにかある。
おそらくジョン・パックマンはゴルドンの遣いだ。
『うう……。せっかくのデートがぁ』
「そうボヤくなって。この件が済んだら続きをやってやるからさ」
『絶対じゃぞ!』
「はいはい」
俺はファンナの席に戻った。
「あれ? デスコちゃんはどこに行ったのですか?」
「ああ、ギルドが大変だからね。家に帰らせたんだよ」
「え!? 1人で行動できるんですか??」
「あ、うん。そういうのも大事かなって」
「それは悪いことをしましたね」
「大丈夫だよ。気にしないで」
「それにしてもデスコちゃんって可愛い妹ですね」
「そうかな? わがままで困ってるよ。ハハハ」
ムギュッ!
痛い。
つねるな!
☆
〜〜三人称視点〜〜
ーーピャコール草原ーー
そこには王城の兵士30人と、王立魔法審議会から10人の魔法使いが派遣されていた。
計40人もの人間が相手をしているのは1体の巨人である。
その巨人は一つ目で、体高は優に30メートルを超えていた。
審議会の話では、ある秘宝に引き寄せられて王都ロントメルダに向かっているという。
こんな巨人が王都を攻めれば被害は甚大である。
巨人の名前はサイクロウブ。
存在が発覚した当時はA級判定のモンスターだった。
しかし、40人もの手練が攻撃をしてもビクともしない。
その体は頑丈で、凄まじい攻撃力を持っていた。
サイクロウブの猛攻により、40人いた兵士たちは大勢が命を落とした。その総勢が20人まで減っているので、巨人の強さがいか凶悪であるかはいうまでもないだろう。
兵士たちは、応援を要請し、今ではS級判定のモンスターへと昇格していた。
「ああ、ダメだ。巨人は止まらない」
「応援はまだか!?」
「このままでは全滅だ」
「魔法弾を撃てぇえええええええ!!」
「
「ダメだ。止まらない」
「草原を抜ければロントメルダ領だぞ!」
兵士たちは絶望していた。
あと数日も保たない。いや、もう数時間だって。
そんな時である。
巨人の前に着地したのが1人の魔法剣士だった。
「ふぅ……。やっぱり飛んで移動できるのはいいね」
日陰のヒダリオである。
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