俺の右手は魔神の右手〜腕を斬られてダンジョンに置き去りにされたので、俺もそいつらの腕を斬り落とすことに決めました〜

神伊 咲児

第1話 始まりは腕の切断

 あー、ちょっとグロい。


 話すにはキツい状況だ。

 

 でもさ。

 話さずにはいられないんだ。

 俺こと、ライト・バンジャンスの人生を語る上ではな。


 まぁ、人生ったって18歳だからさ。

 語ることなんて、そんなにはないんだけどな。

 

 なにぶん、今はのっぴきならない状況でな。

 ははは。まいったよ。人生終了ってやつさ。


 今さ──。



 右腕がないんだ。



 切断された。


 バッサリとな。


 斬られた腕はどっかに飛んでった。

 

 だから、今は血の海さ。

 切断面からドバドバと血が流れてな。


 もちろん痛い。


 グロいって言ったろ?

 俺だって、こんなにも大量の血。見るのだって初めてさ。

 はっきりいってグロいね。

 いや、そんなことを言ってる場合じゃないよな。

 

 出血多量だ。

 意識が遠のく。


 ヤバい……。

 このまま眠れば死んでしまう。


 でも、とても動けそうにない。


 ここはダンジョンの最深部。

 

 魔神デストラの潜むボスルームの前だ。

 

 ボスルームの門は大きく開いていた。



 ボスルームでは、金属音が鳴り響く。

 魔神と戦っているのだろう。

 俺の仲間たちが……。


 いや、仲間か。


 これは魔神討伐のクエスト。

 大陸を支配する三魔神が一人。魔神デストラを倒すためのクエストだったんだ。


 遠ざかる意識を前に、戦いの音は激しさを増した。


 突然。


『ギャァアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 それは奇声だった。

 甲高い、ヒヒのような叫び声。

 女の声にも似ている。元仲間の誰かがやられたのだろうか?

 それなら幾分気分は晴れる。

 なにせ、俺の右手を斬ったやつらには女も混じっているんだからな。


 魔神の声……。という可能性もあるか。


 いや、この際どっちでもいい。

 そんなことより、俺の周囲に誰もいないことの方が問題だ。


 回復魔法……。いや、粗悪品のポーションでもいい。

 この血を止めなければ俺は確実に死ぬ。



「やった! やったぞぉおお!! 魔神を倒したぁああああ!!」



 ちっ。これはゴルドンの声だ。こいつはチームのリーダー。

 そうなると、クエスト達成か。


 じゃあ、さっきの声は、やっぱり魔神だったんだな。

 魔神デストラは女だったのか。


 女……。

 

 どんな顔をしていたのだろう?


 ……くだらないな。

 女だとわかった途端に容姿が気になる。

 死にそうになってんのにさ。スケベ心は元気なんだからな。どうしようもねぇやつだよ俺は。


 まぁ、しかし、千年生きた魔神って話だ。

 いくたの国を滅ぼしてきたと聞く。

 何百万人という人間を殺したんだ。醜悪な容姿に決まっているさ。

 

「んぐっ」


 いよいよヤバいな。

 踏ん張りが効かなくなって来たぞ。

 目が霞む。

 このままでは気を失う。


 目を閉じれば、終わるな。


 さて、どうしてこんなことになったのか。

 意識を失う前に整理しておこうかな。


 やつらのやったことを──。


 いや、やつらが俺にした卑劣な行為を。


 絶対に忘れるわけにはいかないのさ。


 整理して、脳内に刻み込んでやる。


 俺があの世に逝ってもな。絶対に忘れないようにな。


 絶対の絶対に忘れねぇぞ。


 俺を裏切った12人。


 許さないぞ。


お ま え た ち の 悪 行 は な !




 ──それは一週間前の話。


 G級冒険者の俺は、A級冒険者のパーティーで荷物持ちをやっていた。

 G級といえば最底辺だからな。荷物持ちでも、上級者パーティーで使ってもらえるならありがたいよ。


 俺の両親は俺が小さい頃に他界した。

 そんな俺は、妹と2人暮らしだった。


 彼女の名はアリンロッテ。


 まぁ、兄の俺がいうのもなんだがな。清楚でな。ふふふ。可愛くて優しい、自慢の妹だよ。

 街に一緒に買い物に行ったらさ。男たちの目は釘付け。器用で頭が良くてさ。完璧な女の子だよ。

 料理が得意でな。彼女が作ったシチューはめちゃくちゃ美味いんだ。

 いつも石鹸のいい匂いがしてさ。髪は輝くような緑色で、肌なんか白磁のように白い。

 兄想いの優しい子なんだ。いつも俺のことを心配してくれる。本当に最高の妹だよ。


 そんなアリンロッテが──。

 急に熱を出して倒れた。

 

