第6話 食事と情報収集

 俺はギルドの酒場にいた。


 その姿は門番の男。

 名前は知らんが、王都ロントメルダの入国管理をしていた男だ。


 俺、ことライト・バンジャンスは指名手配中らしい。仲間であったA級冒険者パーティー、天光の牙を裏切った極悪人。ということだ。

 なので、門番の男に変装して食事をすることにした。

 変装は 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンという魔法を使っている。これは擬似映像を体にペーストする魔法だ。

 俺の体にフェイクの映像を重ねているだけなので背格好が似たような感じじゃないとおかしなことになってしまう。例えば小さい子供に変装すると、背が高い子供の姿になってしまうということだ。なので、変装する人間は選ばなければならない。ある程度、似た体型なのは必須だろう。王都内を徘徊するのはこの魔法を多様することになるな。

 一時的な変装なので、正体さえバレなければそれでいい。

 

 右手は魔神デストラ。

 今は気を許しているので、完全に独立して動いている。

 それはまるで生き物のように、あちこちに動いて、テーブルに置いてある料理を食い漁っていた。


『美味い! うまうま! 人間の料理ってのはモグモグ。美味いのぉ!』


 右手が飯を食う姿はどうにも慣れないな。


「あんまり派手に食うなよな。門番の姿でも怪しまれるのは困るんだ」


『モグモグ。フハハ! ならば、また別の人間に変装すればよかろう。 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンは一度見た者ならば誰にでもなることができる魔法なのじゃからな』


 そう言って、ワインをゴクゴクと飲み干した。

 こいつの口は俺の右手の平についている。手に口がついてるなんて、なんとも異様な光景だがな。彼女には、それ相応の味覚があるらしい。

 

『うまうま!』


 ご機嫌だな。

 しかし、よく食う。

 食べたもんがどこに行くのかは不明だ。

 胃袋が別なのだろうか? 俺はもう満足なんだがな。こいつはすでに10人前くらいの飯を食っている。


『ブハハハ! うまうま! このワインもいけるのぉ。人間世界は悪くない』


 そう言って、豚の丸焼きをむしゃむしゃと食べてしまう。


 こんなに食って、排泄物はどうなるのだろうか?

