第4話 魔神の力

 俺の右手は魔神デストラになっていた。

 まぁ、形は右手のままなんだがな。

 勝手に動いたり、目が出たりしてしゃべる。


 こいつの能力を探る必要があるんだが……。


『むむむ。 魅了眼チャームアイ……』


 デストラの瞳はピンク色に輝いていた。


「なにやっとんの、おまえ?」


『うな! 魅了の魔法にもかからぬ! おまえ何者なのじゃ!?』


「別に……ただのG級冒険者だが?」


『そんなわけがあるか! わらわの魅了も睡眠も混乱魔法すら効かぬ!』


 ほぉ。


「ずいぶんと実験してくれたようだな。命の恩人を操ろうって魂胆が見え見えだぞ」


『あはは……。し、心配するな。 其方そちが死ねばわらわも死ぬ。わらわ 其方そちは一心同体なのじゃ。よって、わらわ 其方そちの命を奪うことは絶対にあり得んのじゃよ。それとな、感覚も共有しておる』


 そう言って少女の姿になった。

 しかも、裸。紫の髪がおっぱいにかかっているのでギリギリ見えないが、下はモロである。は、生えてない……。童顔なのになかなかの巨乳。しかも、可愛い顔をしている。


「ブハッ! な、なんだその格好は!?」


「これが元の姿をしたわらわじゃよ。どうじゃ、美しいじゃろ?」


「うっ」


 悔しいが可愛い。

 大きな瞳は妖艶で、幼さの残る顔立ちに色気がある。

 華奢な体つき。キュッとしまったウエスト。輝く肌は真珠のように白い。

 そして、ボヨンボヨンとスライムのように躍動する胸……。

 

 こ、これは……童貞にはキツイ。

 

「ふふふ。わらわたちは魂在融合をはたしておる。つまり、互いが感じる性の快感も共有することができるのじゃ。男女が感じる最高の瞬間じゃなぁ」


 つ、つまり、俺の感じる射精の感覚をこいつが感じ、女が逝く感覚を俺が感じる……。ってことか。

 ゴクリ……。それは悪魔的な快楽がありそうな気がする。ハイレベルなエロス。

 いやいや。どう考えても俺には刺激が強すぎるだろう。初めては右手じゃなくて普通の人がいいよ。なんで、童貞が、ハイレベルなエロスで初夜を迎えにゃならんのだ。


「ほぉ。下半身は正直じゃなぁ」


 デストラの細い指が俺の股間をまさぐる。


「もう、こんなにも硬い……」


「や、やめろ」


 めちゃくちゃ気持ちいいじゃないか!


「ほほほ。2人で高みに上り詰めようぞ。さすれば、見たこともない新しい世界が開けるであろう」


 そんな世界は見たくない。

 特殊すぎる童貞卒業は嫌だ!


「み、右手に戻れ!」


「ふふふ。却下じゃ。そんなことはわらわの自由──。あれ? あれれれ??」


 俺が強く念じると、彼女は右手に戻ってしまった。


「うなーーーー!! なんでじゃあああああ!?」


「どうやら、主導権は俺にあるらしいな」


「くぅうう! 小僧を性の虜にして操ってやろうと考えておったのにーー!!」


 俺は右手を壁にぶつけた。

 

ガンガンガンガン!!


