第40話 眼帯のナイレウス④【復讐6人目】


〜〜ライト視点〜〜


 ナイレウスは 麻痺魔法パラライズで動けないでいた。

 それでも顔面だけは自由にさせているので、俺の正体を探ろうと必死だ。


 俺が手に持っているのは、こいつから奪った魔道具の魔法の奴隷首輪マジックスレイバー

 これは、首に付けた者を簡易的に奴隷にできるアイテムだ。これを使おうとしていたということは、俺からエンフィールの情報を聞き出そうとしていたんだろうな。

 それに残念だが、こんなチンケな魔道具は俺には効かないのさ。魔神デストラが右腕に宿る俺にはな。


「ミ、ミギト。お、おまえは一体何者なんだ!?」


「まだ、気がつかないのか? 俺だって、そちらの動向は探っている。俺のことは特別な名前で呼んでいるだろう?」


「な、なんのことだ……?」


「『腕斬り』だよ」


「な、なにぃいい!? な、なぜその名前を!?」


「携帯してるだろ? 目覚め草。腕斬りは睡眠魔法を使うからな」


「そ、そんなバカな……」


「腕斬りはな。どんな人間にも変装することができる、 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンも使うことができるんだ」


 俺はエルフの少年ミギトから、元の姿に戻った。

 それは全身黒い衣装に身を包んだ剣士の姿。


「ラ、ライト!? ライト・バンジャンス!?」


「よぉ。久しぶりだな。ナイレウス。とは言っても、おまえとは接点はそんなにないか。3年間、天光の牙で荷物持ちをやっていたが、一番会話が少なかったもんな」


「し、死んだはずでは……?」


 俺の右手はタコのようにウニョウニョと蠢いた。


『ライトとわらわは魂在融合を果たした。意思は2つじゃが、魂は1つじゃよ』


「ま、魔神デストラ!?」


『眼帯の剣士……。サーブル剣の切っ先で何度もわらわの体を突いてくれたのぉ。その礼を返しに来た』

 

「そ、そんな……。あ、あれは、僕の意思じゃないんだ! 僕は命令された! ゴルドンさんに……。いや、ゴルドンにな!!」


 やれやれ。


「お得意の他責思考か。おまえはそうやってギルドでも他人の責任にしていたな」


「ほ、本当の話しさ! 全部ゴルドンが計画したことなんだからな!! 奴が解呪士ジィバと一緒に、 血の禁止魔技ブラッディアーツで魔神を倒す計画を立てていたんだ!」


「それは知っているけどさ。その計画を受け入れたのはお前自身だろ? 事実、デストラの討伐以降、ずいぶんと出世しているじゃないか。王城の戦術指南役、兼ギルドのギルマス。一介のA級冒険者が、今やS級認定ですか。ずいぶんと良いご身分だな」


「そ、それは……その……。成り行き上、仕方ないことだったんだ!」


「それにしてはおまえにとって都合が良すぎるな。収入は増え、身分も高待遇になった。聞いているぞ。ギルドでは好き勝手してるらしいな。何人もの受付嬢に手を出して、孕ませて辞めさせているらしいな」


「そ、それは……。あ、相手が誘惑してきたんだよ。僕はギルマスだからね。権威のお零れをもらおうとする浅ましい女たちさ」


「部下たちは困っている。そんな嘘はやめろ」


「ほ、本当だ! 僕は悪くない!! 悪いのはゴルドンであり、ギルドの受付嬢だ!!」


 はぁ……。

 救えねぇな。


「ライト! 考えてもみろよ!! あの時、僕は君になにかしたか!? 君がゴルドンに右腕を斬り落とされた時だ! 他のメンバーが君を嘲笑している時にさ。僕が笑ったか!? どうなんだ!? 僕は嘲笑なんてしていないぞ!! 君に暴力も振るっていない!! 盗賊のズックみたいに財布を盗んだり、白魔法使いのシビレーヌのように麻痺魔法を付与したり、そんなことは一切しなかったはずだ!! 僕は無関係なんだ!!」


 たしかに。


「そうかもな。おまえは無関心だったな」


「そうだろう! 僕は関係がないんだ!!」


「でもさ。俺が右腕を斬り落とされて、鼻水を垂らして泣き叫んでさ。周囲に助けを求めている時……。おまえは完全に無視だったよな? ただ無表情でさ。こっちを見てるだけだった」


「そ、それは……。仕方ないだろう。君とは接点がないんだからさ! プライベートの会話なんてしたことがなかった! 君が好きな料理や、休日にやっている趣味だって知らないんだぞ! 僕たちは親しくないんだ!!」


「ははは。なるほど、そういう理屈か。それじゃあ、無視をしても仕方ないよな」


「は、ははは……。わ、わかってくれたかい。誰にだって誤解はあるさ。だったら、この麻痺も解いて欲しいんだけど?」


 俺はナイレウスの右腕を斬り落とした。


ザクン……!!


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! なんでぇええええええええええええええ!?」


「は? なんか言ったか?」


「ど、どうしてぇえええええええええ!? ご、誤解だったはずだぁあああああああああああああ!?」


「なんの話しだ?」


「どうして僕の右腕をぉおおおおおおおお……!?」


「……………………その質問。答える義務あるのか?」


「な、なんだとぉおおおおおお!?」


「俺が勝手にやったことだからな。なにをしようと俺の勝手だろ?」


「僕たちは同じパーティーメンバーだろうがぁああああああああ!!」


「その言葉……。3年前の自分にも言ってやれよ」


「酷いぃいいいい! 酷すぎるぅううううううううう!!」


「はぁ〜〜? なんだその理論??」


「だってそうだろう! 動けなくなった人間の右腕を斬り落とすなんてどうかしているぅう! 僕は剣士なんだぞぉおおお!! 僕の右腕がぁあああああ……!!」


「おまえの理屈なんて知らないよ。今は2人きりだからな。俺の責任で、俺がやりたいようにやる。それだけだ」


「そんなぁああああああ!!」


「殺されなかっただけありがたいと思え。おまえが天光の牙のメンバーで、ゴルドンから命令されていたとしても、おまえが容認していたのなら、それは全部、おまえの責任だろうが」


「ああああああああああああああああああ!!」


「無視をしていたから、関係ない、なんて都合の良い理屈が通るもんかよ」


「あああああ……!!」


「それにな。仲間が泣いて助けを求めてんならよ。助けてやるのが冒険者パーティーだと思うがな」


 ましてや、仲間を魔神討伐の道具として右腕を斬って殺すなんてのは愚の骨頂だ。


「うううう……。も、もう気が済んだだろう……?」


「あん?」


「ぼ、僕は罰を受けた……。ううう……」


 ふむ。


「たしかにな。俺の用事は済んだ」


「ううううう」


 ナイレウスは鼻水を垂らして号泣していた。


「じゃあ、交代だな」


「へ?」


『ククク。わらわの出番じゃなぁ』

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