 高熱だ。


 もちろん、俺は大パニック。あらゆる薬草を試したが効かなかった。

 その熱は決して冷めない。

 それどころか、彼女の半身は石になっていたんだ。


 魔神石化病。


 大陸を支配する魔神の魔力によって体が石化する病だ。


 治療方法は魔力源を断つこと。

 つまり、魔神デストラの討伐だ。


 この病は王都に蔓延していた。

 危機感を募らせた王室は、魔神を倒せる者を探した。

 該当したのが俺の働いているパーティーってわけだ。

 それは俺を含めた13人の冒険者。俺以外はいずれもA級冒険者で、凄腕のパーティーとして有名だった。


『天光の牙』


 それがパーティーの名前。

 A級冒険者ばかりで結成された最強のパーティー。


 冒険者にはSからG級までの階級が存在する。

 Sといえば伝説級。そんな冒険者は存在すら疑わしい。

 なので、実質、A級の冒険者が最強といっても過言ではないだろう。


 そんな最強の冒険者だけで結成されたのが、俺が働く『天光の牙』だ。


 荷物持ちの俺が、そんな上級者パーティーで発言権はなく──。

 が、なにぶん、妹の命がかかっている。

 兄としてはやらざるを得ないのだ。

 俺は荷物持ちをしながらも剣の修行をしていた。

 もともと、このパーティーに入ったのは、修行の一環なんだ。

 今こそ、その力を見せる時だろう。

 俺は、パーティーリーダーに懇願した。

 ゴルドンさんは眉を上げる。

 

「戦闘に参加したいだと? おまえには荷物持ちの役目があるだろう?」


「石化病にかかった妹を助けたいんです。ぜひ!!」


「いいだろう。では、テストしてやる。おまえが私の剣を受けて、その剣を離さずに持っていられたら……。戦闘の参加を許してやろうじゃないか」


 パーティーリーダーのゴルドンさんは、手で口髭を伸ばしながら笑う。

 彼は人格者だ。頭がよくてパーティーの中では信頼されている。


 その体つきは筋肉質で。身長は190センチはあるだろうか。

 背中の大剣は俺の腕の3倍は広いだろう。

 対する俺の身長といえば170センチそこそこで。腰の剣は細身でおんぼろ。そんな俺なんかと比べたら、明らかに強そうだよ。


「安心しろ。おまえ相手に、本気なんか出しはせん」


「ありがとうございます」


「ほれ。受けてみろ。ふふふ」


 ゴルドンさんは大剣を振るった。


 簡単だ。剣を持つだけ。

 剣のグリップを離さなければテストは合格する。


「おっと。言うのを忘れたがな。ククク。剣が折れても失格だからなぁあああ! グハハハァアア!!」


 んぐ。

 だったら、折れない工夫をしてやるさ。

 俺は今まで、隠れて剣技の修練を積んできたんだからな。

 俺の力で、妹を助けるんだ!


ガキィイイイイイイイイイイイイイインッ!!


 と、接触音がしたかと思うと、クルクルと回転をしながら、ゴルドンさんの大剣は地面に突き刺さった。


「な、なに!? わ、私の剣を……。は、弾いた……だと?」


 ポイントは当て方だな。

 まともに大剣を受けたんじゃ折られてしまう。

 だから、衝撃を受けないように、剣身の端を、押すように打つんだ。

 すると、相手のグリップに振動が伝わって、剣を離してしまうというわけさ。

 まぁ、言うは易しだがな。実際にやるのは難しいと思う。多分。


「ふん……。なかなかの腕前だな。おまえがこのパーティーに入って3年になるか……。隠れて修練していたのか?」


「…………はい。強くなりたかったので」


 周囲からパチパチと拍手が起こった。


「すごいじゃないライト。腕を上げたわね」

「やるのぉ」

「流石ですぞライト」

「アリンロッテを助けるためか。泣けるねぇ」

「愛の力ですわ……痺れます」

「努力の結晶だね」

「兄の想いは強し、だな」


 みんな。

 いい人だなぁ。

 俺は不覚にも、目に涙を滲ませた。


 俺は仲間が大好きなんだ。

 やっぱり、3年間付き合ってきた仲間だもんな。


 みんなありがとう。


 って、その時は本気で思っていたさ。


 こいつらの正体に気がつくまではな。


 思えば、あのテスト。

 俺が勝ったのが原因かもしれない。

 まさか、あんなことになるとはな……。



──

最強の力で12人に復讐をする話です。

本格的なざまぁは7話から始まります。

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