第27話 幼馴染との夜と、思い出
和弦も幼馴染の後にお風呂に入り、先ほど上がって来たばかり。
濡れた髪をバスタオルで乾かし、自室に戻って来たのである。
自室に入ると、すでに紬の姿があって、タオルを首のところにかけていた。
和弦は無言のまま、ベッドの方まで移動する。
そして今、二人はベッドの端に隣同士で座っていたが、あまり会話が続いていなかった。
時刻は夜の十時頃。就寝しても問題はない時間帯になっていた。
いつもなら十二時頃にベッドへ入る為、少々就寝するのには早い気もする。
「ど、どうする? それとも何かする?」
和弦の方から問いかけてみた。
幼馴染の方を見やると――
「何って? 何かしたいことでもあるの?」
お風呂から上がった、良い匂いがする紬と一緒にいると変に緊張してしまう。
余計な発言をしてしまったかもしれないと思い、和弦は何を話すべきか戸惑ってしまっていた。
「えっと、何かするっていうのは、そういう変な意味合いじゃなくて。なんていうか、何かして遊ぶとか。そ、そんな感じ」
和弦は焦って言葉を言い直すように話す。
「そうね……私はもういいかな。でも、和弦がしたいことがあるなら、私は付き合うけど?」
右隣にいる紬から急に距離を詰められ、ドキッとする。
「そ、そうだよね。今日はもう疲れたよね。じゃあ、今日ももう休もうか」
「うん。和弦がそういうなら、それでもいいよ」
紬は落ち着いた口調で言う。
二人はぎこちない会話になっていた。
どちらかというと、和弦の方が緊張しているだけで、紬の方はそうではないのかもしれない。
「えっとさ、お、俺、別の部屋に行こうかな」
和弦はそんな事を言いだす。
緊張した感情を隠すために、そう言って、その場に立ち上がる。
そもそも、紬がベッドを利用するなら、別の部屋で就寝した方がいいかもしれない。
今日はリビングのソファで過ごすのもいいと思った。
「私、別にいいよ」
ベッドの端に座っている紬はゆっくりと言葉を漏らす。
「え?」
「だから、気にしないし……それに、一緒に休んでもいいよってこと」
紬はその場に立っている和弦を上目遣いで見つめていた。
そんな彼女の仕草に嫌らしさを感じ始めていたのだ。
別に変な事をするわけではないのに、一緒のベッドで休むと考えるだけで、漫画のワンシーンのように卑猥な妄想ばかりが脳内で飛び交う。
「そ、そういう事か」
和弦は自分で勝手に変に解釈しており、彼女から理由を聞いてホッと胸を撫で下ろしていた。
「それで、和弦はどこで休むつもりでいたの?」
「俺は別の部屋でっていうか。リビングで休もうと思ってたんだけど」
「別に、一緒の部屋でもいいんじゃない?」
「な、なんで? 気にならないの?」
「別に……今日は別にいいから」
「本当に?」
「うん……だから、さっきからそう言ってるじゃん、私」
紬が恥じらいを持って話してくれているのが分かる。
幼馴染の顔を見やると、少々頬を紅潮させており、最終的には和弦の方を見つめてくる事はなかった。
本当は最初っから紬の方も緊張していたのかもしれない。
二人は就寝するためにベッドの中に入っていた。
電気のついた明るい部屋。
二人は隣同士で、ただ天井を見上げているだけだった。
「……」
「……」
二人は無言で、先ほどからぱったりと会話がなくなっていた。
体の距離が普段よりもより一層近く、互いに意識して口数が少なくなっていたのだ。
幼馴染とここまで近距離で過ごすのは、小学生以来かもしれない。
小学生の頃。家族同士でキャンプに行った時、同じテントで休んだ時はある。
静まり返った時間帯に、二人はテントから顔を出し、夜空を見上げる事もあった。
昔なら体の距離が近くてもそこまで気にする事無く、普通に会話が出来ていたと思う。
その時の年頃の事を思うと、大分見た目も変わった。
考え方も変わったのだ。
関係性もかなり変わったと思う。
色々と緊張してしまったり、意識して上手く話せなくなってしまう事だってある。
和弦は恥ずかしさを先ほどから隠していたものの、やはり、隣に紬がいると反射的に反対側へと視線を向けてしまうのだ。
「ねえ」
和弦が顔を背けてから少し後、紬の方から話しを切り出してきた。
「な、なに?」
和弦は体をビクつかせるも、ゆっくりと紬がいる方へと視線を向けた。
「和弦……電気消してもいい?」
「い、いいよ」
「じゃあ、私、電気消してくるね」
「い、いいよ。大丈夫だから」
和弦はベッドから出ようとする紬を咄嗟に引きとめた。
「これがあるから」
和弦はリモコンを見せつけた。
それは遠隔で部屋の電気を消せる道具である。
「ここを押せば消えるから。でも、本当に消していい?」
「うん、お願い」
彼女から言われ、和弦はリモコンのボタンを押した。
リモコンを操作してから、自室の照明が収縮していくようにゆっくりと消えていく。
しまいには何も見えなくなっていた。
ただ、真っ暗な空間に支配されているかのようだ。
けれど、ずっと暗闇を見つめていると、目が肥えてきて何となく周辺の状況を把握できるようになっていた。
暗闇に体が馴染んで、ゆっくりと胸を撫で下ろせるようになってきた時だった。
「⁉」
突然、手に何かが当たる。
和弦はビクッと、軽く体を震わせた。
「ご、ごめん」
紬は和弦の様子を伺い、軽く謝っていた。
「べ、別にいいんだけど。ど、どうしたのかなって」
「……手を繋いでもいいかなって。嫌ならいいんだけど」
「いいよ……」
変に緊張しているためか、和弦は声が裏返ってしまっていた。
一応、和弦の方から、右手で紬の左手を触ってあげた。
それからしっかりと手を繋ぐ事にしたのである。
「そう言えば、昔もこういう風に手を繋いでいた時あったよね」
「そ、そうだな。そんな事もあったな」
和弦と同様に、紬も昔の事を振り返っていたのだろうか。
同じ事を考えていたのなら奇跡であり、少し嬉しかった。
「昔、家族とかでキャンプに行ったりとか?」
「そうそう」
紬は相槌をうっていた。
「あの時は楽しかったな」
「そうだね……でも、今も楽しいけどね。二人で、どこかに旅行でも行きたいね。もう高校生だし、今年の夏休みに」
紬は楽し気な口調で返答してきた。
多分、その表情は笑っているのかもしれないが、暗くて全然確認はできなかった。
けれども、先ほどよりも紬は強くも優しく、手を握りしめてきている。
何かしらの想いを今、抱いているのだろう。
和弦はそう思う事にした。
「旅行に行くなら、どこがいいかな?」
「えっと――」
紬と一緒に会話していると次第に眠たくなってくる。
瞼が重い。
ゆっくりとだが、自身の瞼が閉じていくのが分かった。
紬とは就寝前に旅行の事について色々とやり取りをしていたのだが、それ以降の事は覚えていなかった。
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