『痛い痛い痛い! ごめんなさいーーーー!』


「2度と変なとことを考えるんじゃないぞ」


「うう……。下等な人間に我が抗えぬか」


「そんな人間に命を助けられているのはどこのどいつだ?」


『うう……反論できぬ』


「……まぁ、とはいえ。俺の命が助かったのはおまえのおかげだからな。その点はさ……。あんがとな」


『むふ。わかれば良いのじゃ。わらわは無敵の魔神。 其方そちの命の恩人なのじゃ』


「おまえの場合。ただ単に、魂の乗っ取りに失敗しただけだろ。話しのすり替えはやめろよ」


『うなーー!』


 思考能力は甘いな。


 さて、これからはこいつと共同生活になるわけだがな。


「おまえはどんなことができるんだ?」


『48手は心得ておる』


「それ意外で頼む……」


 ちょっと期待してる自分が悲しくなるな。


『ふふふ。わらわの能力が気になるか。良かろう。見せてやるわ。わらわの全能力を』


 突然、文字の羅列が空中に浮かび上がる。


『まずは固有スキルからじゃ』


超自己再生能力。

全属性魔法耐性。

完全呪い耐性。

完全毒耐性。

健康維持特性。

物理ダメージ軽減。

魔法ダメージ軽減。

移動速度向上。

五感向上。

攻撃力倍化。

取得経験値倍増。

魔獣召喚。

念動力。


『まぁ、ざっとこんなもんじゃな』


 強すぎる……。

 流石は魔神だ。


『続いて使用できる魔法じゃが、基本的に全属性魔法が使えるからの、少々長くなるぞ』


ファイヤーボール。

上級ハイファイヤーボール。

フレア。

ドラゴフレア。

メテオ。

ギガメテオ。


アクアボール。

上級ハイアクアボール。

タイダルウェーブ。

カイザーウェーブ。

アクアストリーム。

ギガアクアストリーム。


ウインドカッター。

上級ハイウインドカッター。

ストーム。

ワイバーンストーム。

ハリケーン。

ギガハリケーン。


 これらは炎、水、風属性の魔法だ。

 驚いたな。

 まだまだ表示が続いてるぞ。


「おい、これってもしかして全ての魔法を取得しているのか?」


『無論じゃな。わらわは魔神。人間が使える平均的な魔法は全て使えるのじゃよ。他にも魔神特有の魔法は盛りだくさんじゃ。どれ、続きも表示させてやろうかの』


「いや、もういいよ。とても覚えきれない。ギガ系魔法まで使えるなんてS級冒険者じゃないか」


『ふふふ。わらわの凄さがわかったかえ』


 しかし、解せんな。


「ここまで強い魔神がどうして天光の牙に負けたんだよ?」


血の禁止魔技ブラッディアーツじゃよ。わらわの魔法が全て使えなくなったのじゃ』


 なるほど。

 奴らが魔神に勝ったのは俺の血のおかげか。


「俺はどれくらい寝ていたんだろうか?」


『さぁの。わらわにも時間の感覚はわからぬよ』


 まぁ、いい。

 こうして生きているのは運命だろう。

 神が俺の復讐を後押ししてくれているんだ。


「さぁ。行くか」


『どこへ行くんじゃ?』


「俺の腕を斬った12人の所さ」


『ほぉ。さては復讐じゃな?』


「ああ。おまえにも協力してもらいたいが……。できるか?」


『フハハハ! 当然じゃろう! わらわをこんな体にしたのは奴らなのじゃからなぁああ! この恨み晴らさでおくべきか!』


 ふっ。

 なるほど。


「俺たちには共通する目的があるようだな」


『フハハハ! 奴らに復讐をするならば協力は惜しまぬぞ。絶対に許さぬ!! 奴らには血反吐を飲ませてやるわ。生きていたことを後悔するくらいの恐怖を与えてやるのじゃ!!』


 ふむ。いいパートナーだ。



 俺たちは魔神デストラのダンジョンを出ることにした。


「あれ? この魔法壁……。封印か」


 入り口には強力な封印魔法が施されていた。おそらく魔神の討伐後に、他の冒険者が入れないようにしたんだろう。ここまで強力な封印だと、並の冒険者では近寄ることはできない。しかし、


『くだらぬ』


 俺の右手は勝手に動く。


バゴーーーーーーーーン!


 そんな封印さえも右手のパンチ一撃で破壊してしまった。


 すご……。


 凄まじい力だな。


「さて、ここらから王都までは徒歩で2、3日ってところか」


 ダンジョンを出るやいなや、俺の体は宙に浮いた。


「うわ!」


『空を飛べばすぐに到着じゃ』


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!


 速っ。


 これなら数分で着くだろう。

 向かったのは王都ロントメルダ居住区。

 その中にあるのが俺の家だ。

 

 王都は人口100万人の大都市だ。

 周囲を大きな壁に囲まれた要塞都市。

 入国管理はある程度厳重。入るには身分証が必要になる。


 飛んで越えるのは簡単なんだがな。


『なんじゃ? こんな所で降りるのかえ?』


「ちょっと、調べたいことがあるんだ」 


 俺は少し離れた場所で着陸して、徒歩で入り口に向かった。


 俺の身分は王都ではどうなっているんだろうか?


 到着するやいなや、門番は俺に身分証の提示を求める。

 俺は門番の男に身分証を見せた。ギルドが発行する冒険者の通帳。

 男は小首を傾げた。

 

「G級冒険者ライト・バンシャンス……。おかしいな。3年前に死亡届けが出されているが? 生きていたのかね?」


 やはり、死んだことになっていたか。

 それにしても3年前……だと?


「とにかく、少し待ってくれ。今、確認をするから」


 待てよ。

 復讐をするなら死んだことにしている方がいいか。


「あ、今、確認が取れたんだがな。ギルドの使いがおまえさんの身分を確認に来るって、あれ? いない!? どこ行った??」


  飛行フリーゲン

 空を飛ぶ魔法。


 俺の体は地上から50メートル以上は浮いていた。

 そのまま空を飛んで門を超える。


 このまま家まで飛んで行ってもいいんだがな。


 人目のない場所に着地する。


『なんじゃ。また降りるのかえ? 飛んで行った方が早いじゃろうに』


飛行フリーゲンは目立つんだ。超上級のS級魔法だぞ。王都でも使える人間がいないのにさ。空なんか飛んでたら目立って仕方ないっての」


『ふぅむ。人間の世界とは厄介じゃのぉ』


 復讐をするなら目立たない方がいいからな。


「それよりあの門番。3年って言ってたか」


『それくらいは経っておるやもしれんな。まぁ、たかだか3年じゃろう』


 やれやれ。

 千年生きてる魔神とは時間の感覚が違いすぎるな。


『で、誰を殺るのじゃ? ぬふふ』


「まずは家に帰る。妹が心配なんだ」


 3年も経っているなら尚更。

 魔神石化病がどうなっているか気になるしな。


「ここから歩いて30分ってところかな」

 

『移動ならば 加速アクセルの魔法を使うがよい。王都内ならば数分でつくじゃろう』


 魔神の魔法は全て共有できるからな。

 こいつの取得している能力は全て俺が使えるんだ。

 便利な右手だよ。しかも、全ての魔法は無詠唱なんだからな。便利すぎるっての。


加速アクセル


 俺は凄まじい速度で移動した。

 これは早い。まるで風になでもなったようだ。

 これならすぐにでも到着するだろう。


 見えた。

 俺の家だ!

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