第3話 テロ発生
前回の出来事から数日が経った頃————。
「このくらいでいいかな」
足下に積み上げられた魔物の亡骸。
俺は新武装のための素材集めに勤しんでいた。
「よーし、これであれが作れる」
ワクワクが抑えきれず、口角が上がる感じがした。
「それとこれはどう使うか……」
一つだけ用途不明の素材があった。
魔石なのだが、魔力を流すと高熱を発するようになるのだ。
「剣に混ぜて、高熱で焼き切るようなことができそうだが……」
少し考え、まぁ結論を急がなくてもいいかと思ったため、倉庫へ保管することにした。
そして格納庫から離れ、上へ上がる。
上階は俺の住居になっている。
「それにしても、もっと効率よく情報収集できたらなぁ……。今のままじゃ限界があるし」
自分で調べ、厳選し調査に赴く。助けを求める声を逃すこともあるだろう。俺はそれが嫌だった。
そんなことを考えつつ、テレビをつける。
丁度、ダンジョンでもネットが繋がるのはなぜかという番組がやっているようだ。
なぜダンジョン内なのにテレビが見れるかと言えば、ダンジョンネットワークというものが発明されたからだろう。
これはダンジョン産の素材を用いて、魔粒子を量子ネットワークを通じて実現してるらしい。
すると急に番組が変わり、街中の様子が映し出された。そしてリポーターの背後では人が行き交い物々しい雰囲気が漂っていた。
「何が起きているんだ……?」
『こちら、リポーターの山﨑です。現在、静岡は熱海市の熱海ダンジョン前に来ています。あちらの熱海ダンジョンへ通じる入り口があった場所が現在、封鎖されており、一切の出入りができない状況にあります。これは今、話題のテロ組織”キルノー”の仕業だと考えられています————』
と聞こえてきた。
「ダンジョンでテロだと? また奴らか」
最近、巷を騒がせているテロ集団”キルノー”。それは”魔物を討伐するなど以ての外”や”魔物こそ地上で暮らすべき”という思想を掲げる過激派集団であり、構成員、アジトなどほとんどが謎に包まれている。
俺もニュースで聞くくらいのことしか知らないからなぁ。
『ただいま新情報が入ってまいりました。なんとテロ組織であるキルノーから犯行声明が出されたとのことです』
「犯行声明? 一体、何をするつもりなんだ……」
「『我々がどれだけ呼びかけようとも、人々は理解するどころか排斥し始めた。まもなく貴様らに報いが訪れるであろう』とのことです。何をするつもりなのでしょうか……」
アナウンサーが手元の紙を見つつ、読み上げる内容はテロを起こすと言っているようなものだった。
その声明を読み上げ終わった瞬間、それは起きた。
およそ正常とは思えない波形。それも地上で発生している。
「なんだこれはッ!?」
俺は先ほどのニュースを思い出していた。テロ組織からの犯行声明だ。
「まさか……地上に魔物を解き放ったというのか? しかもこれは……ボスクラスだぞ」
眼前で上下する波形は魔力量を表している。そして動き具合から人間ではなく、魔物だと分かる。
ここに先の犯行声明。繋がらないはずがなく、嫌な想像が頭を駆け巡る。
その時つけっぱなしになっていたテレビから慌てた様子で、アナウンサーがニュースを読み上げ始めた。
『ただいま入った情報です! 都内、それもダンジョン外にて魔物の目撃情報がい相次いで確認されたとのことです。周囲の方々は魔物を見つけても決して近づくことのないようにしてください————』
そして画面が変わり、定点カメラで捉えた公道を覆い尽くすくらいの魔物。
俺はそれを見て、違和感を覚えた。波形は明らかに強大な魔物がいることを示していた。
しかし、映像にはゴブリン、ウルフ、ホーンラビット、スライムといった低級の魔物しか見受けられない。まだ何か起きるはずなのだ。
「プルルル……」とコール音が鳴る。
電話だ。
画面を確認すると、探索者協会と表示されている。
薄々なんの要件かは想像つくが……番う可能性もあるしな、出るか。
