第2話 インフェルノォブレイカァッーー!!!!

 殴り飛ばし、土煙を上げながら吹き飛ぶフェンリル。

 すぐに起き上がるだろうが、それまでに状況を確認するため、周囲を見渡す。

 背後に、くだんの探索者が座り込んでいた。

 腰抜けちまってるのか? 一応、見た感じは無事そうだな。

 それにしても……可愛いな。

 ————おっと、集中しないと。

 煩悩を振り払い、フェンリルを殴り飛ばした方角へ視線を戻す。


「さてと……」


 粉塵を掻き分け、起き上がるフェンリル。その体には特に外傷も見られず、先ほどの殴りは効いてないように思えた。


「やっぱり、効いてないか」


 そしてフェンリルが少し姿勢を低くしたかと思えば「ウオォォォォンッ!!」と吼えた。

 次の瞬間、フェンリルの体中に氷柱のようなものが生えてくる。冷気が漏れているのか周囲が凍り始めた。


「なんだ……? 姿が変わっただと?」


 そして再び吠えると、鋭く尖った氷柱を複数こちらへ飛ばしてくる。


「危ねぇっ!」


 なんとか攻撃に反応でき、全て叩き壊すことができた。


「今度はこっちの番だッ! ブレイブソード!」


 武装名を叫び、スイッチを所定のコマンドを入力。

すると剣の柄が排出され、ブレードが生成される。

魔粒子が固まり、形作るそれはダンジョン産で1番硬い鉱石アダマンタイトをも斬ることができる。

 それを掴み、剣先をフェンリルへ向けて構えた。

 俺は操縦桿を目一杯、前へ押し込む。


「いくぞッ!!」


 加速し続け、フェンリルへ斬りかかった。

 対抗するようにフェンリルが氷の魔法を放ってくる。氷柱のように鋭く尖ったそれを破壊し、フェンリルの眼前へ到達した。


 そしてフェンリルの頭から振り下ろし、一刀両断。

 したかに思えた。俺の剣はフェンリルの眼前で氷に阻まれ、停止していた。


「チッ、防がれたか」


 スラスターを逆噴射することで後退し、姿勢を整える。

 だがその隙を逃すまいと、フェンリルが分身を作り出し攻撃してくる。


「ウオォォォォォォン!!!!」

「ハァッ!!」


 氷でできた分身を斬りつけ、消滅させる。


「キリがねぇな—————バスターレーザー!!」


 操縦桿側面、親指で押せる場所にあるボタン、それを押す。

 頭部、目からレーザーが放たれる。それを薙ぎ払うように照射し、全ての分身を消滅させる。

 

「よーし、これでトドメだッ!」


 スイッチを既定の手順で入力し、操縦桿を下へ押し込む。

 すると右手側より、操作レバーが出現。

 それを手前に限界まで引く。

 連動して胸のコアから魔粒子を放出。それを両手の間に集め、球状の塊を形成する。


「インフェルノォブレイカァァァッ!!!!」


 操作レバーを思いっきり前へ倒す。

 この動作により、溜めた魔粒子の塊を正面直線上に放出する技————インフェルノブレイカーを放った。

 対抗するように直線上に進む光線へ向けて、フェンリルが周囲を凍結させる咆哮を放ってくるのが見える。

 だが、インフェルノブレイカーはそんなことで凍結するほど柔ではない。全てを蒸発させながら、フェンリルへ進む。

 そしてフェンリルを貫き、絶命させた。


「魔力反応消失。ふぅ……」


 力んでいた身体から力が抜けるように、背もたれにもたれかかる。

 視線を探索者へと向ける。

 まだ座り込んだ様子で、踊りているのか口を開けて固まっている。


「せっかくだ。出口まで連れっててやるか」


 女探索者の前に手を差し出す。


「……? 乗れってこと?」


 問いかけてきたため、頭部を動かし頷かせる。

 手に乗ったことを確認すると安全な速度で飛行し、ダンジョンの出口まで送り届ける。


 その時、地面をすごいスピードで進む物体がこちらへ向かってきた。そして下を通過する。

 カメラが瞬間を捉え、映像を出す。

 探索者の風貌をしており、切羽詰まった表情で俺の後方へ急行していった。


「なんだったんだ?」


 出口付近には多くの探索者達が集まっていた。

 俺はその集団から少し離れたところに女探索者を降ろす。

 すると集団の中から一人の女の子が飛び出し、勢いよく抱きついていた。

 

 仲間のようだな、よかった。

 それじゃ帰るとするか。


「チェンジ! フライトモード」


 ヒーローはここで無闇に絡まず、去るものだ。

 その方がなんかかっこいいんじゃない?


「跳躍開始」


 基地があるダンジョンへと帰還する。

 

 ダンジョンにあるなんの変哲もない山、そこが基地だ。中を改造して住めるようにしてある。

 山の中腹あたりには開閉できる扉を設置し、普段は木々でカモフラージュしている。それを遠隔操作によって開き、中へ入る。


「ふう……。ギリギリセーフだったか」


 バチバチッとエネルギーが漏れている様子を見て、そう思った。


「まだ改善が必要だな」



 ◆◆◆



「なんだったんだ? あのでかいのは」


 ロボットに抱えられ、ここまで運ばれた女子。燃えるような真紅の髪をショートカットにし、髪とお揃いの紅い目。腰に携えた一振りの刀。活発の二文字が似合いそうな女子、みなみ 涼香りょうかがそう呟く。


「分からない……。ただ、あれが助けてくれたことから味方……だとは思う」


 黒髪に黒目。南のギルドメンバーであり、親友である音町おとまち すずも何がなんだか分からず、困惑した様子で返事を返すしかなかった。

 ただ、助けられたという事実しか残らず……。


「確かに、あのロボット?はフェンリルだけを倒したんだよね?」

「ああ」

「そういえば、まだ涼香も配信してるんでしょ? 視聴者に聞いてみたら?」


 音町が抱えるドローンを指して言う南。


「あっ! そういや配信したままだったわ!」


 忘れていたのか、今思い出したように反応する南。

 視聴者に問いかけ、コメント欄をしばらく見る。


:俺もわかんない

:なんなんだろうな

:たまにネットで見る巨大なロボットに助けられたってこのことだったのかな?


 「ネットで見かけた」や「噂で聞いた」など確証のないコメントや、「聞いたことない」しか書かれず、真相が分かることは無かった。


「ネットで見たことある人がいるにはいるみたいだが……」

「肝心の情報は無しですか」

「だな……」

「仕方ないね」

「けど、礼も言えてないからなぁ……心残りではあるんだが……」

「帰ったら探索者統括ギルドに聞いてみよ。ダンジョンに入ってるなら登録しているだろうし」

「そうだな」


 この後、彼女らは探索者統括ギルドに行くが「そのような人物が登録された形跡はありません」と一蹴されてしまった。

 それもそうだろう。

 先ほどロボットを操縦していた青年、清水しみず 雄真ゆうまは登録しているが、ロボットまでは登録してないため分かることはない。



◆◆◆



「何よ、これ……」


 要請を受け、現場に到着したS級探索者——雪宮ゆきみや れいは困惑の声を漏らす。

 現場には激しい戦闘痕があるものの、要救助者はおらず、フェンリルの死骸が放置されていた。




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