第45話 占い師ベリベーラ①【復讐7人目】

「求人広告には高収入で簡単な仕事って書いてあるんですけどね。一体、どんな内容なんすかね? あーし、占いはできないんですよねぇ」


 と、ハツミは大きな瞳をパチクリとさせた。


 やれやれ。

 この内容でわからんのか。

 若い女はこんなことで騙される。

 

 面接は俺とハツミの番になった。

 面接官は事務の女で、適当に質疑応答があって、ものの数分で合格判定となる。

 もちろん、占いの経験とか、そんなものを聞く工程はない。


「ふは! 凄いっす。あーしとミギエちゃんは簡単に受かっちゃったっす!」


 ハツミは美少女で爆乳だからな。まぁ、すぐに合格するだろう。

 なにせ、ここは占い館とは名ばかりの違法な娼館なんだからさ。

 結局は見た目なんだ。


 俺とハツミは別室に案内された。


「し、仕事の説明ってことみたいっすけど、一体どんな仕事なんすかねぇ? 占いのことを教えてくれるんすかね??」


 俺とハツミはそれぞれ別々の個室に案内される。

 そこはピンク色の壁紙をした一室で、ベッドが1つ置かれていた。


 まぁ、おおよそ、占いからは縁遠い雰囲気だな。


 部屋に入ってきたのは筋肉隆々の、暴力だけで生きてきたって感じの大男だった。


「グヘヘヘ。ベリベーラの占い館へようこそ。さぁ、今から仕事の説明だぜ」


 大男はパンツ一丁だ。

 ここにはベッドしかないしな。やることは一つか。


「なぁに、安心しろよ。初めてでも天国に送ってやるからな。この魔薬でよぉ」


 そう言って、男は小瓶を見せた。その中には怪しい液体がタプンタプンと揺れている。


 なるほど。

 違法薬物で女を虜にして、娼婦に仕立てあげる算段か。

 表向きは占い館。その内情は違法な娼館ね。

 はい。犯罪の言質が取れましたっと。

 

 男は俺をベッドに向かって押し倒す。


「ヘヘへ。エルフの娘か。たまんねぇなぁ、ジュルリ。少しでも抵抗してみろよ。その綺麗な顔をボコボコに殴り倒してやるからな。グヘヘ」


 やれやれ。

 こうやって面接に合格した女を魔薬漬けにしてきたのか。


「さぁ、飲めよ。グヘヘ。天国に行けるぜぇえ〜〜」


 俺は片足を使って、男の股間を蹴り上げた。

 

ガツン!!


「ぎゃああああああッ!!」


 男は部屋の天井に背中をつけるほどぶっ飛んだ。


「あうううううう……!! あがあが……」


 白目を剥いて、口からは泡を吹いている。


 大事なモノが壊れたかもしれんが、命があるだけありがたいと思いなさい。


「きゃあああああああああ! 聞いてないっすぅううううッ!!」


 ハツミの声だ。

 隣りの部屋でも同じ状況なんだな。

 

 俺は急いでそっちに行った。


 扉を開けると大男の背中。

 ベッドにはハツミが押し倒されて泣き叫んでいた。


「な、なんだ、おめえは!?」

 

「通りすがりのエルフです」


「せ、説明なら他の男が案内するから待ってろ」


「いや、待てないな」


 俺は男の股間を蹴り上げた。

 

ボコォオオッ!


「アギャアアアアッ!!」


 さっきの男と同様に、この男も天井に背中をぶつけるほど飛び上がった。


「大丈夫か、ハツミ?」


「ミギエちゃーーーーーーーーん!!」


むぎゅぅううううううううううッ!!


