第7話 商人グシェムン①【復讐1人目】

〜〜グシェムン伯爵視点〜〜


 グシェシェシェ。

 わしの名はグシェムン。


 わしの人生は、なにもかもが順調だ。

 3年前、わしが所属していた冒険者パーティー、天光の牙が魔神デストラを倒した。

 その功績が認められ、わしは国王より領地と爵位をいただいたのだ。

 グシェシェシェ。男爵家の六男坊が伯爵にまで上り詰めたのよ。

 今では広大な領地と、大きな屋敷。100人の召使いを従え、独自の兵団も雇うことができた。100キロだった体重は130キロまで太った。幸せ太りというやつよのぉ。


 グシェシェシェ。

 最高の人生だ。


 テーブルには豪勢な料理が並ぶ。

 

「新しいワインでございますっす」


 酒を注ぐのは新しいメイドだ。

 なかなかに若く、美しい見た目をしておる。

 たしか、名前をハツミと言ったか。

 顎にホクロがある、色気のある女だ。

 語尾に「す」を付けている妙な口調だが、見た目が美少女なのは間違いない。

 健康的な小麦色の肌。童顔なのに爆乳……。たまらん。

 よし、今晩はこいつもいただくとするか。グシェシェ。


「おっと」


 わしはワインをわざと溢してスーツをビショビショにした。

 ポイントはメイドの体に一瞬触れるところだな。


「も、申し訳ございませんっす! すぐお拭きいたしますので!」


「あーーあ、このスーツ高いんだよな」


「申し訳ございませんっす! あ、あーし、まだ、仕事を始めて不慣れなもので、本当に申し訳ございませんっす!」


「そう言われてもな。1千万コズンもするんだよ。これ?」


「ええ!?」


 グシェシェ。本当は1万コズンだがな。

 田舎の小娘にスーツの価値はわかるまいて。


「やれやれ。困った。ワインの染みがついては、もう着ることはできんだろう。1千万の損失か」


「申し訳ありませんっす!」


 メイドは涙目になりながらわしが溢したワインを拭いていた。

 グシェシェ。ハツミ。いい体をしておる。爆乳がブルンブルンに揺れおるて。ジュルリ……。


「これ……。おまえのミスだよな?」


「そ、それは……」


 女は薄々気がついているようだ。

 だがな、明確にはわからない。

 ここを押し切るのがわしの才覚なのさ。


「ハツミの体がわしの手に触れてワインが溢れたのだぞ?」


「も、申し訳ございませんっす!」


「謝るのは簡単だ。問題は弁償さ。1千万コズン。払えるの?」


「そ、それは……」


「グシェシェ。おまえの安い給料では無理だろうな。だが、安心しろ。おまえは見た目がいい。それ故にわしの条件を聞いてくれれば、失態は無かったことにしてやろうじゃないか」


「じょ、条件……ですか?」


 ブハッ! ニヤニヤが止まらぬ。

 この条件を提示する時、どんな顔をするだろうか?


「今夜、寝室に来い。一晩、付き合えば許してやるさ」


「そ、そんなことできませんっす! あ、あーしはただのメイドでございますっす!」


「ああ、そうか。そうだったな。では、1千万コズンを払ってもらおうか」


「そ、そんな……」


「安心しろよ。おまえに弁済能力がなければ家族に払ってもらうだけさ。田舎の両親は健在だろう? このことを伝えれば納得してくれるさ。子供のミスで1千万コズンのスーツにワインを溢したとなぁ」


「うう……。パ、パパとママには言って欲しくないっす」


「だったら……なぁ? わかってるよなぁああ? グシェシェ」


「わ、わかりましたっす……うううううう」


 ハツミは泣きながら了承した。


 グシェーーーーーーーーーーーー!

 たまらん!!

 何度もこんな手を使ってきたからわかる。

 こいつは処女だ。

 グシェシェシェ。

 今夜は最高のデザートが見つかったぞ。

 真っ裸にして舐め回してやるわ。デカい乳を揉みに揉んでやるぅううう!! グシェシェシェェエエエエエエエエ!


 わしはルンルン気分で浴場に向かった。


 汗を流して、その後はお楽しみだな。グシェシェ。


 そんな時である。


 おや?


 1人の警備兵が廊下に倒れていた。


「おい。どうした?」


「ZZZ……」


「寝てるだと……?」


 揺さぶっても起きる気配がない。

 どうやら睡眠の魔法をかけられているようだ。


 魔法だと?

 なぜだ??