「もしもし」
『清水 雄真様のお電話でお間違い無いでしょうか?』
若い女性の声だろうか。その声が問いかけてくる。俺はそれに「はい」と肯定の返事を返す。
『緊急の指名依頼を出したく、お電話いたしました』
「街に出現した魔物の掃討ですか?」
『ニュースをご覧になっていたのですね。それもあるのですが……清水様には別のことを依頼したいのです』
予想が外れた。
『これはS級の探索者にしか依頼できないものなのです。そして他のS級の方々にも別の対応をお願いしております』
「なるほど。で、依頼内容は?」
『都市公園に出現したドラゴンの討伐です。おそらくクリムゾンドラゴンの可能性があり、生身では近づくことのできないほど周囲に熱気を放っています』
「深部に出てくる魔物か」
『はい。報酬としては、討伐したドラゴンの素材と報奨金となりますが……』
クリムゾンドラゴン————真紅の鱗に金色の眼が特徴的なドラゴンだ。基本的に交戦的で単独で行動することが多い。また、群れを作らないと言われている。
「分かった。今すぐ向かう」
『……ッ! ありがとうございます! お願いいたします、街を守ってください』
「ああ」
通話が終わり、俺は早速、格納庫へと向かう。
あれから新武装を追加し改修も行い、万全の状態だろう。
「問題はダンジョン内でしか運用したことがないということだが……まぁ、なんとかなるだろう」
俺はコックピットへ乗り込み、手慣れたように起動する。
そしてディスプレイが起動し、コアから魔粒子エネルギーが全身へ供給されていく。
ディスプレイを操作し目的地を、現在いるダンジョンの出口上空800メートルに設定。
直接、地上に出ると混乱を招く恐れもあるしな。飛行機だけ飛んでいるかどうか確認してっと。
————よし、大丈夫そうだ。
正面の壁を開く。
操縦桿を前へ押し込むことにより、エンジンに火が入る。
「発進ッ!」
そして飛び立つ。
「次元跳躍起動」
前方にワープホールを生成。そこへ向かって突っ込んだ。
瞬間、景色がガラッと変わり、青い空が視界に入ってきた。下にはビルや住宅街が広がっている。
「よし、都市公園はっと————向こうか」
レーダーを起動し、飛びながら地上を調査する。
しばらくすると、正面ディスプレイに反応が現れる。魔力反応だ、それも魔物の。
場所は————先にある都市公園。
「そこか」
俺は即座に操縦桿を引き、機体を目標地点へ向けた。魔力反応は明らかに強大なもので、あの波形が示す通り、普通の魔物ではないことが確実だ。
ビル群の上空を飛びつつ、地上の状況を確認する。
道を埋め尽くす低級魔物たちを避ける人々の姿が見え、パニックが広がっているのが一目瞭然だった。
しかしすぐに探索者達が討伐していく様子が見える。
「低級の魔物か……大丈夫そうだな」
次第に反応が強くなり、ついに目的地に到達した。
そこは都市公園だったが、今は荒れ果てて魔物の巣と化している。中央には異様な気配を放つ巨大な影が見えた。
「あれか……」
そしてついに、姿を確認することができた。
真紅の鱗が全身を覆い、鋭く尖った牙が生えそろい、突き刺すような鋭い金色の眼。情報通りレッドドラゴンがそこにいた。
ふと俺は奴の足元が気になり、拡大映像を出すとそこにはフードで顔を隠した不審者が佇んでいた。
「いかにもな格好だな。あいつが呼び出したのか?」
フードを被った人物が手を前に、レッドドラゴンに指示を出すような仕草を見せる。
呼応するようにレッドドラゴンが飛翔、俺に向かって突撃してきた。
どうやら敵も俺に気がついたようだ。
—————————————————————————————————————
最後までお読み頂きありがとうございます!
続きを読みたい、面白いと思っていただけましたら★★★、♡、ブックマークで応援していただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます