第46話 占い師ベリベーラ②【復讐7人目】

「そ、そんなバカな!? 眠り草の粉が入ったお茶を飲んだのに、眠くならないなんて!?」


 と、ベリベーラは目を見開いた。


 完全毒耐性のある俺には、そんな粉の効果は効かないのさ。


「俺が誰だかわからないか?」


「お、俺……?」


 ああ、今はエルフの少女、ミギエだったな。 

 一人称が私から俺に変わったら、それは違和感があるだろう。


 俺は元の姿へと戻った。

 それは黒ずくめの剣士の男。


「これでわかるか?」


「ラ、ライト!? ライト・バンジャンス!?」


「久しぶりだな。ベリベーラ」


「い、生きていたのかい!?」


 ああ、また同じパターンだ。

 まぁ、こいつらが俺の正体を知らないから仕方ないか。


 俺の右手は少女の姿へと変貌する。

 その華奢な四肢を俺の体に絡めて抱きついた。


わらわもおるぞ』


「ま、魔神……デストラ!?」


『あの日。お主たちがわらわを討伐しようとした日。わらわの魂はライトと同化したのじゃ。互いに消滅しようとしていた命をのぉ。魂在融合という形で助け合ったのじゃよ』


 ベリベーラは目を細める。


「じゃあ……。腕斬りの正体はあなただったのね。ライト」


「そういうことになるな。俺はおまえたちに右腕を斬り落とされた。だったら、斬り返されても文句は言えないよな?」


「……なるほどね。……わかったわ。観念するわよ」


 そう言って、彼女は右腕を差し出した。


 ほぉ。潔く斬られようってことか。

 このパターンは初めてだな。

 ふむ。認めてやろう。


「自分の罪を反省するがいいさ」


 俺は剣を振ってベリベーラの右腕を斬ろうとした。

 剣身が彼女の肌に触れようとしたその時。強烈な光とともに、黄金に輝く魔法陣が出現した。


「なんだ?」


「あははは! バーーーーカ! あたしが素直に腕を斬られると思ったの!?」


「どういうことだ?」


「プフフフ。まんまと引っかかったねぇ」


 引っかかるだと?


「アハハハ! 教えてあげるわ。これは全部、ゴルドンさんが練った計画だったのさ。この娼館の建設は腕斬りをおびき寄せる罠……。守銭奴のボルボボン卿が孤児院なんて作るわけないでしょ。だったら、孤児院の設立には腕斬りが絡んでるんじゃないかと睨んだのさ。案の定、目の前に娼館を作ったら、腕斬りが現れた。ククク。計画通り。まんまと罠にかかったねぇ」


 なるほど。

 これは天光の牙のリーダー、大剣使いのゴルドンの計画か。

 奴らなりに腕斬りの対策を練っていたわけだな。


 空中に浮かぶ魔法陣から白銀の鎧を着た剣士が現れた。

 どうやら、転移魔法陣になっているようだ。

 剣士は、上から下まで鎧に身を包んでおり、素肌は見えなかった。

 兜の隙間から鋭い眼光をこちらに覗かせる。なんとも不気味な雰囲気だ。


「アハハハ! バカなライト・バンジャンス。わざわざ、もう一度殺されに来るなんてねぇ。復讐なんか考えなければ幸せに暮らせたものを。さぁ、やっておしまい白銀剣士!」


 白銀剣士は無言のまま、左手で剣を構えた。

 あの力の入れ具合からして左利きのようだ。 

 顔は見えないが、体格からして男だな。

 それとも、中身はモンスターか?

 まぁ、どちらにせよ、ベリベーラが自信満々だからな。相当に腕が立つのだろう。

 すると、白銀剣士はボソッと呟いた。


加速アクセル


 高速移動の魔法で俺に斬り込む。


 へぇ。無詠唱だ。


ガチン……!


 俺は剣士の剣を受けた。

 白銀剣士は声を漏らす。


「なに!? 受けるだと!?」


 この声。やっぱり男だ。

 兜で声質が籠っているが、中身は人間ぽいな。


 男は剣の連撃を放った。

 俺はそれを全て受ける。


キンキンキンキンキンッ!


「くっ! バカな!? す、全て防ぐだと!?」


「腕には自信があるようだな?」


 防御はどうだろう?

 攻撃魔法で様子見だ。


爆発バースト


 空間爆発の魔法。

 部屋のことを考えて小さな爆発にしてみた。

 とはいえ、通常の人間なら、これだけで破裂して散り散りになるがな。


「ふん! そんな魔法がこの鎧に効くか!」


 ほぉ。ノーダメージとは、随分と頑丈だな。

 しかし妙だな。あの鎧の材質は銀だろう。白銀の鎧にそこまでの強度はないと思うが……。


『あやつ、なかなかやりおるわい。 魔法マジック 防御ディフェンスを薄い膜のようにして体に張りつけておるのじゃよ』


 なるほど。そうやって防御力を上げているのか。

 なかなかの高等テクニックだな。


『それにもう一つ。奴の剣撃は物理攻撃倍化の魔法まで付与されておる』


 ふむ。どうやら、魔法と剣技がお得意なようで。

 攻撃力も防御力も、今まで戦って来た奴とは桁違いに強いということか。


「アハハハ! ライト、後悔したってもう遅いわよ!! 白銀剣士! やっておしまい!!」


 すると、男はベリベーラの言葉を無視するように、こちらを睨みつけながら「右手が魔神デストラなのか……」と呟いた。

 どうやら、何かを探っているらしい。

 刹那、男は移動呪文を唱える。


加速アクセル!」


 俺から距離を取り、小さく息を吐きながら剣身を右手でなぞる。

 すると、見たこともない銀色のオーラが剣に宿った。

 瞬間。


次元両断殺ディメンションマーダー!」


 男はその場で剣を振った。

 とても、俺には当たらない距離。

 しかし、その斬撃は俺に向かって飛んで来た。


『ライト! 避けぇ!』


 へぇ、珍しく、デストラが焦ってんな。


 この斬撃の力。受け太刀するのはまずそうだ。


ひょい……!


 まぁ、躱せば済むこと。

 

ズジャァアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 斬撃は建物の壁を破壊して飛んでいった。

 凄まじい威力である。

 

「か、躱しただと!? バカな!?」


 どうやら、それなりに自信のある攻撃だったらしい。

 受け太刀をしていたら真っ二つだったな。


 やはり、実力は相当なようだ。


 あんまり遊ぶのはよくないか。

 寝ているハツミに当たったら大変だからな。


 まずは、こいつの戦力を奪いますか。


加速アクセル


 男と同じ加速魔法。

 だが……。


「な!? は、早い!?」


 だよな。

 おまえとは魔力量に差があるからな。

 それに、全体の基本スペックも違う。

 魔法で強化されたおまえの攻撃を、通常状態で受け太刀できたのはそういうことなのさ。

 んで、


「よっと」


ザクン……!!


 俺は男の左手を切断した。


「ぐぉおおおおおッ!!」


 はい。攻撃力低減っと。


 男は自分の左手を回収しようとする。


 まぁ、察するに、こいつは魔法が得意だからな。

 回復魔法も使えるのだろう。

 拾われたらくっつけてしまうよな。


 だったら、その左手に狙いを定めて、


爆発バースト


ボォオンッ!!


 よし。今度は上手く爆発したぞ。

 孤立した腕には 魔法マジック 防御ディフェンスが宿っていないからな。

 しっかりと爆発してバラバラの肉片になってくれたよ。これで回復魔法でも治すことはできまい。


「そ、そんな……。ぼ、僕の左手が……」


 はい、大ピンチだね。


「おまえ誰なんだ? 俺には、正体がわからない人間を殺す趣味はないんだがな」


「くっ! ア、 加速アクセル!」


 あれ?


 男は向かってくることはなく。

 俺とは、反対方向に移動して転移魔法陣に体を突っ込んだ。


「退却する」


 そう言って魔法陣に入ると、陣は光り輝いた。


「え!? ちょ!? 待ってよ! は、白銀剣士ぃいいいいいいいいいい!!」


 魔法陣は消滅する。

 どうやら男は転移したようだ。


 ベリベーラは右手をしっかりと伸ばして、男を呼び止めようとしていた。


 うん、丁度良いな。

 その右手、もらった。


ザクン。


 はい、切断っと。


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああッ!!」


 その切り口からは鮮血が舞い飛ぶ。


 ベリベーラ、


「おまえの方が後悔することになったな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る