第37話 眼帯のナイレウス①【復讐6人目】

 俺は天光の牙のメンバー、ナイレウスと口論していた。話題はクエストの適正な等級についてだ。


 彼は、片目に眼帯をしているので眼帯のナイレウスと呼ばれていたりする。

 こいつは、昔から他人に無関心だった。俺との接点はそんなにないんだけどさ。

 こいつはギルマスで、クエストの等級を判断する重要な役割があるんだ。

 

 クエストは等級難度によって報酬が変わる。低い等級の方が達成報酬は安い。

 だから、報酬を払うギルド側としては、低い等級にしておきたいというわけさ。


 とはいっても、ギルドは営利団体だからな。

 低い難度のクエストで強敵が出れば冒険者の死亡率が上がる。

 そうなれば苦情の嵐だ。そうならないように、クエスト難度には適正さが求められるんだよ。

 にもかかわらず、こいつが示した難度は良い加減だ。

 100匹以上のゴブリンにゴブリンボスが出るクエスト。通常ならばB級以上と判断されるクエストなのにさ。

 そんな依頼をD級クエスト認定して、達成報酬を低くしようとしてんだからな。

 悪質極まりないよ。


 ナイレウスは1枚の紙をビリビリと破りながら俺たちを睨んだ。


「ギルド側に落ち度があるなら言ってくれ。証拠もないのに、クエスト難度に問題があったなどと、うそぶくのはやめてくれたまえよ」


 いやいや。

 

「100匹以上のゴブリンとそれを束ねるゴブリンボス。その証拠に耳を切って持って来ましたよね?」


「だから、そんなのは偶発的なことでしょう。こっちは神様じゃないんだ。そういうことだってあるさ」


 うぐぐ。

 少なくとも、俺のパーティーメンバーは死を覚悟していた。

 そもそも、俺が参加しなかったら全滅してたっての。

 だいたい、祈り草が採れる祈り草原にはゴブリンボスがいるんだからな。

 あ、そうか。


「ギルドでも把握しているはずですよね。祈り草原に生息しているモンスターの情報!」


 受付嬢は手を叩いた。


「はい! あります!! その情報はファイルの中に──」


「あ、もしかして、この紙のことかな? だったら、すまん。ゴミだと勘違いして破いてしまったよ」


「ゴ、ゴミって……。そんな物をファインリングするわけないじゃないですか!」


「いやいや。ゴミのように乱雑にファイリングされていたよ。これは間違いなく君の責任だね。貴重な資料をゴミと勘違いさせたんだ。完全に君の落ち度だ」


「そ、そんな……」


「でも、僕の落ち度もあるからね。責任は不問にしようか。それとも言及するつもりかい? だったら言わせてもらうけどね。証拠資料があるのなら、それはクエストを案内する受付嬢も見れた物なんだよ?」


「え?」


「難度が不適正なクエストを紹介した受付嬢には、それ相応の責任が課せられるんだ。半年間、給料半分カットだね」


「えええええええええ!? い、いや、クエストの難度は現場経験の浅い受付嬢ではわかりませんよ! クエストの等級を指定するのはギルマスの担当です!」


「やれやれ。他責思考にもほどがある。君はその資料とやらを見れたの? 見れなかったの? どっち?」


「み、見れました……」


「ほらね。その情報を君が知っていれば僕に確認を取るなり、冒険者に勧めるのをやめたり、できたんじゃない?? ねぇ、どうなの? できたの? できなかったの??」


「そ、それは……」


「他責思考もいい加減にしたまえ!」


「し、しかし……。受付嬢はギルマスから渡された情報が正しいと思っておりますので……」


「君にも責任の一旦は大いにあると言っているんだ。まぁ、とは言っても。証拠になる情報は紙屑になっちゃったけどね。その精査を確認する術はなくなったんだ。不毛なやり取りはやめにしよう」


「うううう……」


 受付嬢は泣き出した。


「泣いたって問題は解決しないよ。そうだ。責任の一旦は受付嬢にもあるんだ。君の給料から、こちら様に報酬として支払おうか?」


 なんだこいつ?

 職場の上司としてはやべぇだろ。


 流石に受付嬢の給料をもらうわけにはいかない。

 それだけは断固断った。

 とはいえ、ギルド側の不手際ではあるんだがな……。


「じゃあ、証拠がないんだから、今回の達成報酬は適正価格でいいよね?」


 もしかして、それ相応の報酬を払ってくれるのかな?


「……適正価格とは?」


「C級クエスト扱いとしようじゃないか」


 おいおい!

 これはB級以上の難度だぞ!!


「証拠はないが、こっちだって客商売なんだ。これだけ揉めては誠意を示す必要がある。今回のクエスト。本当はD級なんだがね。大盤振る舞いとして格上の等級扱いにさせていただくよ。やれやれ。こちらは大損だよ。証拠はないが、言いがかりでこういうことになってしまったからね。誠意を見せるのはギルドとしては当然だろう。証拠はないが……」


 いやいやいや。

 なんなんだよこいつ。

 どんだけ、やべぇギルマスなんだよ。


 結局、達成報酬は2倍の額になった。

 本来なら10倍以上は貰える内容なんだがな。


 まぁ、金はそれなりに手に入ったんだ。

 ゴブリンボスとゴブリンたちの遺体を素材として売ったからな。

 財布は潤ったが、どうにも後味は悪い。


 その日の夕食。

 クエストの達成祝いとして、みんなで飲み会をすることになった。

 成り行きで、俺たちを担当してくれた受付嬢も、その会に参加することなった。


「ううう……。すいばしぇん。私が不甲斐ないばかりに」


「ははは……。気にしないでください。あんな上司なら誰だって辛いですよね」


「ううう……。ミギトさん。優しいです」


 と、エールをグビグビ飲みながら号泣する。


「聞いてくださいよ。ギルマスは酷いんですよ! 大勢の受付嬢に手を出してね、何人もの女を孕ませているんです!! それで受付嬢が辞めるので人手不足になっちゃって、現場は大変なんですぅうう!!」


 性格も素行も大問題か。

 ああ、部下が可哀想すぎる……。


 飲み会は受付嬢の愚痴だけで終わってしまった。


 さぁて、眼帯のナイレウス。どうしてくれようか?


わらわは奴のことは、よぉく覚えておるぞ。あの時、天光の牙がわらわを討伐に来た日。奴は、サーブル剣で何度もわらわの体を串刺しにしよったのじゃ。苦しむわらわに何度も鋭い切っ先を突き刺しよった。あの勝ち誇った笑み……。今でも思い出すと虫唾が走る。絶対に許すことはできん』


「なるほどな。俺は特になにかをやられたわけじゃないんだけどさ……」


 徹底的に無視されたな。

 俺が右腕を斬られて助けを求めている時にさ。

 血を流して泣き叫んでいるのに無関心。

 徹底的に無視だった。

 苦しんでいる仲間を無視かよ。

 これは絶対に許せないよな。


「ナイレウスをやる」


『フホッ! その言葉を待っておったのじゃ! むふぅ! あの眼帯。どうしてくれようか!?』


 覚悟しろよナイレウス。

 その右腕。バッサリと斬り落としてやるからな。


『して、今回はどのような算段なのじゃ? 早う聞かせぇ!』


「まぁ、そう焦るなって……」


『奴の苦しむ顔を想像するだけでワクワクするわい!』


「よし。まずはエルフの女王ノーラの協力を得る」


『ほぉ……。面白そうじゃな』


 ああ、期待していてくれ。


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