第14話 古代図書館④ 異世界転生者
「異世界転生〜普通のサラリーマンの俺が、普通の一般市民に生まれ変わってマジ最悪〜!?それって完全に異世界転生もののタイトルそのものじゃん!?」
タルオは面食らった。このタイトルが導き出す結論は一つ、タルオの他にもタルオのいた世界から、こちらに転生してきた人物がいるということだ。
しかも、前世の記憶を持ったままで。
「その本を読んでみたい!」
『却下。その書籍は、現在閲覧中です。』
本に告げられタルオはガッカリしたが、同時に少し気になることがあった。
「さっき、転生について聞いた時、なぜ異世界転生の本がある事を教えてくれなかった?」
『該当の「異世界転生」についての書籍は、日記形式での記載だからです。通常、個人の日記については、そう指定されない限り検索から除外しています。』
つまり、転生者が小説として書いたのではなく、日記としてこの世界に来てから書いていたものなのだろう。タイトルは、言わばネタのように面白半分に付けたものなのかも知れない。タルオ同様、ここにコピーがあるということを知らないのかもしれない…お気の毒な。人に読まれると思ったらこんなタイトルを日記にはつけないし…
「さっき閲覧中って言ってたけど、どこで読まれてる?」
タルオは居ても立ってもいられなくなってしまった。どうにかお願いして先に読ませて貰いたい。
『第6特別閲覧室です。この階の2つ下です。』
「そこに行きたい!案内して!」
パタパタと本が動き出した。ついていけば良いのだろう。
チラッとエルの方に目を向けると、彼女と目が合った。本の進んだ方向を指し示し、「ちょっと用事があって行ってくる。」口パクで告げた。図書館は私語禁止なので大きい声をあげるのは控えた方がよいと思ったからだ。
彼女は綺麗な顎を少し引いてうなづいた。口元には微笑も浮かべている。
あれっ、今日は色々な表情を見せるな?と、思ったが、なぜかは分からない。
もしかして脈アリ…とか?
彼は足取り軽やかに、本の後をついていった。
円盤型の床に乗り二階層分下に降りて見渡すと、降り立った場所を中心に周囲には12個の重厚な扉が設けられている。それぞれの扉の先が閲覧室になっているようだ。扉にはそれぞれ番号が刻まれている。
タルオは目的の番号を見つけると、扉に近づいた。
扉を引いてみたが、ピクリとも動かない。
『特別閲覧室は中から施錠できるようになっています。入っている者が許可せぬ限り何人も入室できない仕組みが魔法で施されています。』
ドンドンとタルオはノックした。読書の邪魔をして申し訳ないのだが、事は急を要する。この世界に来た異世界人の情報は非常に貴重だ。きっとタルオが知らない事情も知っているはずだ、もしかしたら何かを掴んでいるかも知れない。
「すいません!お邪魔します!あなたが読んでいる日記を見せて欲しいんです!」
ガチャっと扉が開錠される音が鳴った。ピクリとも動かなかった扉が軽く引くだけで音もせずスッと開く。入室を許可されたようだ。
だが…何だろうこの違和感…そして嫌な感じ…この感じはどこかで感じたような…
普段であれば踵を返して逃げ出す臆病なタルオだったが、今回は好奇心が優った。何より知りたい情報がそこにあるのだ。
扉を抜け中に一歩踏み入る。入った瞬間に感じたのは冷気だった。ひんやりと肌を包み纏わり付く。閲覧室はそれなりの広さを有しており左右が20メートル程度、奥行きは更に長いようだ。その奥には立派な造作の大きな机が設られている。その机の先に一人の人物が立っていた。身体を覆う漆黒のフードが不気味さを漂わせている。
「こ、こんにちは!あ、あのお邪魔してすいませんが、あなたの読んでいる本を見せてほしくて…」
タルオの問いにフードの人物は、右手をゆっくりと動かした。一瞬挨拶かなと思ったが、その手には日記が握られていた。
これのことか?と聞いているような動作だ。
「は、はい!それです!ちょっとだけで良いので見せていただけますか?」
フードの男が微かに揺れた。もしかして笑ったのか?
無造作に日記を机に放り出すと、両手で顔を覆うフードに手をかけた。
ダークエルフだ。
肌は、深い紫や漆黒といった暗い色合いで、まるで月光に照らされた夜空のように微かに輝いている。その髪は銀色で長い直毛が特徴的で、瞳は緑色をしており真っ直ぐにタルオを見つめてくる。
他のエルフ種族と同様にスレンダーで優雅な体型をしているのだろうが、筋肉質で強靭なのはフード越しでもよく分かる。その姿はまるで影と一体化しているかのようだ。
周囲には常に不穏な空気が漂い、その存在感は圧倒的である。動作は猫のように静かで敏捷であり、常に周囲を警戒しているようにも見える。
「やぁ、太郎。ここで会えるとは…運命というのか因果というのか、それとも…」
声は低く、魅惑的で聞き取りやすい。だが、何か嫌な因子も含んでいるようだ。
それよりも…
太郎と言った。タルオではなく…そもそも名乗ってもいないはずだ。
「まさか人間の姿になっているとはな。あの忌々しい龍め。どおりで見つけられんはずだ。龍としての力を捨て人として生きるとは。」
タルオの頭に警戒音がけたたましく鳴り響く。
なぜ知っている。この男は?まずはこの場を離れなければ…
直後、彼の背後で扉が閉まる音がした。
しまった!閉じ込められた。
「ふふ、そう焦ることはない。知りたくはないかね?なぜ自分がこの地に召喚されたのかを?」
ダークエルフは静かに問うた。その言葉には魔法でもかかっているのだろうか?タルオは身動きが出来なかった。
秘密主義で知られるダークエルフは、自分たちの社会や文化を外部には明かさないが、強力な魔法使いとして知られており、闇の力を操ることができるとされている。
「知っているのか?どうしてあんたが?」
「知っているとも、私も異世界人だからな。」
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