第51話 牙の作戦とライトの作戦

〜〜三人称視点〜〜


 王都ロントメルダの城。


 その会議室には騎士団と自警団が集まっていた。


 教壇に立つのは大剣使いのゴルドンである。

 彼は机上を叩いてこう言った。


「ライト・バンジャンスが生きていた」


 これに驚いたのは自警団の団長ジャスティ。


「え!? ほ、本当に!? どうやって助かったの!?」


 ゴルドンはことの経緯を話した。

 ベリベーラの娼館で腕斬りをおびき寄せようとしたこと。

 そこでライトが腕斬りだったことが発覚し、ベリベーラが殺された。

 彼の右手に魔神デストラが宿っていることも。


「じゃあ、娼館を燃やしたのもライトの仕業……」


 ゴルドンは白銀剣士のことは伏せた。

 剣士の正体はヒダリオである。あくまでも、彼は陰のリーダーなのだ。

 今回の作戦会議はヒダリオからの指示だった。


 ゴルドンは部屋の壁に貼られた王都の地図を手差す。


「兵力を投入して、ライトを探す。自警団からは1万の兵。騎士団からは9万の兵を出す。計10万の兵を王都に潜入させてライトを見つけるのだ」


「総動員だね。王都の人口が100万人だから、約10人に1人が僕たちの兵士ってことになる」


「そうだ。兵士にはライトの似顔絵を持たせている。黒ずくめの剣士。右手には魔神を宿し、腰には剣を備えている。それがライトの特徴だ。該当する者は問答無用で逮捕、勾留ができる。反抗するなら殺害も許されるのだ」


「じゃあ、賞金をかけて貼り紙をすればいいんじゃないの?」


「ダメだ。そんなことをすれば警戒されるからな。あくまでも秘密裏にやるんだ」


「でもさ。該当者を捕まえていたら、いずれは噂になると思うけど」


「ふ……。そうなればこちらの狙い通りだ。奴には、王都に潜む兵士の数がわからん。10万人の兵士が自分を狙っていることを知れば落ち落ち夜も眠むれんさ」


「うーーん。でも、ライトは眼帯のナイレウスを倒すほどの実力者だよ。他にも、盗賊のズック、解呪士のジィバ。いずれも戦闘力がずば抜けて高い。そんな者たちを倒すほどの実力だ。たとえ10万人でも、ただの一般兵が敵う相手じゃないと思うけどね」


「そのとおりだ。だから、ライトの弱みを探す」


「弱点なんかあるのかな?」


「妹さ」


「ああ! アリンロッテか。たしかにライトは妹大好きだもんね。彼女を人質にできれば戦況を有利にできるのか。ジィバが倒されたから、石化は解けているんだよね」


「彼女を盾にすれば、ライトは無力だ。10万の兵士はライトを殺すことが目的ではない。本当の狙いはアリンロッテを見つけることだ。王都の中以外でも、周辺の村や森にも捜索隊を出している」


「なるほど。ライトを狙っておきながら、その実は妹が目的。考えたね」


「ククク。ライトには後悔させてやらねばならん。我々に敵対したことをな。アリンロッテを捕まえて、死ぬことより苦しい目に遭わせてやるのだ!」


「あーーあ。せっかく魔神の力を持っているのにバカだね。僕たちに逆らわなければこんなことにはならなかったろうにさ」


「ククク。アリンロッテさえ見つけ出せればこちらの勝利は確定だ。天光の牙を舐めるなよぉおおおおおおお!!」




〜〜ライト視点〜〜


 俺はエルフの国エンフィールの城で、女王ノーラたちと作戦会議をしていた。


 ノーラは王都ロントメルダの地図を見ながら目を細める。


「こんな所に娼館を建てたのですか……。シスターペリーヌが運営する孤児院の真ん前です。厄介ですね」


「孤児院と俺の関係がバレているわけではないんだ。あくまでも、娼館は俺を誘き寄せる作戦と、孤児院に対する嫌がらせを兼ねていた」


「嫌がらせとは?」


「この孤児院は亡きボルボボンの協力で設立されたんだ。いわば公金の投入。そのやっかみが王城でもあるんだよ。要するに、税金を孤児に使うメリットがないと思っているのさ。孤児は政治の闇で生まれるんだ。好きなように国を動かして、孤児が生まれても知らん顔とは良いご身分だよな」


「あの……。少し疑問なのですが? ボルボボン卿は税金の運用には厳しい人でした。そんな人が孤児院の設立に協力をしたのですか?」


「それは……」


 すると、俺の右手は魔神の姿に変貌した。

 その四肢を俺の体に絡ませる。

 最近、この登場パターンが定着しているよな。妙にベタベタと体を密着させてくる。


 彼女はスベスベ肌の細い指で俺の顔を摩りながら、


『ライトじゃよぉ。ボルボボンが死んだあとにな。こやつが卿に変身して孤児院設立に暗躍しよったのじゃ』


「では、孤児院設立の多額の出費はライト様の采配なのですね?」


『そういうことじゃな』


「流石はライト様……」


わらわとしては意味不明じゃわい。修道女とも孤児とも、なんの縁もゆかりもない関係なのじゃからなぁ。そこまでしてやることになんのメリットがあるんじゃよ?』


 別に……。


「メリットの問題じゃないよ。ただ、なんとなく、だ」


『ブハ! 出た出た。そういうのを人間の世界では『お人好し』というんじゃぞ』


「うるさいな。別にいいだろ」


『ふん。本当に妙な男じゃわい』


 そんな中、会議室のエルフたちは微笑んでいた。その温かい視線を俺に向ける。

 ノーラも満面の笑みである。


「我々はライト様のご活躍に敬服しております。エルフだけでなく、人間の孤児までも助けてしまう。本当に優しいお方です」


 えーーと、なりゆきです。


「エンフィールの民は、一生をかけてライト様についていく覚悟です」


 なぜ、その思考にいたるのかはよくわからんが、まぁ、言及するのはやめておこう。

 エルフは平和主義者だからな。こういう事案が心に刺さるんだろう。別に狙っているわけじゃないんだがな。


『むむ。エルフを心酔させるとは、流石はライトなのじゃ。この女っ垂らしめ!』


 と、俺の頬を引っ張る。


「痛ででで……。やめほっへ」


『ええい! やめて欲しくばノーラとわらわと、どっちが美しいか言うのじゃ!!』


「おまえちょっと黙ってろ」


 と、俺は右手に精神を集中して、彼女を右手の形に戻した。


『うなーー!』


「右手でも話しは聞けるだろ?」


『うう。ライトの意地悪ぅ。……でも、そういう強引なところは嫌いではない』


 やれやれ。


「じゃあ、気を取り直して本題に入る。ゴルドンたちは俺の正体を探っている。大方、『腕斬り』の犯人が俺であることも目星がついているだろう」


『うん? なんでそんなことがわかるのじゃ?』


「娼館で戦った白銀剣士を覚えているか?」


『ああ、あの全身が銀色の鎧を着た男じゃな。ライトが左腕を斬り落としてやったのじゃ』


「奴は転移魔法陣を使って逃げた。おそらく、移動先はロントメルダの王城だろう。あいつはゴルドンがよこした使者だ」


『ふぅむ……。しかし、推測じゃろ?』


「いや、そうでもない。俺の右手にデストラが宿っているのを見て驚いていたからな。魔神のことを知っているのは天光の牙だけだ」


『では、あの白銀剣士は牙のメンバーが扮しておったのか?』


「ああ。多分ね」

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