立つ鳥跡を濁さぬよう

 番外編というわけではないが、今回は職場での捨て活について書こうと思う。


 保存期間が何年、と決まっている書類たちのことではない。もちろんこうした書類たちは場所をとり、保管スペースを侵食しており、保存期間を過ぎたときに「ひゃっほい!」と捨てられる嬉しさと言ったらない。しかしこれは保存期間を過ぎたら片づけましょうという、ただそれだけだ。

 職場の捨て活とはあくまで自分の私物、あるいは自分が管理している仕事上のものたちについてだ。


 私が捨て活のきっかけとして挙げたゆるりまいさんは、職場のデスクがとてもきれいだったという。ブラック企業に勤めていたという彼女は、いつでもやめられるようにと私物をほとんど置いていなかったといい、仕事で嫌なことがあるたびに片づけていたとも言っていた。

 この話を知った当時、私はさっそく捨て活をした。とはいえ、捨てられない族の人間である。これはまた使うかもしれない、とそこまで処分はできなかった。


 そして私はまた、最近捨て活をした。私にしては思いきって。どういうことかと言うと、まあ、つまりはそういうことだ。

 辞めたい、とずっと思っている。でもいまだに勤めている。波をやり過ごしながら。そしてまた、大きな波がやってきた。

 定期的に捨て活はしていた。が、それでも、捨てられるものが次々と出てきた。同じパンフレットや期限を過ぎたカタログなどだ。それらを捨てたら、仕事のマニュアル類や使うかもしれないと思って残していた資料を精査した。


 私はわりと、一応取っておくタイプの人間だ。特に仕事のものは期限を過ぎても、後で必要になる可能性も考えてしばらくはとっておいたりする。それ以外にも、前にやっていたが今は担当じゃなくなった仕事のマニュアルを取っていたりする。これはもはや願掛けに近いが、その仕事を二度としたくないからだ。また戻ってくるかも、と持っているうちは、来ないような気がしている。

 今回、期限の過ぎたものを残しておく期間を短くしたり、マニュアル類もずいぶん捨てた。

 マニュアルはそもそも更新を重ねて、当初のものとかなり変わっていたり、最新版がWEB上やサーバー上で見られることを確認できたので、ガンガン捨てた。

 あと、なんか配られたノベルティとか、使ってない文房具類などを、せっせと備品のところに返しておいた。


 それでもまだまだ残っているし、捨てるわけにもいかないものもあるので、日々、折を見て捨て活は続けたい。

 「辞めたい」と「辞める」には気持ちは同じでもものすごく差がある。いつか瞬間的にその差がすこんと埋まることがあるかもしれないし、実際衝動的にそうなる瞬間はある。

 そういうときも、そうでないときも、「いつだってすぐ辞められる」と思えるくらいに片づけてあることは、精神衛生上よいことなのだと思う。


 そういえば同じ会社の方のロッカーには、とても大きなバッグが入っている。聞けば「辞めると思ったその日に、自分の荷物をすべて持って帰れるように」ということだった。

 ものを減らしておくことも、すべて持ち帰ることができるようバッグを用意しておくことも、同じことだ。いつでも辞められるんだという安心を一つ用意しておくということは、心を守ることだと思うから。


 たとえば急に私が辞めたとしても、会社はまわっていく。最初はたしかに困ることもあるかもしれないが、大抵のことはどうにかなる。どうにかなるのを何度も見てきた。だから、いつ辞めたって大丈夫なのだ。

 だけど残る人を困らせることは本意ではない。だからせめて、私物だけでなく自分が管理してきたものは片づけていきたいのだ。立つ鳥跡を濁さぬように。その準備だけは日々しておきたいと思う。


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