第2話 復讐を誓う

「ありがとうございます! 俺、頑張りますから!」


 俺は仲間達の拍手を受けて大喜び。

 そんな中、鼻でため息をついたのはパーティーリーダーの大剣使いゴルドンさんだった。


「やれやれ。しかし、荷物持ちは継続してもらうぞ」


「え?」


「当然だろう。新しい荷物持ちを雇う余裕はないんだ」


「で、でも俺はテストに合格したじゃないですか?」


「魔神討伐には参加させてやる。魔神戦は苦戦するからな。その時にでも戦闘に参加してくれればいいさ。それでいいだろう?」


「で、でもぉ……」


「おいおい。そう気張るなよ。剣の腕を上げたとはいえ、おまえが戦闘で命を落としたらどうする? アリンロッテが悲しむぞ」


「…………そ、それは」


「無理はするな。魔神戦で少しばかり手を貸してくれればいいさ。それだけでもアリンロッテは満足するだろうよ」


「は、はい……」


「俺はおまえのことを心配しているんだぞ」


「ありがとうございます」


「仲間を信じろ」


「はい」


 くはぁ……。やっぱり、いい人だなぁ。


 それに、ゴルドンさんのいうとおりか。


 あくまでも、俺の目的は魔神の討伐だ。

 ゴルドンさんたちが倒してくれるなら問題はないからな。


 みんなは優しい声をかけてくれる。


「ライト! 仲間を信じて」

「友情だよね。僕たちの絆は永遠だよ」

「みんなで魔神を倒そうぜ!」

「回復なら小生にお任せあれ」

「みんなで妹さんを助けましょうよ。それが愛です! 痺れますわ!」

「グシェシェシェ。一緒に頑張りましょう」

「ホッホッホッ。わしに任せておくがよい。おまえさんにはわしがついておるよ」


 ああ、頼もしい。仲間っていいなぁ……。

 天光の牙は最高パーティーだよ。

 3年間、同じ釜の飯を食べて来た仲だからな。信頼は厚い。

 

 討伐当日。

 

 俺は大きなリュックを背負っていた。

 それは俺の頭を越えるほどの大きさ。

 俺を含めた13人の冒険者の食事や、野営道具が詰まっている。

 少々重いが、これがいつもの仕事なんだ。


 魔神戦ではこの荷物を置いて戦おう。

 腰に備えた剣をギュッと握り締める。

 アリンロッテ。兄ちゃんが助けてやるかんな。


 俺たちはダンジョンを進んだ。


 俺はパーティーの実力に目が奪わる。


 うは! 強い!!

 雑魚モンスターを一撃粉砕だ。

 魔法、物理、特殊スキル。どれも強い。


 魔神が潜むダンジョンということで、雑魚モンスターでもかなりの強さなんだな。

 この12人。やはり、A級は伊達じゃないぞ。


 でも、たまに危ない時もあって、そんな時は俺が剣を持って前に出た。


「よっと!」


 俺の剣は大きなコウモリを斬り落とした。


 仲間は気がついてないようだ。


 実は、こんなことは初めてじゃない。

 俺は剣の修行がてら、ちょいちょい仲間を陰からサポートしていたんだよな。

 本当は今回もそのパターンで良かった。でも、魔神はS級モンスター。

 今まで戦った、どんなモンスターよりも強い。天光の牙、最大の敵と言っても過言ではないだろう。

 俺が陰でサポートするには限界がある。それに、妹のために絶対に負けられない戦いだからな。


 俺たちは順調に進んだ。


 一晩の野営をして、最下層に到達する。

 

 眼前に見える門はボスルームの入り口だった。

 あの門を潜れば魔神デストラがいる。


 ここまで怪我人は0人。

 うん。順調だ。


 俺は荷物を置いて剣を抜いた。

 ここからは俺も参加していいことになっている。

 陰でコソコソとサポートをすることもないんだ。


 みんなで力を合わせて魔神を倒す。

 魔神が消滅すれば石化病が消える。


 可愛い妹よ。待っていろ。

 今、兄ちゃんがお前を助けてやるからな。


 突然、ゴルドンが俺を止めた。


「剣を置け、ライト」


「え?」


 よくわからんが、鞘に仕舞う。


「この門には特殊な封印魔法が施してあってな。解呪士じゃないと解けないのだよ」


 なるほど。

 色々と調べてあるんだな。

 流石はA級──。


 なんて、安心したのが束の間。

 俺は盗賊の男にはがいじめにされた。


「な、なんだ!?」


「けけけ。解呪だよ。聞いてなかったのか?」


 それとこれとどう関係がある!?


