第36話 大活躍

 俺の眼前には100匹以上のゴブリンたち。

 その奥には体高3メートルを超えるゴブリンボスがいた。


 俺が参加しているパーティーはC級。

 ギルドの調査が妥当ならば、本来はB級クエスト認定だ。とても準備不足のC級に務まる仕事じゃない。

 にも関わらず、依頼を掲示板に張り出したのはD級クエスト。

 これじゃあ、死亡事故に繋がるよな。

 挑戦したパーティーが全滅しては、依頼者のシスターペリーヌが悩んでしまうよ。

 彼女には孤児の面倒を頼んでいるからな。できるだけ無駄なストレスは与えたくないんだ。

 

 さてそうなると、ギルドの調査ミスを追求したいとこなんだがな。


 ゴブリンたちは今にも俺たちをぶっ殺しそうな雰囲気だよ。


 なので、今はこいつらの相手が優先される。


「か、数が多すぎる」

「終わったぁあああ!」

「えーーーーん!!」

「こんな最期嫌だぁああああ!!」

「ぜ、絶望しかありません!」


 メンバーは口々に悲嘆の声を上げた。


 ああ、うるさいなぁ。

 少しだけの辛抱だからさ。ちょっと待ってなさい。


 俺は剣を抜いて飛び上がった。

 メンバーたちは、その跳躍力に目を奪われる。


「ミ、ミギト……!?」


 あ、ミギトってのは俺の偽名ね。

 今はエルフの少年だからさ。


ザシュンッ!


 斬撃の一閃。

 たった一振りで、3匹のゴブリンの首が飛んだ。


「は、速い!?」

「ミ、ミギト君すごっ!」

「マジか!?」

「ど、どういうことですか!?」


 ふむ。

 だいたい100匹だからな。

 40回くらい剣を振れば、雑魚ゴブリンは全滅する計算になるか。


 えい、やぁ、とりゃ。


ザシュン! ブバッ! ザクンッ!


 ああ、もちろん、ゴブリンは抵抗してくるよ。

 斧とか槍とかさ。弓矢を使う奴なんかもいるな。

 まぁ、半数以上が棍棒なんだけどさ。

 もちろん、そんな攻撃は俺に当たらない。

 弓矢の矢なんて右手で掴んじゃうもんね。


 攻撃は規則性があるな。それなりに統率は取れている。

 ゴブリンボスが指示を出してんだろうな。単体では弱いゴブリンも、ボスの存在で強くなる。このパーティー連中じゃあキツいよね。


 などと考察を進めているうちに雑魚ゴブリンは全滅した。


 あとはボスだけだな。


『ブォオオオオオオオオオッ!!』


 はいはい。

 弱い奴ほどよく吠えるってね。

 大きい斧を持ってるけどさ。

 当たらないと意味がないんだよな。

 ほいっと、


ザシュンッ!


 はい、一刀両断。

 図体がデカいだけで、それほどの強さじゃないんだよな。


「ふぅ……」


 俺は剣を鞘に納める。


 いい運動になりましたっと。


「あ、そうだ。モンスターの死体は素材として売れるんだよね。他にもアイテムとか武器を……」


 って、なんだなんだぁ??


「ふはぁああああああ!!」

「すごいですミギトさん!」

「ミギト君最強すぎ!」

「あなたは命の恩人だ!!」


 俺はパーティーメンバーに囲まれてしまった。


 やれやれ。

 別に大したことじゃないんだがなぁ。


 リーダーのマルシェさんは感動していた。

 赤髪の女剣士だ。


「すごいじゃないかミギトォオオ!」


「あははは……。ま、まぐれです」


「バカを言うな。こんなことがまぐれなもんか! おまえの実力は相当なもんだぞ。祈り草の鑑定だけが目的だったのに、まさか戦闘で助けられるとは……。たしか、エンフィールの出身だったな?」


「え、あ、まぁ、そうですね」


「さぞや、腕の立つ剣士なのだろうな?」


「た、大したことないです」


「そう謙遜するな。いや、本当に助かった。ありがとう」


「みんな助かって良かったです。んじゃあ、ゴブリンの死体とアイテムは回収しときますね。亜空間収納箱アイテムボックス


 亜空間に入れとけば楽に運べるよな。


 ん?


「ふはぁああああああああ! ミギトォオオオオ!!」


 え!? え!?


