第39話 眼帯のナイレウス③【復讐6人目】

〜〜ナイレウス視点〜〜


 僕は、エルフの国エンフィールにポーションを運ぶことになった。


 馬車は1台。


 そこに護衛の馬を2名。

 いずれも赤髪の剣士マルシェのパーティーメンバーが乗っている。


 僕はエルフの少年ミギトと馬車に乗っている。

 僕が御者を担当して、彼には横に乗ってもらうことにした。


 ミギトはエンフィール出身だという。

 目的は彼からエンフィールの内部情報を聞き出すことだ。

 そして、この『魔法の奴隷首輪マジックスレイバー』を首にはめること。

 さて、一体、彼は何者で、どんな経歴の持ち主なのだろうか?


「ねぇ、君はエンフィールの出身だよね?」


「ええ。もう、しばらくは帰ってませんけどね」


「ふーーん……。どれくらい帰ってないの?」


「えーーと、3年くらいになるでしょうか?」


 ……と、いうことは、エンフィールにズックの盗賊団デーモンスターが入ったことは知らないのか。


「エンフィールにいた時はなにをしていたんだい?」


「意外です。ギルマスって、お喋りが好きなんですね。もっと無口な人だと思っていました」


「ははは。まぁ、旅は長いからね。エンフィールまでは馬車で3日だ。同じような景色じゃ飽きてしまうだろ? 大したことない世間話しだよ」


「なるほど」


「僕のことはナイレウスと呼んでくれたまえ。僕は『ミギト』と呼ばせてもらうよ」


「じゃあ、ナイレウスさんよろしく」


「さん付けか……。君の年齢は確か……」


「180歳ですね。ギルドの冒険者を登録する履歴書にはそう書きましたよ」


「ああ、そうだった。僕は28歳さ。ずいぶんと君の方が年上なんだがな」


「人間でいえば18歳くらいです。ナイレウスさんの方が上ですよ」


「そうか。ははは。エルフとは面白い存在だな」


 ちっ。

 くだらん。

 こんな話しはどうでもいいんだ。


「で、エンフィールではなにをしていたんだい? ギルドの履歴書には、そこまで書く欄がないからさ。君の経歴には興味があるんだ」


「大したことないですよ」


「そんなことはないだろう。100匹のゴブリンを倒し、ゴブリンボスまで一撃だったと聞いているよ。きっと、エンフィールでは活躍していたはずだ」


「……主に女王の護衛ですかね」


「な、なに!? それはすごい!!」


 なるほど……。女王の護衛ならばその剣の腕にも納得がいく。

 それに、彼女のことをよく知っているはずだし、国内の防衛事情には詳しいだろう。

 ククク。最高の人材だぞ。やっぱりコイツを誘って正解だった。

 あとは、この魔法の奴隷首輪マジックスレイバーを首に付ければ僕の奴隷の完成だ。

 

「あ、ナイレウスさん。その道は右に行ってください」


「……なぜだい? そっちは迷いの森だ。旅をするには危険すぎる。それに、地図だとエンフィールまで遠回りになってしまうよ」


「隠しルートがあるんですよ」


「なに!? ど、どういうことだ!?」


「エンフィールに通じる地下通路。そこを通ればもっと早くエンフィールまで到着しますよ。もっとも、周囲にはジャイアントキラーリザードが生息しているので、簡単には近づけませんけどね」


「は、初めて聞いたぞ!?」


「ええ。有事の際の極秘情報です。エンフィールとしては王都のポーションが早く欲しいみたいですね。なので、隠しルートで行った方がいいかと……」


「そ、そうか……。ははは。君はすごいね。か、隠し地下通路か……」


 やった! やったぞ!

 こいつはすごい情報を知っている!!

 エンフィールまでの隠しルートの情報だけでも、大剣使いのゴルドンさんなら高く評価してくれるだろう。

 

「ちょっと早いですが、夕方になるまえに野営の準備をしましょうか。ジャイアントキラーリザードの対策をメンバーで話し合った方がいいと思いますしね」


「あ、ああ。そうだな」


 クハハハ!