 屋敷を回ると、メイドも、警備兵も、全てが眠っているじゃないか。


 わしは違和感を覚えて、魔法銃を持った。

 これは魔法弾を仕込んだ、特別な銃。

 魔法が使えないわしでも強力な攻撃が可能なのだ。

 その威力はA級魔法のドラゴフレアに匹敵する。

 B級レベルの冒険者ならば、防ぐこともできずに消し飛ぶ威力だろう。


「警備長! 警備長はおらんか!?」


 そう叫ぶも、すべての従者が魔法にかけられて眠っている。


「くっ! もしや……」


 賊か? 睡眠魔法が使える賊が侵入した。

 この屋敷で金になるといえば、アレしかない!


 石化人のコレクション。

 

 魔神石化病で全体が石化した人間を芸術品として売り捌く闇ビジネスだ。

 今、伯爵業の中でも、もっとも儲かる仕事。


 わしは石化人が収納されている部屋に向かった。

 そこは大きな広間で、約100体の石化人が保管されている。

 わしのコレクションであり、闇のオークションに出展する貴重な財産だ。

 これだけの石化人なら10億コズンはくだらない。

 賊はこれを盗みにきたに違いない。

 この魔法銃で返り討ちにしてくれるわ。


 広間に入ると、1人の男が窓際に立っていた。

 そいつは月明かりに照らされて、妙に不気味だった。


「だ、誰だ! 貴様は!?」


「よぉ。久しぶりだな。商人のグシェムン……。いや、今はグシェムン伯爵か」


「そ、その声は……!?」


 月明かりではっきりと見える。

 その顔!?


「貴様……ライトか!? 荷物持ちのライト・バンシャンス!?」


「ああ。覚えていてくれたか。良かった」


「どうして生きているのだ!? 魔神デストラのダンジョンで死んではずでは!?」


「ふっ。まぁ色々あってな。このとおり元気でやっているよ」


「そ、そうか……。ハハハ! 心配していたんだ」


「嘘が上手いな。俺の家が売りに出されていたぞ」


「うぐ……!」


「3年前。おまえが、俺をあのダンジョンに置き去りにした日。俺の財産を奪い。妹まで奪ったな」


「グ、グシェシェ。仲間の遺品整理ってやつじゃないか。アリンロッテだって面倒みんといかんだろう。あ、安心しろ! おまえが生きているなら全て返すからさ」


「……………この場所に妹の姿はないが?」


「…………アリンロッテの石化人は人気だ。美少女の石化人はとにかく高く売れる。闇オークションでも高値がついた」


「売ったのか?」


「ボルボボン卿が欲しがってね。アリンロッテはボルボボンの屋敷に飾られているさ」


「ボルボボン卿?」


「わからんか? 回復術師のボルボボンさ。奴は魔神討伐の功績が認められてな。公卿にまで出世したのだ」


「……この3年で変わったな。天光の牙はずいぶんと出世しているようだ」


「グ、グシェシェ。魔神デストラの討伐は我々に多大なる恩恵を与えてくれたのさ」


「いい御身分だな」


「お、おまえだって報酬は受けれるはずさ。冒険者ギルドには行ったのか? きっと高待遇を受けることになるぞ」


「自警団に指名手配されていたよ。どうやら俺は、天光の牙を裏切った極悪人という設定らしい。みんなの命を危険に晒した裏切り者ということだ」


「ハ、ハハハ。お、おかしいな。きっと何かの間違いだよ」


 わしは銃を構えた。

 奴は油断している。

 今しかない。

 しかし、気になるのは魔法だ。

 わしの従者が眠らされていた。

 こいつには魔法を使える仲間がいる。


「な、なぁライト。他の仲間はどこだ? は、話し合おうじゃないか。おまえが受けた苦しみは、金や待遇で解決ができるかもしれんぞ」


「俺に仲間なんていないさ」


「は? し、しかし、わしの従者が眠らされているぞ?」


「俺がやったんだ」


「なに!?」


 こいつは剣士タイプだ。

 それにG級冒険者の雑魚。魔法は使えないぞ。

 大方、睡眠魔法が使える魔道具でも使ったに違いない。

 気をつけるのはそこだけか。

 グシェシェシェ。

 勝ったな。


「グハハハハ! 死ねライト!! 貴様は生きてちゃいけない存在なんだよぉおおおお!!」


ドォオオオオオオオオオオオオンッ!!


 魔法銃を発砲。

 クハハハ!! その威力はA級火炎魔法ドラゴフレアに匹敵する。

 G級冒険者の荷物持ち、雑魚のライトに避けることはできまいて。

 グシェシェシェ!

 骨まで燃やし尽くしてくれるわ!!


ガシッ!


 え!?


「こんな攻撃。俺には効かん」


「なにぃいいいいいいいいいいいいい!? 片手で弾を掴んでるぅううううううう!?」


 み、右手だけで強力な魔法弾を掴んだだとぉおおおおおおお!?


 なんなんだこいつはぁああああああ!?

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