第52話 新しい力
魔神デストラは眉を寄せた。
『ふぅむ。厄介じゃのぉ。それではゴルドンにライトの正体が知れてしまったわけか』
「まぁ、いずれはわかるからな。でも、俺には
『ふふふ。確かにの。奴らがライトを探しても千年かかっても見つからんじゃろうて』
「問題は俺の関係者だ。おそらく、妹を探している。アリンロッテを人質にすれば、俺は動けなくなってしまうからな」
ノーラは眉を上げた。
「でも、アリンロッテさんはこの国に住んでいますよ。エンフィール内は衣食住が充実しています。万が一の警備だって万全。そもそも、国外には出ませんからね。彼女が王都に行って捕まることはありませんよ」
「確かにな。アリンロッテは大丈夫なんだ……」
と、地図に表記された孤児院に目をやる。
「シスターペリーヌには孤児の面倒を見てもらっている。先日、知り合ったハツミも働いているしな。彼女たちが俺の関係者だとバレるのはまずい」
「……なんとかならないのでしょうか? 王都内にはエンフィールと繋がりのあるエルフが120人ほどおります。全面的に協力はしたいのですが、ゴルドンの差し出す兵士ならば数万人規模になりましょう。とても、太刀打ちができませんよ」
「うん。実は、今回の会議は、その話を詰めたかったんだ」
「どういうことでしょうか?」
「王都内のエルフの数さ。120人もいるんだな」
「ええ。たった120人です」
「いやいや。120人もだよ」
「え?」
「120人の仲はどうなんだ? 内紛があると困るんだけど?」
「我々は平和主義です。思想は同じ。内紛なんて起こりません。都内でもとても仲が良く団結がとれております」
「それを聞いて安心した」
ノーラは小首を傾げる。
「どういう意味でしょうか?」
「120人を王都内でまんべんなく配置するんだ。100万人の王都民の中に紛れ込ませる」
俺は地図上の主要箇所を丸で囲んだ。
「ここと、ここと、ここ。人通りが多くて情報が行き交う場所にエルフを置く。情報は120人で伝達をしてね」
「なるほど……。つまり、120人のエルフで情報網を作るわけですね」
「うん。俺の活動を秘密裏に支えるエルフの組織だ。できるかな?」
「それは可能でございます。というか、ぜひやらせていただきたいです! ライト様に受けたご恩をお返しする絶好の機会。我々エルフ一同、渾身の力にて協力させていただきます!」
「ありがとう。心強いよ」
「王都内にいるエルフたちは、エンフィールが盗賊団デーモンスターに襲われたことは知っております。また、その盗賊団を倒してくれた英雄がライト様であることも熟知しているのでございます。我々はライト様にご恩返しがしたいのです」
よし。
120人の仲間ができた。
しかも、天光の牙には知られていない秘密の人材だ。
ノーラは地図を見ながら顔をしかめる。
「しかし、困りましたね。情報伝達をするにも、王都は広すぎます……。120人の情報共有に時間がかかってしまいますよ」
ふふふ。
実はそれも考えていた。
こういう時を想定して、それなりに作って準備しておいたんだよな。
俺は
中には白い骨でできたイヤリングがたくさん入っている。
「まぁ……。とてもシックでお洒落なデザインですね。なにかのアイテムでしょうか?」
「ジャイアントキラーリザードの骨で作ったイヤリングさ。俺の魔力が込められていてな。付けた者同士で通信ができるんだ」
「すごい! それは便利です!」
「たくさん作ったからさ。エンフィールのエルフも耳に付けてくれれば王都のエルフと通信ができるよ」
「ライト様がデザインされたのですか? とてもお洒落ですよ!」
「ははは。まぁ、嫌味のない質素な感じにはしといたけどね」
「使い方はどうするのでしょうか?」
「相手の名前と顔を浮かべて念じるだけさ。想像した人物がこのイヤリングを付けていれば通信ができるんだ」
エルフたちは喜んでイヤリングを付けた。
「ノーラ姫。聞こえますか?」
「すごい。頭の中に声がしますね」
「わ、私もいいでしょうか? ノーラ姫。聞こえますか?」
「ええ。聞こえますよ! シゼリアの声もマーシャの声もしっかりと聞こえます!」
「「 わぁあ! すごいすごい! 」」
「白色と月形のデザインが、エルフの白い肌に似合いますね」
「はい! とても素敵です! 通信機能はさることながら、お洒落としても十分に使えます!!」
ふふふ。
我ながら便利な物を発明してしまったな。
デザインも気に入ってくれてなによりだ。
こういう女心は普段から気にしている方なんだよな。ふふふ。
毎年、アリンロッテの誕生日プレゼントで鍛えられているのは伊達じゃないのさ。
『ライトよ。そのイヤリングは
「ああ、別にあるけどさ。おまえは付けなくても通信はできるんだぞ? イヤリングの魔力付与は俺がやってんだからさ」
『そういう問題ではない。女は装飾品には心が躍るもんなのじゃ』
彼女は魔神の姿になって、その耳にイヤリングを付けた。
『へへへ。似合うかの?』
「ああ、まぁな」
『そうか。フフフ』
変な奴。
まぁ、いいか。
「そのイヤリングを王都にいる120人のエルフに配る。彼女たちは俺のために暗躍するというわけだ」
「お任せください。早急に手配いたします」
そうそう。
この情報網の総称も考えていたんだよな。
「名付けて、『エルフシステム』」
さぁ、楽しくなってきたぞ。
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