俺の右手は魔神の右手〜腕を斬られてダンジョンに置き去りにされたので、俺もそいつらの腕を斬り落とすことに決めました〜

第61話 新しい妹

　ピンク色のツインテール、僧侶のファンナは目を瞬いた。

「あ、あの……ミギト君。結局、彼女とはどういった関係なんですか？」

「あははは。ちょっと、こいつ。人見知りでね。紹介するね。彼女は僕の妹の……」

　えーーと、名前はどうすっかな？

　デストラだから……。

「デスコっていうんだ」

「んなーー！　なんじゃその名前はぁ！？」

「あはは。デスコはデスコじゃないか。緊張しすぎだぞ。この人見知りめ」

「ぐぬぅううう」

「さぁ、さぁ、挨拶しなさい」

「うぬぅ……。デ、デスコなのじゃ。……よ、よろしく」

　ブハッ！

　あの高飛車なデストラが人間に向かって頭下げとる！

「よしよし。よく挨拶できたな偉いぞ〜〜」

「ぐぬうう！　なぜ、 妾（わらわ）が人間に丁寧な挨拶をせねばならんのじゃ！」

「俺たちの正体がバレたら厄介だろ」

「他のエルフに化ければ済む話じゃろう！」

「変身できるエルフのストックは盗賊に殺されたエルフだけだぞ。使える数は無限じゃないんだ。だから、ミギトの身分は大事に使わないといけないんだよ」

「ぐぬぬ……。しかし、妹はないじゃろうが。せめて恋人じゃあ！」

「いいから、合わせろ。なにごとも隠し通すことが大事なんだよ。それともなにか？　まさか妹の演技ができないとでもいうのか？」

「な、なんじゃと！？」

「魔神デストラが、まさか……。たかだか妹の演技ができないとか？　もしかしてそうなのか？　それなら他の案を考えるしかないな。こんな簡単なことができないのなら他の案を──」

「で、できるに決まっておろうが！！　この魔神デストラを舐めるでない！！　最強の妹を演じきって見せるわ！！」

　よし。面白くなってきたぞ。

　これで、こいつが俺にしがみついている理由は確立できた。

　エンフィールから初めて都会にやって来て、人の多さにビクついている。という設定にすればなにも問題はないだろう。

「私は僧侶のファンナ・リナーゼ。お兄さんのミギト君とはクエストを何回か一緒にした仲なんですよ。よろしくねデスコちゃん」

「は、はいなのじゃ。よろしくなのじゃ。でも人間は怖いのじゃ。モジモジ。お兄ちゃぁん」

　……急に演技臭くなったが、まぁいいだろう。

「デスコは王都を見るのが初めてなんだよ。なので、僕が案内していたんだ」

「ああ、そうだったんですね！　エンフィールより、やっぱり人が多いですよね。ふふふ。怖くなっちゃうのもわかります」

「あはは。まぁ、もともと内気なんで」

「でも、兄妹で仲がいいんですねぇ。ふふふ。ミギト君は素敵なお兄さんって感じしますもんね」

「ははは。そんなことないよ」

　デストラは俺の右腕を更に強く抱きしめた。

「お兄ちゃぁん。デスコ。家に帰ってお風呂に入りたいのじゃ〜〜」

「そかそか。ちょっと疲れちゃったね」

「いつもみたいに一緒に入って欲しいのじゃあ」

「え？」

「体を洗いっこしたい♡」

「ちょ、おま……」

「ね。お兄ちゃん？」

　その顔は勝ち誇ったようにニヤリと笑っていた。

　この野郎。妹の身分を利用して反撃に転じたか。

「ミ、ミギト君！？　そ、その歳で一緒にお風呂はまずいのでは？？」

「は、ははは。１００年以上も前の話だよ。デスコは、まだ甘えたが抜けなくてね。兄としては困っているんだ」

「そ、そうなんですね。デスコちゃん。お風呂は１人で入るものですよ」

「うん……。でもね。お兄ちゃんはデスコの体に興味津々なの。この前なんかね。デスコのお股に手を入れられたのじゃ」

　ぬぉおおおおおおおおおおおおおいッ！

　これ以上喋るなぁああああああ！！

　ファンナは全身を真っ赤にしていた。

「ミ、ミギト君……。お年頃なのかな？　そ、そういうのは彼女を作ってやった方がいいと思う。そ、その……。彼女がいないのなら、その……。わ、私が立候補しちゃいますし」

