第41話 眼帯のナイレウス⑤【復讐6人目】

 俺の右手は美少女に変貌した。

 それは魔神デストラの姿だ。

 スベスベの白い肌をした四肢を俺の体に絡ませる。


『さぁて、選手交代。わらわの番じゃなぁ。お楽しみの時間じゃのぉ。眼帯の剣士よ』


「あ、あああああ……」


『お主のサーブル剣は痛かったぞ。 血の禁止魔技ブラッディアーツで抵抗できぬわらわに何度も刺しよったな』


「ち、違っ……。違うんだぁああああ!!」


『ええい。貴様のいいわけなんぞ、聞きとうないわい。 魔神聖石槍グングニル


 デストラは紫色の髪の中から愛槍を取り出した。

 この槍は石化魔法を自由に操作できる武器なんだよな。


 デストラが槍を振ると、ナイレウスの後ろにあった大岩が大きなトカゲの姿へと変貌した。

 

 ふふふ。

 実は、事前にトカゲを石化して置いといたんだよな。

 体高10メートルを超える人食いのモンスターだ。


『グルルルル……』


 トカゲの唸り声にナイレウスが気がつく。

 麻痺した体は動かないが、なんとか顔だけで後ろを確認することができた。


「ひぃいいいいいい!! ジャ、ジャイアントキラーリザード!!」


『ククク。わらわの痛みを思い知るがいい』


カプッ……!!


 トカゲはナイレウスの両足を噛んだ。


「ぎゃあああああああああああああああ!!」


ガブ……ガブ……!!


 と、ゆっくりと飲み込んでいく。


「ひぃいいいいいいいいい! た、たす、助げでぇえええええええええええええ!!」


 あ、うん。

 もちろん無視です。自己責任だからな。


 と、そこへ、


「ミギトくーーん! ギルマスぅうううう! どこですかぁ〜〜!?」


 僧侶のファンナが俺たちを探しに来ていた。

 彼女はピンク色のツインテールをした少女。

 以前のクエストに参加していたメンバーの1人だ。


「なんか助けてって聞こえたような……? どこですかーー!?」


 これはナイレウスにとっては助かるチャンスかもな。

 俺は右腕を斬り落とし、デストラはトカゲを仕掛けた。

 俺たちの復讐は終わっている。

 奴が助けを求めれば、他のパーティーがトカゲを倒すかもしれない。

 そうなれば命くらいは助かるかもね。



〜〜ナイレウス視点〜〜


 僕は今、下半身を大トカゲのモンスターに食われていた。

 ジャイアントキラーリザードの牙は鋭い。

 その強靭な顎で、下半身の骨をバリバリと砕く。

 このままいけば全身を飲み込まれてしまうぞ。


「ギルマスぅううう〜〜!? どこですか〜〜?」


 あれは僧侶のファンナの声だ。

 彼女は戦闘力が低い。しかし、赤髪の剣士マルシェを呼べば、トカゲを倒してくれるかもしれない。

 今ならまだ間に合うぞ!

 砕けた骨はファンナの回復魔法で治してもらえばいいんだ。

 

「ミギトくーーーーん。どこぉおお? あんまり遅いと心配だよぉ?」


 こっちだバカ女!

 僕を助けるんだよぉおおおおおおお!!


 さぁ、救助を求めるぞ!!


 目一杯大きな声なら聞こえるはずだ!!


《助けてくれぇええええええええええええええええええええ!!》

 

 さぁ、気がつけバカ女!!


「おーーい。ミギトくんったらぁああ。どこですかーー?」


《こっちだぁああああ!! 助けてくれぇええええええええ!!》


「おーーい。どこですかぁ? おかしいなぁ。さっきは声が聞こえたと思ったんだけどぉ??」


《バカ! なぜ気がつかない!? こんなに大きな声を出し……。ん? いや、おかしいぞ? 声が……。声が出ていない!? どうして!? なぜだ!?》


ジャラリ……。


 な、なんだ……?

 こ、この首のネックレスは!?

 こ、これは──!?


 ライトは満面の笑みを見せる。


「おまえから奪った魔法の奴隷首輪マジックスレイバーさ。俺が貰っても意味ないしな。ギルドの受付嬢からのプレゼント。ってことにしておこうか」


《なんだとぉおおおおおおおおおお!?》


「ついでに声を出さないように命令しておいたよ。これも部下たちからのプレゼントってことで。良かったな慕われてる上司でさ」


《なにぃいいいいいいいいいいい!? た、助けが呼べない!!》


「他責思考はよくないよ。うん。仲間なんか頼っちゃダメだって。モンスターに襲われてもさ。自分で解決しなくちゃな。何事も自分の責任だよ。おまえもそう思うだろ? だって、いつも部下にはそう教育してきたじゃないか。そういえば、ミギトだった俺にも言っていたよな。『強敵が出たら逃げれば良い。逃げれないのは自分の実力不足。全部、自分の責任』てさ。言ってたよな? ギルマス」


 そんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 助けて助けて助けてくれぇええええええええええ!!

 誰かぁああああああああああああああ!!


 ああ、痛い痛ぁああああああああいッ!!

 僕の体がぁああああああああああああ!!

 食われるぅう!!

 バリバリと食われていくぅうううううううううううううう!!

 



〜〜ライト視点〜〜


 俺は彼女を呼んだ。


「ファンナ! こっちだ!!」


「え? ミギトくん!?」


 あ、もちろん、姿はエルフの少年に戻ってる。


「うわ!! ジャイアントキラーリザードだ!!」


「焚き木を拾っている途中で、ナイレウスさんが襲われてしまったんだ!!」


「た、大変です! もう体の半分が食べられてますよ!」


「僕は武器を忘れてしまったから戦えない! トカゲの注意は僕が引き受けたから、ファンナはみんなを呼んで来てくれ!」


「はい!! 呼んで来ます!! マルシェさーーーーん!! 大変ですぅううううううう!!」


 あ、もちろん、武器が無いなんて嘘ね。

 亜空間収納箱アイテムボックスに収納すれば携帯なんてしなくて済むんだからさ。

 でもね。これはアリバイ工作だからな。他のメンバーにわかるように、ミギトの剣はテントの角に置いてきたのさ。


 しばらくするとマルシェさんがやって来た。


「ミギトぉおお! おまえの剣を持って来たぁああ!!」


「ありがとうございます!!」


「よし! みんなでやるぞ!!」


「はい!!」


 俺たちは手分けしてジャイアントキラーリザードを倒した。


 トカゲの腹を割くと、グチャグチャになったナイレウスが発見される。


 マルシェさんは眉を寄せた。


「遅かったか……」


 はい。

 アリバイ成立。

 ギルドでは、クエスト途中の事故扱いになるでしょう。


 ちゃんちゃん。

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