第13話 古代図書館③ 世界の叡智
「驚いたようだな?ここには世界の全ての書物が収められている。今見ているのはそのホンの一部だ。すごい量だ!この場所は人の紡いできた歴史そのものなんだ。ここに来るといつも人の営みを感じることができる。」
エルの顔には笑みが浮かんでいた。これも滅多に浮べない表情だ。
心なしか、村にいる時よりも生き生きとしているようにも感じる。
「世界の全て?そんな膨大な量を集めたの?魔法で?」
その問いはエルに向けてのものだったが、代わりに本が応えた。
『物理的には収集していません。ここにあるのは、原本のコピーです。世界の誰かが文章を書けば、その文章を感知し代筆してコピーを作り収めます。』
「えっ、そうなの?じゃあ、メモとかいたずら書きなんてどうするの?それもコピーするの?」
『はい、ここは世界で紡がれた文字の全てを記憶するため太古の昔、原始の魔法により作られた場所。例外はありません。』
「世界で紡がれた文字の全て…、た、例えば個人的な日記とかは…」
『もちろん、記録しております。』
言い終わる前に本が答える。
『…タルオ様の日記も…最終記載日は昨日ですね…ございます。内容的には殆どエルさまの…』
「い、いらん!!消去してくれ!消してくれ!頼むから!!!」タルオは懇願した。あんなものを人の目に晒すわけにはいかないのだ。見られたら生きていられない。額に脇に汗が吹き出した。
『却下…この図書館にある書籍は消去不可能。規約第1条12項。罰則規定第14条の2。』
本の色が赤く染まっている。警告なのだろう。
もう二度とこの世界で日記は書くまいと決めたタルオであった。
「どうしたタルオ?何を興奮している?顔も赤いぞ、熱でもあるのか?」
一歩エルが近づいてきたが、反射的にタルオは距離を取ってしまった。
「だ、大丈夫!!何でもないよ!」
気恥ずかしさからの行動であるが、そんな行動をとってしまう自分がこれまた情けなくなる。少し気まずい空気になったが、それから間もなくして二人を乗せた床はピタリと静止した。目的地に着いたようだった。
そこは、最初に訪れた入口の部屋など比べようもないくらいの広さを有した大空間となっており、長机と椅子のみが視界の届く範囲全てに整然と配置されている。ここは、おそらく本の閲覧場所なのだろう。
部屋全体は明るい。少し上部に、これまた無数のランプが浮かび、煌々と灯りを照らしているのだ。
エルは近くの机に移動し腰掛け、金色のカードを取り出した。クレジットカード位のサイズで表面に龍の紋様が大きく描かれいる。
タルオは美しい意匠のカードに興味を持った。
「そのカードは何?」
「これは冒険者ギルドが発行している冒険者カード。冒険者の身分とランクを示す重要なアイテムだ。」
出た!冒険者ギルドに冒険者カード!これぞ異世界転生!タルオは目をキラキラさせて、エルの持つカードを見つめた。やっぱりあるんだな、この世界にも冒険者ギルドって!彼は興奮を覚えた。
『冒険者ギルドは、多種多様な依頼を受ける冒険者たちのための組織で、冒険者たちがスキルを磨き、情報を共有し、仲間を見つける場所として機能しています。ギルドへの入会は、冒険者にとって名誉であり、多くの機会をもたらします。しかし、それには責任も伴い、ギルドの規則や倫理を守ることが求められます。
冒険者ギルドのカード型証明書は、冒険者の身分とランクを示す重要なアイテムで名前、ランク、登録番号、特技、達成したクエストの数などが記録されています。 堅牢な金属合金で作られており、長期間の使用に耐え、魔法による保護層が施され、水や火、汚れからカードを守り、所有者の指紋や魔力を感知し、偽造や盗難を防いでいます。』
本が丁寧に説明をしてくれた。この本は学習機能でもあるのだろうか?先ほどから彼の思考を先読みしているような気もする。
「このカードは、冒険者がギルド内外で自分の身分を証明するためのものであり、また、ギルドのコミュニティに属している誇りを象徴している。それに、いくつかの特典もある。その一つが古代図書館へのフリーアクセスだ。」
エルは綺麗な人差し指と中指で冒険者カードを挟み、タルオの目の前でヒラヒラさせた。
「超大陸の王、ドラゴンが消えた例が今まであるか?また、そういった類の事例が報告された、もしくは推測される事象について記載された書物があれば教えて欲しい。」
その声に反応するように冒険者カードが微かに光を帯る。
『お尋ねの件につき、エル様のランクでアクセスできる情報に制限があります。アクセス可能範囲での情報には、お尋ねの事象や事例について記載されている書物はありません。』
熟練の女性オペレーターのような澱みない回答が返ってきた。本が話すし、カードも話す…本当に不思議な世界だなぁ。
「では、アクセス制限されている情報に、該当する情報があるのか?」
『回答不可。』
「なぜだ?私は上級者ランクだ。どのランクであればアクセス可能だ?」
『該当する情報へのアクセス許可は…』
「詳細はどうなっている…」
タルオはそっと、その場から距離を取り少し離れた席に移動した。
エルの邪魔をしたくなかったし、それに彼にも調べたいことがあったからだ。
「えっと、調べて欲しい。今までドラゴンから人間に変化した例はある?」
彼の周りを飛んでいる本が答える。
『ドラゴンについての情報へのアクセスに制限があります。』
だよなぁ〜。エルのランクでも回答拒否なんだから…一般人の俺なんて…
尤もドラゴンという種は、この世界の成り立ちから深く結びついている神に近い存在である訳で、気軽な興味本位で、あれこれ詮索するのは不味いという判断も有るのかも知れない。
「では、転生についての情報はある?」
『複数の書物があります。主に宗教の聖典などです。数が非常に多いので、宗派や教義などで絞られることをお勧めします。』
やはり、転生って概念は宗教的だよなぁ〜。タルオは思った。
「死んだ者が別の世界で別の生物として生まれ変わるみたいな…異世界転生ものってあるわけないか…」
当たり前だよな、とタルオは嘆息して机に突っ伏した。いや正確にはそうしようとしたが、本の言葉に彼は体勢を崩す前の姿勢で固まった。
『異世界転生〜普通のサラリーマンの俺が、普通の一般市民に生まれ変わってマジ最悪〜という主題の書籍が一冊がございます。』
「マジで!?」
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