「ミギト君すご!」

「あなたは亜空間収納箱アイテムボックスが使えるのですか!?」

「無詠唱だったような気がするぞ?」


 しまったぁ……。

 魔神の力に慣れすぎてたーーーーーー。


「ぐ、偶然です」


 こんな苦しいいいわけが通じるわけもなく。

 俺はメンバーに問い詰められることになった。

 まぁ、それでも、エルフ族ということで、なんとか納得してもらった。


 ギルドでクエスト達成の報告をするんだけれど。

 そこでも驚かれることになる。


「ひゃ……100匹以上……。し、しかも、ゴブリンボスまで出たのですか!? そ、そんなバカな!? D級クエストですよ!?」


 受付嬢は絶叫する。

 

 ははは……。

 ゴブリンボス程度でこれだもんな。

 俺が天光の牙で荷物持ちをやってる時は、もっと格上のモンスターと戦っていたんだ。

 

「ふふふ。まぁ安心したまえよ。全部、ここにいるミギトが倒してくれたんだからな」


 と、マルシェさんが自慢げに俺を手差した。


 やめてくれぇ。

 ゴブリンボス程度で恥ずかしいってば。


「本当に申し訳ありませんでした。クエスト難度の調査ミスです」


 良かった。

 ミスを認めてくれたぞ。

 しかし、そうなってくると、達成報酬は変わってくるよな。

 一応、確認しておくか。


「あのぉ。では、パーティーが取得できる報酬は適正な額が貰えるのでしょうか?」


「少々、お待ちください。ギルマスに聞いてきますので」


 と、席を立つ。

 ギルマスとはギルドマスターの略称だ。


 奥の部屋から眼帯をした青年が現れる。

 彼がここのギルマス……。


 って、おいおい。

 ナイレウスじゃないか。

 こいつは天光の牙で剣士をやっていた男だ。

 針のような剣身のサーブル剣を使う。


 まさか、ギルマスになっていたとはな。

 事前情報では王城の戦闘訓練指南役だったが、どうやら、色々な仕事を兼任しているらしい。

 どちらにせよ、一介の冒険者からずいぶんと出世したもんだよ。


「クエストの等級指定は僕が担当しているけど……。なにか問題でもあるの?」

「ギ、ギルマス! 問題は大有りですよ!」


 と、受付嬢と揉めながらこちらに向かってくる。


 ナイレウスは俺の前に立った。

 今、俺はエルフの少年だ。


「ふーーん。エルフがボスを倒したんだね……。ミギト……。知らない名前だね」


 どうやら、俺を見ても気がついてないらしい。


 こいつは何かと無関心な男だった。

 デストラを討伐しようとしたあの日。俺が右腕を斬られているにも関わらず、まったくもってノータッチだった。

 メンバー間でも特に会話が少なくて、天光の牙では最も接点のない男だったな。


「それで? なにが言いたいの?」


 いやいや。

 そっちのミスでパーティーが死にそうになってんのによ。

 その態度はないんじゃないの?

 こりゃ、ガツンと言ってやらにゃあいかんな。


「僕が参加したパーティーはC級です。経歴を見ても同格のクエストしか達成していません。B級認定レベルのクエストなら受けなかった依頼ですよ」


「ふーーん。あ、そう。でも、それってそちらの事情だよね?」


 いやいやいや。


「だ、だからですね。そちらのミスでパーティーが死にかけたんですよ」


「だから、それはそちらの事情でしょ」


 おいおい。

 なんだこいつ!?


 まぁいい。

 だったら視点を変えてやる。


「D級クエストの適正報酬と、B級の報酬では10倍以上の差が出ますよ?」


「なに、お金欲しいの?」


 言い方よ。

 それじゃあ、こっちが金をせびってるように聞こえるじゃないか。

 別に金が目的ではないが態度が腹立つぞ。

 ええい。


「そういう問題ではありません。パーティーが全滅しかけたことが重要なんです。クエストレベルの適正表示はそちらのミスでしょう?」


「逃げればいいじゃない」


 なにぃいいいいいい!?


「C級パーティーなら『戦闘からの逃亡』も昇級試験の内容に入っているけどね。D級から昇格した時にクリアしている問題だよ」


「いや、しかしですね。ゴブリンは100匹以上もいたんですよ。パーティーは周囲をゴブリンに囲まれて逃げることができなかったんです」


「え? C級なのにゴブリン倒せないの? ゴブリンはG級のモンスターだよね??」


「いや、数の問題です! しかも、ボスの存在で統率が取れていました。連続攻撃から判断してD級以上のモンスターと認定されますよ。そんなのが100匹以上も出たんです」


「そんなの戦略で攻略することでしょ? そちら側の実力の問題じゃない。うちの責任じゃないよ」


 おいおいおい!

 だ、だったら言ってやるよ。


「ゴブリンボスが出現しました!」


 俺の言葉に周囲は「そうそう、それそれ」と同調する。

 受付嬢までもが「うんうん」と頷いていた。


 ゴブリンボスが出る場合はB級判定のクエストだからな。

 これは反論できまい。


「なにが言いたいの?」


「え?」


「格上のモンスターが出現することだってあるよね? こっちは神様じゃないんだからさ。いちいち、出現するモンスターの種類までは把握できないよ。自分たちの実力が雑魚でさ。敵わないなら逃げればいいじゃない。逃げれなかったそちらの落ち度でしょ?」


 なんなんだこいつぅううううううう!?

 天光の牙の時から、合わないとは思っていたが、ここまでだったとは!

 徹底的に責任を回避するつもりだ。

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