第5話 裏切り者

 俺は自分の家に入った。


 そこは寂れており無人。

 人が住んでいる気配がない。


 おかしいな?

 扉に借り出しの張り紙があるぞ。


 中に入るも誰も住んでいなかった。


 アリンロッテはどこに行ったんだ?


 家を出ると、近所のおばちゃんにあった。

 膨よかな女性。名前をホキノさんという。


「ありゃ! ライトじゃないかい! あんた生きていたのかい?」


 詳しいことを話すのは得策じゃないな。

 まずは情報収集だ。


「ホキノさん久しぶり。アリンロッテはどうしたのかな?」


「それがねぇ……。あんたの死亡認定がギルドから下りてね。ほどなくしてアリンロッテは体が石になってしまったんだよ」


「え? 魔神を討伐して石化病は止まったのでは?」


「いやぁ。まだまだ続いているよ。以前ほどの勢いはないけどね。毎年、数人は石になってしまうのさ」


 ふぅむ。

 俺の右手に魔神デストラが生きているからな。

 その影響か?


「それで、石化したアリンロッテはどこに行きました?」


「連れて行かれちゃったよ。グシェムン伯爵の使いが来てね。石化したアリンロッテを連れ去ってしまったのさ」


「グシェムン……伯爵?」


 グシェムンは男爵だったはずだ。

 男爵家の六男坊で、天光の牙には商人として入っていた。

 俺の腕を斬った12人のうちの1人だ。


「あんた知らないのかい? グシェムンさんは出世したんだよ」


「出世?」


「ああ。魔神デストラの討伐を成功させたからね。功績を認められて男爵から伯爵にまで出世したのさ。あの方だけじゃないよ。天光の牙は王都の英雄さ。あんたもメンバーなんだからさ。きっと多大なる報酬があるよ。今からでもギルドに行くがいいさね。冒険者の等級が上がっているかもしれないよ」


 報酬なんて興味ないさ。

 俺は最強の力を手に入れたんだからな。

 大事なのは妹と、俺を裏切った12人に復讐をすることだけだ。


加速アクセル


「みんなにもあんたの帰還を伝えないとね……って。あれ? ちょっと、ライト!? どこ行ったの!? ライトォオオ!」


 俺は高速で移動して、物陰に隠れていた。


 さて、制裁を与える1人目が決定したな。

 待ってろ、商人のグシェムン。おまえの腕をぶった斬ってやるよ。

 俺にやったみてぇにな。バッサリとやってやる。


『のぉライト。わらわは腹が減ったのじゃ』


 そういえば、俺も……。


「3年間、何も食べてなかったもんな」


 しかし、まいったぞ。

 

「金が無い。有り金は盗賊のズックに盗られたんだよ」


 俺が腕を切られた時。神経麻痺の魔法をかけられていた。

 その動けない俺から、金を盗んだのが盗賊のズック。

 思い出すだけでハラワタが煮えくりかえる思いだな。


 まぁ、今はそれどころじゃないか。

 まずはグシェムン。ズックへの制裁は後回しだ。

 さて、飯だが……。


「どうやって金を作るか……」


『ふふふ。わらわは魔神デストラじゃぞ。金に困ることなどないわい』


「金を作る魔法は存在しないはずだが?」


『ならば本物を用意すれば良い』


「どうやって?」


亜空間収納箱アイテムボックス


 俺の右手は勝手に動いた。

 空中に小さな穴が空き、その中に突っ込んだのだ。


「それは収納魔法じゃないか……」


 王都でも使える者が限られているA級魔法だ。


 デストラが手を引っこ抜いたその時。俺の右手には溢れるほどの大金貨が握られていた。

 10万コズンはあるぞ。


「大金じゃないか」


わらわの財産は亜空間にしまっておるのじゃ。亜空間収納箱アイテムボックスの魔法でいつでも取り出すことが可能じゃよ』


「おおお! 便利だな。一体いくらくらい持っているんだ?」


『ざっと1億コズンかの』


「そんなに!? 公爵の資産くらいあるじゃないか」


『ほほほ。魔神デストラを侮るでない。暇つぶしに国を滅ぼしては財産を奪っておったからの』


 すげぇな。

 こいつとは魂が混ざっているから……。

 