 とにかく、ヤバい臭いがするな。

 こんな奴の体技。俺なら簡単に──。


 瞬間。

 俺の体は痺れた。

 雷を受けたような──痙攣。

 体中に血管が浮き上がる。


「あがががががががががが!」


 な、なんだ!?

 体が痺れる。


 白魔法使いが手を広げてこちらに魔法をかけていたのだ。


「ライト。あなたに逃げられては困りますのよ」


 なにぃ!?

 

 せつな。

 俺の腹部に拳が入った。


ボコォオオオオオオッ!!


「うぐぅううう!」


 戦士が俺の髪の毛を掴む。


「この雑魚が。おまえレベルが俺らの戦闘に参加できるわけがないだろう」

 

「だ、だから……。に、荷物持ちをやってるじゃないか」


「ははは! そうだなぁ! 貴重な荷物を運搬してくれたよなぁああ!」


 どういう意味だ??

 俺たちは仲間じゃないのか??


 解呪士は高齢の男。

 目を細めて、儀式の準備をする。


「さぁ。早く」


 ゴルドンはコクリと頷いて、


「さぁ。ライト。大仕事だぞ」


 意味がわからん。

 以前として、俺の体は痺れて動くことができなかった。


「ははは。簡単なことさ。解呪の儀式には生き血が必要なんだ」


「え……!?」


「ククク。適当な奴隷を使っても良かったんだがな。奴隷を使うにはそれなりの金が必要だったのさ。そしてなにより、非合法だ。生き血を使った 血の禁止魔技ブラッディアーツはな」


 ブ、 血の禁止魔技ブラッディアーツ


 え? え? え?


 こ、これどういう状況!?


「げほっげほっ……。ゴ、ゴルドンさん……。お、お、俺たちは……。な、仲間ですよね??」


「ははは。仲間ぁ? まぁそうだな。助け合う存在だな」


「で、ですよね。これはなにかの冗談ですよね?」


「いんや。冗談なんか言いはしないさ。助け合いの精神が私のパーティー『天光の牙』の信条だからな」


「だ、だったら……。は、離してくださいよ……」


「そうはいかん。助け合いが信条だと言ったばかりだからな」


「な、なんのことです?」


「まだわからないのか? 解呪の儀式は 血の禁止魔技ブラッディアーツなのさ。つまり、人間の生き血が必要なんだよ。まぁ、簡潔に言えば──」


 え? え?

 いや、理解が追いつかないってば。



「おまえの生き血を使うってことだ」



 これ……。ヤバイ展開か。

 俺たちは仲間じゃなかったのか??


 3年間。同じ釜の飯を食べて戦ってきた仲間じゃなかったのか??

 俺って……。


「だ、騙されていたんですか?」


 ゴルドンは大剣を構えた。


血の禁止魔技ブラッディアーツは強力だ。しかし、死体からの血では意味がないらしくてな」


「や、やめろ……」


「安心しろ。殺しはせん。貴様の首を斬ればすぐにでも殺すことは可能だがな。そんなことをしては解呪の法は失敗。ボスルームの門が開くことはないのだよ。おまえには魔神を倒すまでは生きていてもらう。それが 血の禁止魔技ブラッディアーツを使う条件なのさ」


 全身を恐怖が襲う。


 とんでもない計画だ。

 か、体が動かない。

 パラライズの魔法か。

 クソ! いつもならこんなミスはしないのに。

 アリンロッテのことで頭が一杯だった。


「腹を割くか……。それとも動けないように脚を切断するか?」


 解呪士は急かすように言う。


「動脈ならばどこでもいい。首は絶命が早い。そこ以外で早くするのじゃ」


 ゴルドンは顎髭を指で伸ばしながら嫌な笑みを浮かべる。


「ああ、なら腕か脚。どっちかだな。それも一箇所だ。どこを斬ろうか?」


「や、やめてくれ……。か、金なら出す」


「ははは。金なんかいらんさ。必要なのはおまえの生き血なんだからな」


「あが……あががが……」


 絶望と恐怖。

 そして神経麻痺の魔法が俺の体を硬直させた。


「よし。腕にしてやろうか。おまえは剣士だしな。立派な腕だった。うんそうだ。腕がいい」


 盗賊は俺の右腕を前に出した。


「や、やめ……やめれ、くれ……」


 もう、俺は泣いていた。

 俺は冒険者として、この右腕を頼りに生きて来たんだ。

 将来は立派な剣士になりたい。

 そんな右腕を斬られる絶望感。

 もうボロボロに大粒の涙を流す。

 痺れた舌でもなんとか懇願する。


「や、やめれくらさい……」


 少しでも、万が一にでも助かる希望があるのなら。

 俺はすがりついた。


「「「 ギャハハハ! 」」」


 周囲の奴らは俺を見て笑う。

 全員が笑っていた。楽しそうに最高の笑みを浮かべる。


「ア、アリンロッテがいるんです……」


「ククク。心配するな。彼女には兄は勇敢に戦って死んだと伝えといてやるよ。感謝するがいいさ。おまえは名誉の戦死になるのだからな」


 ああ、そんな。

 信じられない。

 なんで俺がこんな目に!?


