都合の悪い引き出し〜どうにかはしたいけど編〜

 私以外のものを捨てられない属性の方はどうだかわからないが、私には住所のないものをとりあえず入れてしまう引き出しがある。ある意味都合がよく、ある意味では都合が悪い。

 使っている本棚の下には左右に引き出しが一つずつある。右側の引き出しには卒業証書だとか資格の合格証とか、あと何だろう、まあ今後検討対象かもしれないが必要だろう、という書類や紙類が入っている。中身は多少変わっているが、昔から系統は変わらない。

 問題は左の引き出しである。思えば私は、しまうのに困るものを歴代ここに入れてきた気がする。あーこれどうしよう、とりあえずここ入れちゃえ、という具合だ。これでとりあえず目に触れなくなるわけだ、何とも都合がよい。


 もちろん全国の捨てられる属性の皆様は、そんな引き出し即刻いるいらないを分別しやがれ、と思うだろう。しかし、そうはいかない。この引き出しの中身は、私にとって捨てられないものなのだ。

 大まかに分類すると、いつか使うかもしれないもの、どうにかしたいけどできずにいるもの、といったところだろうか。時折中身は入れ替わってきたけれど、そういうものをずっと見て見ぬふりをしてきたのだ。


 今回はこの引き出しの中の「どうにかしたいけどできずにいるもの」について書きたい。

 いらないなー、でも捨てるっていってもなー、と長年しまい込んでいたものがある。どうにかはしたい。でも、見て見ぬふりをしてきた。使い捨てカメラとガラケーだ。


 使い捨てカメラは二つありどちらも使いかけで、いったい何を撮ったのか覚えていない。大学時代ともなるとデジタルカメラを使っていた気がするので、それよりも前だろうか。

 現像すればよいと思いながらも、面倒でずっとそのままにしてきた。重い腰を上げて、去年だったかその前か、ようやく現像してみることにした。

 カメラの一つに収められていたのは、何でもない写真だった。もしかしたらもっとほかの何かを撮っていたけれど、現像できるものがなかったのかもしれない。写真は多くなく、空の写真だとか、そんな類のものだ。

 写真というものに「捨てる」という選択肢はずっとなかったのだけど、これらを取っておく必要が果たしてあるのか。ない。現像したての写真をそのまま手放したのだった。


 もう一つのカメラに収められていたのは、おそろしいことに中学の卒業式の写真だった。驚愕である。なぜ今まで現像していなかったのか。おそらくまだ数枚残っていたから、撮ってから現像しようと思っていたのだろう。それにしても自分に恐怖しかない。

 カメラから写真に形を変えたそれらは、整理しないとなあと思っている写真置き場に移動した。写真たちは、私が今後向き合わねばならない「どうにかしたいもの」ではある。


 そして長年どうにかしたいと思っていたもの、それが今は使っていないガラケーだ。ちなみに三台あった。

 ガラケー時代、機種変更の際は古い携帯電話は必ず返されていたと思う。思い出だなんだと大事にしまい込んでいたが、あるときふと思うわけだ。これ、いらないよな、と。

 しかしながら中身はデータである。ポイっと捨てるわけにもいかないし、データを消そうにも電源は入らない。そもそも充電器はすでに捨ててしまった。お手上げだ。


 いらない捨てたい捨てられない、と見るたびにもやもやしていたのだが、二年前だったか(もっと前だったか日記を確認すればわかるが面倒なのでしない)、携帯ショップにスマホの機種変更に行った際にガラケーの回収してます的な案内を見つけた。話ついでに聞いてみると、データが消えてなくても使えないようにするから大丈夫とのことだった。

 私は喜んで後日三台のガラケーを携帯ショップに持ち込んだ。一応、ミニSDカードだかマイクロSDカードだかは、残っていないか確認して抜いておいた。


 私の携帯電話を受け取った店員の方は、さっそくSDカードが残っていないかを確認した。それから、何やら置き型のホチキスのような形状の道具を出してきた。

 店員の方の話では、決定ボタンとほか二つのボタン(何だったかはすでに忘れた)、その三つを潰せば何もできないらしい。データが使われる心配もない。専用の道具でそれぞれの三つのボタンを破壊していく店員さん。思い出の携帯電話が破壊されていく光景は、なかなか衝撃的だった。

 こうして私の三台の携帯電話はリサイクルにまわされ、私の都合の悪い引き出しからは見るたびに悩ましかったガラケーが姿を消した。

 今後はガラケーから抜いたSDカードが「どうにかしたいもの」となった。小さいだけに後回しになりそうだが、中身は膨大、相手は思い出、高難度の捨て活になりそうだ。

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