「それって俺の金でもあるってこと?」


『無論じゃな。わらわ 其方そちは魂在融合を果たしておる。意思は2つ存在すれど、魂は1つじゃ。もちろん、財産も共有じゃな』


 うは。

 急に大金持ちになった。


「よし、じゃあこの金で飯を食おう。ついでにグシェムンの情報を集めるんだ」


『人間の食べ物には興味があるの。ムフフ。飯じゃ飯』


「……おまえ、右手なのに食欲があるのか?」


『当然じゃろう。わらわ 其方そちは魂在融合をしておるのじゃ。主に、母体である 其方そちの感覚が優先されるがな。 其方そちの腹が減ればわらわも減るということじゃ』


 ふぅむ。

 まだまだ謎が多いな。


 その時である。ホキノさんに声をかける兵士たちが現れた。


「おいそこの女。我々は王都の自警団。門番よりライト・バンジャンスが生きているという報告が入ったのだが。該当する男を見なかったか?」

「は、はい。さっき私と話していたんですけどね」

「ほぉ……。やはり噂は本当だったのか。で、ライトはどこへ行った?」

「それが急にいなくなって……。私は幻を見たんでしょうか?」

「ふぅむ……。門番と似たような証言だな。解せん……」


 自警団は俺の家にも入っていた。


「家の中にはおりません」

「よし。とりあえず近辺を探してみよう」


 やれやれ。妙だな。

 俺は最低等級のG級冒険者だぞ。

 たかだか、そんな人間が生存していたくらいで自警団が捜索するか?


「ちょっと待ってくださいな。ライトは妹想いの優しい子ですよ。自警団に世話をされるような子じゃありません」

「王室からの通達でな。裏切り者のライトは極悪犯罪者扱いなのだ」

「ラ、ライトが極悪犯罪者!?」

「天光の牙を裏切って、みんなの命を危険に晒したと聞いている」


 おいおい。

 なんでそうなるんだよ。


「我々は捜索を続ける。続報があれば自警団に知らせるんだ。いいな?」

「は、はぁ……。ライトが……裏切り者」


 ホキノさんは、未だに信じられないといった顔だ。


 いや、そうなんだよ。

 俺が裏切ったんじゃないんだ。裏切られた方なんだよ。

  12人あいつらが俺を裏切って俺の腕を斬ったんだ。


 グシェムンの出世といい。自警団の捜索。

 そして、アリンロッテの石化病が治っていないこと。

 

 わからないことだらけだな。

 一体、この3年間になにがあったんだよ?

 

「しかし、まいったな……。自警団に極悪犯罪者扱いをされてるということは、捕まれば死刑。見つかるのは厄介だ」


 ライトの姿じゃ食堂にも行けやしないよ。


『ほほほ。ならば姿を変えれば良いのじゃろう。 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョン


 瞬間。

 俺の体は兵士になった。


「なんだ? なにが起こった?」


『ほれ。見てみよ』


 と、氷魔法で鏡を作る。

 そこには俺の顔が映っていた。


「こ、この顔は……門番の男だ!」


『フフフ。見知った者ならば誰にだってなれる。それが 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンなのじゃ』


 なるほど。

 この姿なら俺だってバレることがない。

 そればかりか、誰にでも変装ができるなら絶対に捕まることがないぞ。


 魔神デストラ。

 本当に最強の魔神だな。


『さぁ、飯じゃ飯。美味い酒も飲みたいぞ』


「よし。とびきり美味い飯を食おう」


 金はたんまりとあるしな。

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