　な、なんか変な展開になってきたぞ。

　相変わらず、デストラは勝ち誇った笑みを見せているしな。

　ここは早めの退散か。これ以上、鬼畜妹に話させたらミギトが変態兄貴になってしまうよ。

「じゃ、じゃあ、僕たちはこれで……」

「ま、待ってください。実は、ミギト君を探していたんです！」

「え？　僕を？」

「はい。ギルドのことで相談したいことがあったんですよ」

　ギルドは、ギルマスだった眼帯のナイレウスが死んで大変だったな。

　新しいギルマスが誕生したんだろうか？

　ギルドにはエルフを忍ばせているので、エルフシステムを使えば内情はわかるけどな。

　まぁ、深刻そうな話だし、ファンナから内情を聞いてみようか。

☆

〜〜三人称視点〜〜

　日陰のヒダリオは、王都ロントメルダの王城の上空にいた。

　目的の人間を確認すると急降下。

　大剣使いゴルドンの前に着地した。

「やぁ」

「ヒ、ヒダリオ様！？　どこから！？」

「飛んで来たのさ」

「フ、 飛行（フリーゲン）ですか！？　いつの間に習得されたのですか！？　あ！？」

　ゴルドンは彼の左腕が再生されていることに気が付く。

「い、妹女神を吸収されたのですね？」

　ヒダリオの左手はタコのように動いた。

『サハンドリィーネでありんす』

「おおおおおおお……。す、すごい。左手が妹女神になっている……。これは聖霊体内吸収（エレメンタルドレイン）で吸収されたのですね」

「まぁね。僕にかかればこんなもんさ」

「さ、流石でございます」

「あれから１週間だ。戦況はどうなっている？」

「変わっておりません。１０万の兵士を投入したのですが、ライトはおろか、妹のアリンロッテさえも見つかりません」

「まぁ、そんなことだろうと思ったよ。手がかりはゼロ？」

「面目ない……」

「いや。魔神の力がすごいということさ。新しい作戦を練る必要があるね」

「では、作戦会議室に参りましょう」

「その前に腕試しがしたい。せっかくの力だからね」

「なるほど。では、適当な王城の問題が必要ですね」

　ゴルドンは懐に忍ばせていた手帳を取り出した。

　その中には王城のスケジュールがビッシリと記入されている。

「西方のピャコール草原に一つ目の巨人が出ているようですね。王城の兵士団と王立魔法審議会が討伐に出ているようです」

「魔法審議会が？」

「審議会が所持している秘宝に引き寄せられているようですね。討伐隊には１０人の魔法使いが参加しているようです。発覚当時、巨人はＡ級指定のモンスターでしたが、今は、その強さからＳ級判定になっていますね。討伐は苦戦中。増援を要求されております」

「いいね」

「従来なら、私の騎士団が出る予定だったのですが……」

「僕が行こう」

「馬車を出せば１週間はかかる場所です」

「飛んでいけば３０分で着くよ」

　ヒダリオは 飛行（フリーゲン）の魔法で西方の空へと消えた。

　ゴルドンは、その光景を感嘆の想いで眺める。

「すごい……。やはり、あの方は最強だ……」

ーー王都市街ーー

　ファンナとミギトたちはカフェに入っていた。

　ミギトは彼女の言葉に目を見張る。

「え！？　マルシェさんがギルド長に抜擢された！？」

　マルシェとは赤髪の女剣士、Ｃ級冒険者のマルシェのことである。

　ミギトが驚くのも無理はない。ギルドには彼女よりも上級のＡ級冒険者がいるのだから。