第11話 古代図書館①

 ブレイズハート大陸は、周囲を険しい崖に覆われており外界とは隔絶されている。大陸中央には一万メートルを超える巨大な火山が聳えており、太古より火口から噴き出した溶岩が陸地を焼き絶えず海へと注ぎ込んだ結果、何万年もの歳月をかけ大地を積層し大陸の複雑な地形を生み出した。

 その燃えたぎる火山より生まれ出でた存在こそ、ドラゴンの王「インフェルノクロウ」であり、炎の化身と呼称される所以でもある。

 インフェルノクロウの誕生の結果、大地の炎の力の根源はドラゴンへと受け継がれ、この大地の火山は活動を終えたという。

 死火山となった山は広大な噴火口を残し、そこへ長大な時間をかけ注ぎ込んだ雨水が、この山の頂きに世界最大の湖を作り出した。


 その湖の淵に作られた都、それこそが叡智の都「エブラグラム」。古代図書館はこの都にあった。


「これがエブラグラムの古代図書館か。」

 太郎は、声を上げた。その声は感嘆ではなく、少し戸惑いを感じさせた。


「ふふ、意外そうな声だな。タルオ。」

 エルが面白そうな顔を向けてくる。

 太郎は記憶喪失の設定なのだが、名前は思い出せたことにしておいた。ただ、「太郎」と名乗ったのだが、エルフの発音ではうまく表現しにくかったようで「タルオ」となっている。

 愛しい人に下の名前で呼ばれる度に、心ときめくタルオだったが、今は目の前の古代図書館に関心が向いていた。正確には疑念とも言える。


 彼らの眼前にそびえる…いや、佇む?…ポツンとあるのは、タルオのいた世界の民家程度の大きさの建物だったからだ。


「小っさ。」思わず感想が口に出た。


 長老達との話し合いの結果、エルがこの地に赴くことが決定した。もちろんタルオも同行を願い出たが、エル以外のエルフはタルオに全く関心を向けず、というか存在が無いかの如くの扱いは変わらず、行きたきゃ行けば状態であった。

 とはいえ、旅の装備の一式は用意してくれたので、その点は感謝している。

 山の麓までは村から馬に乗り九日程度の道程であるが、山の頂きの都まではさらに三日かかった。


 タルオにとって山登りは初めての経験であったが、都までは街道が整備され馬での移動も可能になっていた。また、頂上に近づくにつれ寒さも増すと思っていたのだが、気温は温暖なままだった。まるで死火山自体が発熱しているようで、「何か床暖房みたいだな。」とタルオは感じた。


 都は、湖の縁を取り囲むように反円状に広がっていた。赤茶けた建物には過剰な装飾は殆ど見られず質素とも言えるが、重厚さとやや無骨さを纏う意匠が、大陸中の学者や研究者が集う「叡智の都」の代名詞に相応しい趣を感じさせる。


 この都に到着し、荷物を宿に下ろし訪れた古代図書館の前に、今エルとタルオはいるのであった。


「さぁ、行こう。」エルは歩を進める。

 扉が開くと中は更に狭く、外壁の赤茶けた色と同じ様な壁に囲まれた部屋にポツンと机があった。受付なのだろう。そこには一人が座っていた。いや立っているのか。背丈は人のそれの半分くらいであり、低身長だが、がっしりとした体格、広い肩幅、しっかりとした眉、大きな鼻、高い頬骨…ドワーフなのだろう。


 確かに、この街にはドワーフが多かった。

 タルオが見かけたドワーフは、ヒゲを蓄えていたので男性だったのだろう。目の前にいるドワーフは彼らと比べると、滑らかな顔立ちをしているし、そのそも髭がない。ドワーフの女性なのだ。


「ようこそ古代図書館へ。」ドワーフの受付女性がぶっきらぼうに告げた。

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