第55話 犬人戦士 トサホーク①【復讐8人目】
俺は地下の訓練場に来ていた。
目の前には犬顔の戦士、トサホークが立っている。
今でこそ、ロントメルダ監獄の獄長として立派な鎧を身に纏っているが、こいつは、天光の牙のメンバーだった。
正直。
一番、仲が良かったと言っていい。
こいつとは、冒険が終わったら酒を飲んで、よく騒いだ。ゴツい体をしているが、俺と同じ18歳なんだ。
それは3年前のある日のこと──。
いつものように豪快に酒を飲んだトサホークは、真面目な顔を俺に寄せつけた。
「おいライトォ。もうそろそろ、
「なにをだ?」
「ナニじゃよ。ナニィイイイ!!」
「????」
それは、娼館に行って童貞を捨てる話だった。
王都では15歳が成人だ。俺たちは、もう18歳だからな。
酒を飲んで一念発起したトサホークは、勇気を振り絞ったと言うわけだ。
こいつは見た目に違わず純粋なやつで、俺とは感覚が似ていた。
マタタビ亭の猫人の女主人が色っぽくてさ。こいつが惚れていたのを今でもよく覚えている。
でも、告白もできなくてな。そういう内気な部分は本当に俺とよく似ている。結局、性欲には抗えず。というか、トサホークにすれば、女主人とそうなった時に見栄を張りたかったのかもしれない。
当然の成り行きといえばそうなのだろう。
しかし、俺は、
「好きな人とそういうことしたいからさ……」
と、言って断った。
トサホークは1人で娼館に行き、大人になって帰って来た。
それから、しばらくはウザめのマウントを取られたのを覚えている。
「いやぁ。
「はいはい」
「まぁ、なんでも相談に乗るぜよ。
「うぜぇ……。それ、トサコちゃんは知っているのか?」
「言うわけないじゃろうが!」
「じゃあ、報告しとくわ。大人の責任で」
「すまん! それは勘弁してくれ!!」
トサコちゃん、とはこいつの妹のことだ。
俺たちは互いに兄貴で、妹が大好きだった。
そんな共通点があったのも仲良くなった理由の一つかもしれない。
トサコちゃんは重い病にかかっていた。ずっと寝たきりだ。
でも、兄の看病もあって、ベッドの中だけでも少しくらいは会話ができた。
俺とアリンロッテはトサホークの家に遊びに行ったりしてさ。
そこでアリンロッテがシチューを作ってな。4人で「美味い」「美味しい」って、笑いながら食べた記憶があるよ。
それくらいさ。
仲が良かったんだ……。
なのに、魔神デストラの討伐が決まった1ヶ月前だ。
トサホークは急に俺を避けるようになった。
こいつからは剣技を教わっていた。
いわば、俺の師匠でもあるんだがな。
俺を避けるようになってからは、剣技の練習にも顔を出さなくなったんだ。
当時の俺は、理由がわからなくて混乱したよ。だから、娼館に行くのを拒否したからだと思っていた。付き合いが悪かったのを根に持ったのかと──。
──今になったら、あの急変ぶりは理解ができるな。付き合いが悪いくらいで何日もヘソを曲げるような奴じゃなかった。
「トサホーク。おまえ、知っていたな? 俺が魔封紅血族ってことをさ」
「……それがどうした?」
「俺が殺されるってことを、知っていたんだ。魔神討伐の1ヶ月前。おまえは急によそよそしくなって、俺を遠ざけるようになった。それは、ゴルドンから魔神討伐の計画を聞いたからだろ? 違うか?」
「だったらなんだ?」
俺は素早く移動して、トサホークの頬に拳をめり込ませた。
ボコォオオオオオオ……!!
トサホークは10メートル以上吹っ飛ぶ。
「最低のクズ野郎ってことさ」
トサホークにはさほどダメージはないようだな。
俺を睨みつけながら立ち上がった。
「ぬぐぅう……。こじゃんと強うなったやないかライトォ」
「おかげさまでな。おまえに裏切られたついでに、強い力を手に入れたよ」
俺の右手は美少女に変貌し、その美しい四肢を俺の体に絡めた。
『
「魔神デストラ……」
『犬人族の戦士よ。
俺は彼女を右手に戻した。
「俺がここに来たってことはさ。なにが目的かわかるよな?」
「ふん。おんしは腕斬りじゃ。
「ああ、そういうことだ。俺が味わった苦痛をな。倍以上にして返してやるよ」
「できるもんかよ。おんしはG級の荷物持ち。S級戦士の
「3年前はA級戦士だったはずだ。人を騙して出世してよ。嬉しいのか最低野郎が」
「騙されて殺される方が間抜けぜよ。それに、
「よくいうよ。嘘つきが。仲間の命を売って得た功績だろうが。獄長さんよ」
「返り討ちにしちゃるぜよ」
トサホークは地面から大きな口を出現させて、その口の中から大きな斧を取り出した。
『ほぉ。魔獣召喚か……。魔獣の胃袋を
「関係ねぇよ」
トサホークは大きな斧を俺に向かって振り上げた。
「死ねぇええええええええええええええええええ! ライトォオオオオオオオ!!」
この剣筋……。
『お、おいライト! 避けぬか!』
ドゴォオオオオッ!!
大斧は地面を割る。
それは俺の体の横をギリギリ通っただけだった。
避けるまでもない。
こいつは端から当てる気がなかったんだ。
「なんだこの攻撃は?」
「ふん! ビビって避けるかと思うたがぜよ! G級の荷物持ちがぁああああ!」
俺は再びこいつの頬をぶん殴った。
ボコォオオ……!!
「ぐふぅ!」
「舐めた攻撃してんじゃねぇよ。この犬っころのクズ野郎がぁあああ!!」
『お、落ち着けライト……! ど、どうしたのじゃ!? いつものお主らしくないぞ!?』
これが落ち着いていられるかよ。
こいつだけは、こいつだけは絶対に許せないんだ。
信じていたのにさぁ。
仲間だと思っていたのにさぁああああああ!
あの時。
俺が腕を斬られて苦しんでいる時さ。
あいつは……。トサホークは顔を背けて、俺の方を見ようともしなかったよなぁあああああ!!
「ふざけんなッ! ボケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
絶対に許さねぇ!!
お前だけは、お前だけはとことんやってやるからな!!
「立てやこらぁああああ!! かかって来いよ犬っころがぁあああああああああ!!」
ふざけんなよトサホーク!
お前のことは……。
本気で友達だと思っていたのにさぁああああああ!!
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