 うーーーーん。


其方そちは下世話なことを想像したじゃろう?』


「おまえ、俺の考えが読めるのか?」


『魂在融合は意思疎通も可能なのじゃがな。どうやら意図的に拒絶はできるらしい。わらわの考えは読めぬであろう?』


 そういえばそうだ。


「だったらなんでわかった?」


『女の勘じゃな。なにかいやらしい顔をしておった』


「そんな顔するか!」


『こんなに食べて、排泄物はどうするのだろう? などと考えていたのじゃろ?』


 す、鋭い。


 デストラは茶色のシチューをすすりながら答えた。

 よりにもよって色がなぁ……。


『くだらぬのぉ。わらわは美女じゃからな。よって排泄物などはせんのじゃよ』


「なんだその理屈は? 食った物を出すのは自然の摂理だろ?」


『お、このシチュー。コーンが入っておるな』


「せめて違う物を食えよ」


『ふふふ。わらわの魔力は食事によって供給されておる。いわば魂在のエネルギーじゃな。接種した食事は全て魔力に変換されるのじゃよ。これは魔神の常識じゃ』


「へぇ……。じゃあ、魔神はトイレに行かなくてもいいのか」


『そういうことじゃな。生物の頂点に君臨するのが魔神なのじゃ。食べた物を排泄するなど勿体無いであろう。魔力に変換すればその分の力を有意義に使える』


「ふぅむ。俺はトイレに行くがな」


 もうすでに一回用を足している。

 もちろん、息子を出す時は左手を使った。


わらわは、下等な人間など、すでに超越しておるのじゃよ』


「その下等な人間に支配されているのはどこのどいつだ?」


『う……』


「教育が必要ならば、いつでも壁ガンガンの用意はできているが?」


『は、ははは! ほれ! ワインを注いでやろう。飲め飲め。ここのワインは美味いぞぉ』


 やれやれ。

 食事の料金はこいつの財産を使っているからな。

 それに免じて壁ガンガンは勘弁してやろうか。


 俺はワインをグビっと飲んだ。


「そういえば、魔神石化病が治っていなかったな。デストラが生きているからか?」


『なんじゃ。石化病がわらわの魂在が影響していると思っておるのかえ?』


「冒険者ギルドではそういう見解だが?」


『デマじゃよ。魔神石化病はわらわの愛槍、 魔神聖石槍グングニルの影響なのじゃ』


「あいそう?」


わらわが愛する槍じゃ。愛槍、 魔神聖石槍グングニルわらわが使う唯一の武器なのじゃよ』


「そんな槍はあのダンジョンにはなかったがな」


『大方、天光の牙の連中がわらわを倒して槍を奪ったのじゃろう。 魔神聖石槍グングニルの石化は魔力を注がなければ発動せん。本来ならば石化は止まるはずなんじゃがな』


 そうなると、


「奴らが槍の力を使って石化病をコントロールしているということか?」


『そういうことじゃろうな。人間が人間を石に変えるか。ククク。とんでもないゲスい奴らよの』


 知りたいことが3つになった。

 石化した妹の行方。その妹を連れ去った商人のグシェムンのこと。そして、 魔神聖石槍グングニルか。

 

 俺たちは食事を済ませて、情報収集をすることにした。

 まずは商人のグシェムンからだな。

 妹と 魔神聖石槍グングニルは奴を探せば手がかりが見つかるはずだ。


 商人のグシェムン。

 今は、出世をして伯爵になっているらしいがな。

 肥満体型の性格の悪い中年だ。いつもいやらしい笑みを浮かべて、金に汚い奴だったな。


 適当な冒険者に酒を奢って、そのついでにグシェムンの居場所を聞こう。

 直接聞くのは用心されそうだから、石化病の話題くらいから始めるか。


「なぁ、人を探しているんだが、あんたは知らないかな? 俺の知り合いが石化病にかかってな。いつの間にか連れ去られてしまったんだよ」


 それは戦士風の男だった。


「完全に石化して石化人になったのなら。いつものコレクションだろう。趣味が悪いよな」


「コレクション? なんだそれは?」


「知らないのか? 石化人のコレクション。貴族が芸術品として石化した人間を集めているって噂。もちろん非合法さ。界隈では品評会もあるらしいぞ」


 おいおい。

 趣味悪すぎだろ。

 じゃあ、妹は飾るために連れ去られたってわけか。

 俺は男のコップに酒を注ぎながら、


「じゃあ、その石化人……。連れ戻すにはどうすればいいんだ? 自警団に相談するとかかな?」


「そんなことをしてみろ。殺されるぞ。貴族が非合法を認めるわけがないからな。冒険者ギルドだってその件に関してはノータッチさ」


「諦めるしかないのか」


「いや、そうでもない。石化人を芸術品として買い戻す方法はあるらしい。遺族がそうやって買い戻したケースが何回かあるんだ」


 やれやれ。

 随分とグレーなことをしているな。

 俺なら、アリンロッテの居場所さえわかれば、力づくで奪ってやるさ。

 さて、核心に触れようか。


 再び酒を注ぎながら、


「石化人を頻繁に集めているのはどの貴族かな?」


 男はグビグビと酒を飲んで、上機嫌になった。


「あんまり他で言うなよ。耳をかせ。ヒック」


 まぁ、非合法だしな。


「グシェムン伯爵って噂だよ」


 よし、ビンゴだ。


「伯爵の屋敷は知っているか?」


「ああ、ここから山を4つ超えた所に──」


 ふむふむ。随分と遠い。

 歩いて行くと数週間はかかりそうだな。

 

 突然、見知らぬ男に声をかけられる。


「あれ? デイビットじゃないか。どうしてこんな所にいるんだ? 今日は東門の警備だろ?」


 ヤバイ。

 門番の知り合いか。


「おまえ、デイビットだよな?」


 それは男が瞬きをした瞬間。

 俺は 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンを使って夫人の姿になっていた。


 ホキノさん。

 近所に住んでいた気のいいおばちゃんだ。


「女……? あれ、あなたは?? さっき、デイビットがこの席に座っていたと思ったのですが?」


 この魔法は声さえも変えることが可能なんだ。


「さぁ、そんな人は知りませんね」


「おかしいな?? 確かにいたのに。おいあんた、さっきデイビットと話してたよな?」


「ヒック。さぁな。もう酔っちまってよくわからんよ。帰っちまったのかもな。ヒック」


 よし。

 とりあえず、情報は揃った。

 飛行魔法の 飛行フリーゲンで飛んで行けば明日中には着けるだろう。


────

お待たせしました。

次回から復讐回が始まります。

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