 ハツミは俺を抱きしめる。

 その爆乳が俺の顔を包み込んだ。


 ぬぉ、苦しい。


「助かったっすぅうううう!! ミギエちゃんは命の恩人っすぅうううううう!!」


「ははは。怪我が無くて良かったよ。もう大丈夫だから安心しろ」


「ううう、怖かったっすぅうううう……」


「よしよし」


「ふみぃい……」


 俺はハツミの頭を撫でてやった。


 館内は騒がしくなる。

 この大きな音に周囲が気がついてしまったのだ。


「なんだいなんだい騒がしい」


 と、やって来たのは真っ赤なドレスに身を包んだ美しい女だった。

 パッカリ空いた胸元に柄の長いキセルを持って。屈強な男の部下を連れて、俺たちの部屋へとやって来た。


「一体、なんの騒ぎだい?」


 やれやれ。

 3年ぶりだな。ベリベーラ。


「エルフの女……。この騒ぎはあんたがやったのかい?」

 

「まぁね。まさか、違法薬物で娼婦にしようなんて、とんでも営業だね」


 ベリベーラは倒れて痙攣する男を見やった。


「ふぅん……。腕は立つようだね。目的はなんだい?」


「ここは占いの店だろ? そういう仕事をしたかったんだけどね」


「やれやれ……。求人広告を見て気がつかないかねぇ」


 いや、知ってたけどさ。


「でも、気に入ったよ。特にエルフはね。あんた、どこの出身だい?」


「エンフィール」


「……………へぇ。そりゃあ、なおさら良いね。今、最も懇意にしたい国だよ」


「そりゃどうも」


あたしはベリベーラ。ここの主人さ」


「ミギエだ。こっちの女の子はハツミ」


「ミギエ。少し話しをしようかい」


 俺とハツミは別室に案内された。

 おそらく客室だろう。まだ、建設途中なので室内は殺風景だが、このフカフカの椅子は客をもてなす物だ。


 テーブルには高級なお茶が用意された。


 ハツミはその匂いに喜ぶ。


「うわぁ、いい香りっすね。味も最高っす」


 俺も飲んでみた。


 ふむ。美味い。高級なお茶だな。


 ベリベーラはテーブルに金貨を並べた。

 ハツミは目を見開く。


「だ、大金貨がこんなに!? い、一体いくらあるんすか!?」


「100万コズン用意した。これで手打ちにならないかい?」


 なるほど。

 大金を掴ませて違法なことに目を瞑れと。


「うは! 凄いっす。ミギエちゃん、どうするっすか!? ミギエちゃんが決めて欲しいっす……。あ、あれ……? なんだか急に眠気が……」


 と、ハツミは寝てしまった。

 おそらく、睡眠薬を入れていたんだろう。

 毒物、薬関係はベリベーラの得意分野だからな。


「プハッ! 飲んじゃったねぇ。ククク。ミギエ。あんたも飲んでいるね」


「ああ。美味いな。このお茶。ズズズ……」


「ククク。あんたの分にもたっぷりと入っているからね。ハツミが寝たらあんたの番さぁ」


「へぇ……。ズズズ。うん。いい味だ」


「プププ。ハツミは見た目が良いからね。稼げる娼婦になるだろうさ。あんたは聞きたいことがあるからね。娼婦にはしないよ。ククク」


「ふーーん。そかそか。エンフィールのことでも聞き出したいのか?」


「ククク。そういうことさ。ちょいと、あの国には興味があってね。女王のことや、金が採れる鉱山のこととかね」


「あ、そう。そりゃあ、知りたいことが山盛りだな」


「……………あ、あれ?」


「なんだ? 私の顔になにかついているか?」


「ね、眠くならないのかい?」


「ああ。昨晩はぐっすり寝たからな」


「そ、そんなバカな!? 強力な眠り草の粉を入れたんだよ! 眠らないはずはないんだ!!」


 俺には完全毒耐性があるからな。

 健康状態を不自然に変える薬物は、俺には効かないんだよ。


「お茶に眠り草の粉か。ずいぶんと卑怯なことをする」


「う、うぐぐぐ……。い、一体何者なんだい!?」


 昔とちっとも変わっていないな。ベリベーラよ。

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