 最高のシチュエーションだ。

 あとは、魔法の奴隷首輪マジックスレイバーをこいつの首にはめれば、情報は聴き放題。僕の奴隷にできるぞ。

 

 ミギトはそれなりに腕が立ちそうだらかね。

 ククク。僕が負けるとは思わないけど念のためさ。逃げられるのは困るんだ。


「ねぇ、ミギト。喉、乾かないかい?」


「ええ。そういえば少し」


「よかったら、水筒に薬草茶を入れているんだ。一緒に飲もうよ」


「へぇ。いいですね」


「じゃあ、ちょっと馬車の御者を代わってくれたまえ」


「はい。いいですよ」


 プハッ!

 いいぞ。


 僕は薬草茶をコップに入れた。


 ククク。ミギトのコップには痺れ草の粉がたっぷり入っているのさ。


「特性なブレンドでね。味は結構いけるんだ」


「へぇ。いただきます」


ゴクリ。


「あ! 美味しいですね」


 クハーーーーーーー!

 飲みやがったぁあああ!!

 バーーカ、バーーカ!

 ゆっくりジワジワ効いてくるからな。ククク。


 僕たちは野営に適した広場を見つける。

 ミギトはフラフラとしていた。

 ククク。いいぞ。もうあと数分もすれば体が痺れて動けなくなるはずだ。


「じゃあ、僕とミギトは焚き木を拾ってくるよ」


 メンバーにはそう言って、ミギトと2人で広場を離れる。

 

 丁度、2人きりになった頃。

 ミギトは尻餅をついた。


「あ、あれ……? か、体が痺れて……。う、動けない」


「おいおい。どうしたんだミギト? しっかりしてくれよ」


 ククク。


「か、体が痺れて動かないんです」


「それは大変だね。それじゃあ、これを首にはめた方がいいよ」


 プププ。

 これで君は僕の従順な奴隷。

 エンフィールのことはなんでも話してしまう最高の情報道具になるのさ。


ガシッ!


 と、ミギトが僕の手首を掴む。


「なに!? どうして動けるんだ? は、離せッ!」


 くっ!

 凄まじい握力だ。


「ほぉ。魔道具か……鑑定」


 ミギトの目が真っ赤に光る。


「ふーーん、魔法の奴隷首輪マジックスレイバーね。身につけた者を奴隷にする魔道具か」


 な、なんだこいつ!?


「ど、どうして動ける!?」


「これは俺がもらっておくよ」


「か、返せ!!」


 あ、あれ……!?

 か、体が……う、動かないぞ!?

 な、なぜだ!?


麻痺魔法パラライズだよ」


「なにぃいいいいいい!?」


「逃げられるのは厄介だからな。おまえには痺れてもらった」


 こ、こいつ、なんか雰囲気が違うぞ……?


「俺に痺れ草の効果が無かったのは、固有スキルで完全毒耐性を持っているからなんだ」


「な、な、何者なんだ!?」


「さぁて……。当ててみろよ?」


「……………」


 ク、クソ!

 体が痺れていうことを効かん!

 剣が抜けない!!


「俺がノーラ女王の護衛をやっていたとか、この森の中に隠し通路があるとかさ。ありゃ、全部嘘だ」


「なにぃ!?」


「おまえと2人きりになりたかっただけさ。おまえだってそうなんだろ? 俺と2人きりになりたかったはずだ。なぁ、ナイレウス」


「お、おまえは何者だ!?」


「ふふふ……。ああ、俺の正体を言う前にさ。これだけは言っておくよ。ジャイアントキラーリザードの生息地ってのは本当の情報なんだ」


 周囲に生き物が動く気配がする。

 それは大きく、ズシーンズシーンと足音だけが聞こえていた。

 こっちに近づいているのだろうか。草木がカサカサと不気味に揺れていた。

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