「ククク。感謝するよ。ライト。おまえは我々の荷物だけにとどまらず、生き血まで提供してくれるのだからな」


ザクン……!!


 それは一刀両断。

 俺の右手は宙に飛ぶ。

 真っ赤な鮮血が噴き出した。


 切断面は熱く。激痛は骨から来る。

 それは恐怖と絶望とともに。


「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 俺の……。


 俺の右手がぁああああああああああああああああああああ!!


 もうそこからは混乱してわけがわからない。

 体は以前として痺れて動かないのだ。

 もがくこともできず、ただ痙攣して倒れるだけ。

 そんな俺の髪の毛を、ゴルドンは鷲掴みにして持ち上げた。


「ライトよ。あのテストの時な。私は手を抜いていたのだ。わかるだろ? 私が本気を出していたら、おまえを殺していた。だから、おまえの命は私が助けたも同然なのさ。わかるよな? 今、その恩義に報いる時なのだよ」


 な、何言ってんだこいつ?


 しかし、そんな言葉を理解するまでもなく、ただ俺の体は震えるだけだった。


 周囲では俺の血を使って解呪の法が始まった。

 流れる血は宙に浮き、たちまち魔法陣に吸い込まれる。


 そんな中。

 盗賊は俺の胸をまさぐる。


「ヘヘヘ。どうせ死ぬんならよ。いらねぇよな? ケケケ。貰っといてやるよ」


 それは俺の財布袋だった。

 そいつは俺の有り金を全て盗んだのだ。


「アイテムも金も貰っといてやるよ。荷物持ちの雑魚が。俺たちと同格の仲間なわけねぇだろ。ギャハハハ。バッカじゃねぇの。ぺっ!」


 去り際に、俺の頬に唾を吐いたのは一生忘れない。


 みんなは俺を見てニヤニヤと笑うだけ。


「ププ。勘違いって怖いですわね。雑魚冒険者なのにね。オホホホ。無様ですわ」

「フン! わしらと同じ目線というのは腹立たしいのぉ。無能な荷物持ちが」

「ハハハ。おまえレベルの人間が、俺たちのパーティーに入ってること自体が奇跡だったんだ。無能を使っていた俺たちに感謝してくれよな」

「無能に友情なんてないよね」

「グシッシッシッシッ。滑稽だな。バカは死ななきゃ治らない」

「ふふふ。無能の有効活用ですね。効率的ですぞ」


 俺の生き血は蛇のように動いた。

 それが 血の禁止魔技ブラッディアーツ、解呪の法。

 血は文字になり、みんなの体の周囲にまといつく。

 武器にすら、その血文字は付与されていた。


 瞬間。

 激しい光とともに、ボスルームの門は開かれた。


 どうやら成功したらしい。


 みんなは中に入って行った。

 横たわる俺を置いて──。



 ──20分は経っただろうか。

 俺の混乱は消えていた。


 涙も止まってさ。

 今に至るってわけだ。

 

 パラライズの魔法効果は消えている。

 しかし、出血多量で動けない。

 もう、気を失うだろう。


 そんな中。

 俺の全身は怒りに包まれていた。


 もう、俺の腕は戻らない。

 

 奴らは、倒れている俺に一瞥して去って行った。


 奴らの背中が遠ざかる。

 魔神を倒し、意気揚々だ。

 

 俺は、もう声は出ないが、心の中で叫んでいた。


 クソ野郎どもがぁああああああああああああああああ!!

 ぶちのめしてやるぅうううううううううううううううう!!


 今日のことを忘れないからな。

 絶対の絶対に復讐してやる!


 ……でも、ダメだ。もうもたない。

 悔しいが、これまでか。

 もう気を失いそうだよ。

 復讐は死んでからやってやる。


 俺の瞼が下がりかけた時のこと。


『あああああああああああああ……!!』


 それは女のうめき声だった。

 血だらけの女が、ボスルームから這いつくばって出てきたのだ。

 その口には、1本の腕を咥えている。……俺の右手か?


 こんな時なのにさ。

 俺ってば、どうしてこういう思考になるのかわからんよな。


 不覚にも、その女を見て、美少女かも、っなんて思ってしまったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る