第七話「なりたいのバズり方」
「シノさまのお手伝いをしたいです!」
新作執筆休憩中、アリスは意を決したように俺の前で手を上げた。
「今日の家事は全て終わってます!」
いつものことだが、アリスはやる気に満ちていた。
まぁ、何かやりたいことを探せって言ったのは俺だしな。別に断る理由も無い。
色々やってみないと好きなものは見つからないからな。
「よし! じゃあ今日からアリスには俺のアシスタントをしてもらう!」
「はい!」
元気のいい返事が返ってくる。
しかし、俺は物書きとして素人もいいところだ。
勢いで言ったのはいいものの、ぶっちゃけ、物書きは一人でやるものじゃ無いのか?
うーむ。何をさせればいいのやら。
お茶汲みか? いや違うだろう。
「なにからしましょうか。書き上がったものの推敲を致しましょうか?」
「推敲……? 難しい言葉知ってるな」
「はい! なにかお手伝い出来ないかと色々調べてみました」
推敲とはまぁ、文をより良くなるように確認するって事だ。
成る程。それはいいかもしれない。
人の書いた物語は面白い、つまらないがはっきりわかるものだ。
でも、不思議なことに自分が書いた物が面白いか面白く無いのかよく分からなくなる。
もちろん、面白いものを書いているつもりだけど、書いてる途中で、これは本当に面白いのか? と疑問に思ったり、時間を空けて読み直してみるとつまらないなんてことはよくある事だ。
自分とは違う感性で見て評価して貰ったり、言葉の使い回しの提案をして貰えればより面白い物が書けるんじゃ無いのだろうか。
「……よし。まずアリスにはなりたいの作品を片っ端から読んでもらう!」
「え、推敲じゃないんですか?」
「もちろん推敲もしてもらう。でも、それだけじゃない。まずアリスにはなりたいの分野でなにが流行っているのか、なりたい独特の書き方や文のテンポ、物語の構成……色々勉強してもらう」
処女作の失敗。
俺はあれから俺なりに失敗を分析してみた。
単純に経験が足りないってところもあるだろう。
だからと言って、がむしゃらに書いていれはいつかは評価して貰えるのだろうか。
仮に書いて書いて書きまくって数打ちゃあたるとして、それはいつになる?
一年後? それとも十年後?
ラッキーパンチであたってどうするんだ。
プロは数打ちゃ当たるじゃダメだ。
書いたらそれは必ず面白くなくちゃいけない。
書いたものが面白くて売れなきゃプロとは言えない。
その為の分析だ。
プロになる為に必要な土台。
高いところを目指すなら、ちゃんとしなくちゃいけない。
まず、ライトノベルとなりたいは似ているようで違うものだと俺は考える。
無料か有料かの違い。
プロか素人かの違い。
それももちろんあるだろう。
でも、ライトノベルとは違う、なりたいにはなりたいの傾向がある。
客層が違うんだ。
プロは自分が面白いと思うものを書くんじゃない。
自分が面白いと思って、尚且つ読んでもらう相手にも面白いと思ってもらえる物を書く必要がある。
当然だ。読むのは作者じゃない。読者なのだから。
だから、なりたいの民は何を面白いと思っているのか。なにを求めているかを理解しないといけない。
それが俺に足りないものだ。
考えてみれば、俺はライトノベルこそよく読んでいたが、なりたいの作品はあまり読んだことがない。
俺はなりたいの事を知っていたつもりでいて、てんで理解できていなかったんだ。
「いいかアリス。俺はマジで書いている。だからやるならアリスもマジでやれ」
「はい!」
いい返事だ。
まぁ、アリスはなにをやるにしてもマジだから心配はしていないがな。
「アリスにはなりたいを読みまくって、面白いと思った作品があったら俺にも教えてくれ。俺も読む。逆に俺が面白いと思ったのはアリスにも読んでもらう」
「はい!」
「いいか。読んで面白かったです。終わり。じゃダメだ。
なんで面白かったのか考えるんだ。あと内容だけじゃない。書き方もそうだ。この作品読みやすいなって思ったらなんで読みやすかったのか考えるんだ。そこにはちょっとした工夫があったりする。なんでもいい方向に感じたらなんでよかったか考える。わかったか?」
「わかりました!」
理想を言うのは簡単だ。
どんな事をすればいいのか、正直わからないし、今言ったのが正解なんて、一回も成功していない俺にはわからない。
でもな。
理想を掲げられるか、掲げられないかじゃ全然差が出る。そうは思わないか?
理想は掲げた。
あとはそれを実行できるかできないかだ。
「よし。まず俺が面白いと思ったライトノベル、なりたいのそれぞれ十作品だ」
俺は本棚から何度も読み返したお気に入りのライトノベルの取ってアリスに渡す。
「あの、他の九作品はどれでしょうか」
「それはまだ教えない」
「え……あ! それってここにあるのを全部読んで、他の面白い九作品を当てるってことですか!?」
「違う。今全部教えるとまた寝ないで読むかもしれないからな」
「そ、そんなぁ」
不満げな声を上げるその顔は、今までに見せたことのなかったささやかな俺に反抗する顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます